虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「16ブロック」

toshi202006-10-15

原題:16 Blocks
監督:リチャード・ドナー 脚本:リチャード・ウェンク


 体が重い。古傷も痛むし、二日酔いだ。夜勤明け。酒も切れた。早く帰って寝たい。


 そんなとき、上司から呼び出された。だがんなもんどうでもいい。帰ろうとする。呼び止められた。証人の護送をしろと言う。「あの裁判」の。気が乗らないから断ると、この若造、自分の地位を誇示してきやがった。制服組も出払っているという。証人は黒人。緊張しているのか、落ち着きがなく、よくしゃべる。はっきり言ってうざい。酒でも飲まなきゃやってられない。ラッシュアワー。たかだか16ブロックが遠い。耐えられない。
 護送の途中に酒屋に立ち寄り、酒を買う。落ち着く。車に戻る。証人に銃口を向ける男がいた。それが目に入った瞬間。銃声。


 その銃声を契機にして、中年刑事は目覚める。そして気づく。自分が何を為すべきかを。




 この映画にはいくつか、運命を変える岐路が訪れる。選択すべき瞬間というものだ。何かをすべき時。何かをするとき。その瞬間の主人公の行動にはやや不可解な点がある。
 アル中。無気力。現状維持。簡単な仕事ですら寄り道を繰り返す。そんな人生捨てた落ちこぼれの刑事。それなのに。


 そんな男が自らの立場が悪くなる方へなる方へ選択し、行動する。それはなぜなのか。


 最初、それは提示されずに、ただ男が転がり落ちていく暴走をする様がスリリングに描かれる。俺はそのたびにクビを傾げていたのだ。だって、今更正義感に目覚めた、というわけではないだろう。やる気のない、しかも、意味のない任務に固執する理由がわからない。
 しかも敵は元同僚で相棒だった男。未だ刑事課で第一線。かくやこっちは冷や飯ぐらい。しかも半ばその境遇を受け入れている。しょぼくれ刑事が、銃を取ってまで逃げる理由がない。ようにみえる。


 それなのに、必死に救おうとしてくれる刑事に、黒人の信頼も深まっていき、黒人の方も、主人公のために体を張ろうとする。そしてついに主人公が彼に「黒人に固執する理由」が語られた瞬間。
 なぜ、男はしょぼくれていたのか。しょぼくれ刑事をブルース・ウィリスが演じたのか。その全てが明らかになる。そうか。そういうことなのか。すべてに合点がいった。


 「人は変われないなんて嘘だ!」


 その優しき男の真心からの言葉に、男の心は決まる。たった16ブロック。たった2時間。その間に、男が人生すべてに決着をつける「心の旅」。それを観客は目の当たりにするのだ。この映画が分からなかった奴は2回見れ!
 荒唐無稽な要素はあるし、強引すぎる展開もある。だが、この映画のたった2時間に人生が集約されている。人生の苦みを知る大人こそ見るべき秀作アクションである。(★★★★)