虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「フラガール」

toshi202006-09-27

監督・脚本:李相日 脚本:羽原大介


 昭和40年代初頭。エネルギー転換期という、時代の流れの中でさびれかけた炭坑町に「ハワイアンセンター」計画が持ち上がる。その設立趣旨は、「炭坑街の炭坑町による炭坑町のための」ハワイアンセンター、である。その目玉としたのは、東京から呼び寄せたプロの指導者による、炭坑町女子によるフラダンスであった。
 夢やぶれた都落ちダンサーのコーチ、家を飛び出してまでダンスに懸けた少女、容赦なく押し寄せるリストラの波に苦悩する少女たちが集い、かくして前途多難な「フラダンス」チームが結成された。


 というわけで、スパリゾートハワイアンズの前身、常磐ハワイアンセンター*1誕生前夜の実話をもとにした、町おこしサクセスストーリーを映画化。
 李相日監督の「69」での様々な経験から、きっちりとした取材に基づいた当時の風俗や意匠の再現と当時の人間ならではの価値観の対立を絡めながら丁寧に多くの登場人物を整理しつつ、きちんとドラマを掘り起こして描ききる脚本と演出は、なるほど、高い前評判も納得の完成度ではある。炭坑町をめぐる厳しい現状と、それを知りながらもそれにしがみつかなきゃならない人々と、「脱工業化」という形での「再生」に賭ける人々の描き分けもなかなかのもの。クライマックスのフラダンスもお見事と言える。言えるんだが・・・


 ただし、がつく。


 個人的にひっかかったのは、終盤の「泣かせ」の連打である。中盤にも「親友との別れ」という物語のヤマがあり、その上で終盤に「親の死に目に会えない厳しさ」「『親不孝』をののしられて号泣するしずちゃん」「去りゆく熱血教師と生徒の絆」「深い溝があった親子の和解」などの泣かせのたたみかけがくるのだけれど、この終盤にややムラがある。このたたみかけがツボにはまる人にとってはこの映画はまぎれもなく傑作となるのだが、個人的にはドラマにややタメが足りないような違和感を持ってしまった。特にしずちゃんの親父の葬式の場面があった後に、すぐしずちゃん松雪泰子を迎えに来る連中の輪に笑顔でまざってたりするのは、流れ的にちょっと変じゃないかい?。
 2時間を10分も超過してまでドラマ周辺を愁嘆場でガッチリ固めるよりも、フラのシーンにドラマを収束していく形に持って行ってくれれば、俺としては「文句なし」だったのだが。個人的に、松雪の「出て行く出て行かない」のエピソードや、植物係の連中のエピソードはばっさりやっても良かったように思う。クライマックスのフラダンスシーンで涙する富司純子、で親子の物語は十分感動的だと思うし。


 とはいえ、この手のドラマとしては丁寧に作られていることは確かで、大傑作とまではいかないが、作り手の思いがパンパンに詰まった愛すべき作品だと思う。(★★★☆)

*1:出来てからの紆余曲折で続編が作れる?もしかして。