虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「もしも昨日が選べたら」

toshi202006-09-28

原題:Click
監督:フランク・コラチ 脚本:スティーヴ・コーレン /マーク・オキーフ



 建築士としてそれなりに順風満帆、家庭も順調。だけど、仕事漬けの毎日にもストレスが貯まりまくっていた主人公は、ある日、複数の機器をまとめて操作出来る万能リモコンを購入しに来た、その店の奥の部屋にいたおっさんから万能リモコン最新型を譲り受ける。しかし、そのリモコンは最新すぎた。「人生」の早送り、一時停止、チャプター選択、音量調節まで出来てしまう、ひみつどうぐ


 たらららったらー♪じんせいりもこんー!


だったのだ。
 だが、このリモコンには便利な機能がいくつもある代わりに、いくつか致命的な欠点があったのだった・・・。


 てなわけで。えー。さて。


 よく言われることだが、「ドラえもん」にはある欠点がある。
 原作によると、セワシくんは自分の境遇を変えるために、祖父であるのび太を真人間とするためにドラえもんを送り込んだとされている。彼の望みは、のび太と「ジャイ子」と結ばれる結果を回避して、のび太が「しずかちゃん」と結ばれるエンディングを所望するわけだが。
 ここにいくつかの疑問が残るわけだ。セワシがもしも本当に、このエンディングを選んだ場合、「彼が生まれる保証」はなくなる。しかも、おじいさんはドラえもんに頼り切りな性格になり、いつまでも変わらずグータラであり、劇的には彼の未来は大して変わらないのではないか。では、そこまでしてなぜドラえもんを送り込んだのか。
 実はセワシは、のび太の孫になんらかの敵意を持つ者なのではないか。その孫の存在自体を抹消させようとする悪意の少年なのではないか。そして、ドラえもんのび太を籠絡する悪魔の機械なのではないかと俺は妄想した・・・こともある。


 えー、前置きが長くなったが。この映画に登場するのはそんな悪意たっぷりの「ドラえもん」である。演じるはクリストファー・ウォーケン


 北村薫の作品に「スキップ」があるが、その発想+「チャプターセレクト」+リモコンの操作記憶、という発想が冴えている。
 喜劇として始まった物語がやがて、リモコンの記憶機能と、人生には「巻き戻し」が出来ない、というある種当然の真理が、取り返しのつかない方向へと突っ走っていく、という展開。さらには「早送りになると、セックスまで早くなる」、って「倍速」*1ネタまで入っている、見事な藤子Fっぷりに感嘆。
 コメディ色を薄めることなく、スキップされていく人生の悲哀を描いていく。可愛かった息子、娘も、容赦なく成長し、思春期らしい変化を見せる。無為に年齢を重ねること、時間を経ることの残酷さを容赦なくガンガン描いていく点も素晴らしい。*2


 ラストのご都合主義はどうよ、という向きもあるかもしれないが、これはこれでいいと思う。「ひみつどうぐ」に頼らずに生きる歓びに躍動する姿に、もう感動している俺がいましたよ。変則タイムトラベルの秀作。(★★★★)

*1:追記:タイトルを間違えてたので訂正。マサさんご指摘感謝。中公文庫「メフィスト惨歌 」所収

*2:お気楽に時間飛ばしたら犬が・・・犬がああああああ!・・・・というくだりは超泣けた。