虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「スネーク・フライト」

toshi202006-10-22

原題:Snakes on a Plane
監督:デビッド・R・エリス 脚本:ジョン・ヘファーナン


 セックス始めたヤク中カップルを皮切りに、噛むわ、巻き付くわ、飲み込むわの、へび101匹以上大行進 on a plane(航空機)!100万フィート上空!逃げ場なし!どすんの、どーすんのよ俺たち!という分かりやすさ。企画としては最高。だのになあ。


 人には相性が悪い作家がいると思う。周りの評判に比して、自分の中ではいまいちな作家が。俺にも当然のことながらいて、その一人がこの映画の監督、デビッド・R・エリス。娯楽作家としての評価は高く、前作の「セルラー」が大評判で、まわりでは絶賛の嵐なのだが、俺にはいまひとつノリきれない映画で、アレー?などと思っていた。題材選びなんかは割と好みだし、本作なんて最高の企画だし、演出だってキレはいい。
 わりとノリノリで見られるタイプの監督のはずなのだが、どうもこの監督の撮る主人公というのが共感の外にあることが多い。


 本作もそう。前売り券もばっちり買うほどに期待していたにも関わらずだ。なんか知らないが、いちいち癇に障るのだ。

 殺人事件の目撃者という証人護送がサミュエル・L・ジャクソン演じる捜査官の任務なんだけど、チャーター機をとってありながら、わざわざリスクの高い旅客機の、しかもいきなりファーストクラスを丸々押さえて、本来そこにいるべき客までエコノミーに押し込んだあげく、今回の大量のヘビを放つその標的はこいつらなのに、彼らのいる場所が一番安全地帯で、どんどん関係ない乗客がヘビに殺されていくのだ。
 しかも彼らに詰め寄った人間たちに詫びのひとつも入れないあげく、逆に説教して乗客を手足に使い始めるあたりでもう、サミュエル、何様?という感じ。安全地帯にさっさと入れてやればいいものを、乗客を一旦エコノミークラスに戻したあげく、犠牲者はさらに増えて、パニックは倍加する。子供はかまれるわ、赤ちゃんは死にかけるわ、犬猫は当たり前のごとく死ぬわ、パイロットも当たり前のように殺されて、それでもこのチンピラ高校生は常に安全地帯に置いておこうとする。もうね、ひどい。「乗客はお前らの盾じゃねえぞ!お前らが盾になってまず死ねよ!」と思うの俺だけ?
 テロとか無差別な悪意があるならともかく、一人だけを殺すためだけにあんな作戦やっちまうという発想もさることながら、無関係な人間巻き込んで平気で、生存者たちが最後助かって良かった良かったというメンタリティの男たちを主人公に据えるのは、あまりに描き手が犠牲者に対して無頓着すぎやしねえか。無事に終わった途端サミュエルナンパしてるし。お前全然責任感じてないだろ!!
 あのデブの嫌みなじいさんにだって、アロハおばさんにだって、家族はいるだろうよ。新郎が飛行機嫌いの新婚カップルなんてお気の毒としか思えない。その辺の想像力があまりに欠けすぎている気がする。そいつらのことを悼むこともなく、サーフィンいこうぜひゃっほーい、と波乗りに出かける主人公ふたりの脳天気さにはさすがに唖然とした。


 飛行機をアレしてヘビを追い出す大作戦や、飛行経験者と名乗る黒人がじつはタダのフライトシュミレーターマニア、という展開はゲラゲラ笑ったりしたので、嫌いなタイプの映画じゃないのに、どうしても昂揚した気分で見終えられずにいた。
 退屈とは無縁の演出のポテンシャルが高さゆえに、ストーリーの(というか主人公の)疵が必要以上に目立って見えるのかもしれないけれど。今回も傑作になりそこねた佳作どまりに見えてしまった俺であった。むむう*1。(★★★)

*1:こういう作品を心から楽しめないと、なぜか負けた気がする俺。