虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「森のリトル・ギャング」

toshi202006-08-13

原題: Over the Hedge
監督 :ティム・ジョンソン/キャリー・カークパトリック


 冬眠という行為がある。人間がやらずに、獣たちがする行為なわけだけど、彼らは冬の間、まあ3ヶ月以上寝ているわけである。飯をため込んで。その間に人間ができることなんてたくさんあるわけである。なんつーの?森林伐採とか、新興住宅開発とか。


 この映画、すべての始まりは冬眠という行為によって動き出す。


 ジャンクフードに目がないアライグマのRJは、冬眠中のクマのメシを横取りしようとして台無しにしてしまい、10日間で元に戻さなくちゃならなくなる。そんな彼が見つけたカモは、冬眠中に森が住宅街になったのにも気づかずに眠り続けていた、カメのヴァーンを中心とした、キツネ、オポッサム、スカンク、ヤマアラシの「ファミリー」(まあ、コミュニティといったほうがいいか)だった。なんでカメがリーダーなのかはおそらく永遠のナゾ*1だ。



 そもそも、森林伐採やら住宅地造成は、動物たちにとってシビアな問題である。実際、生真面目な高畑勲監督が「平成狸合戦ぽんぽこ」で容赦なく追い立てられるたぬきたちの悲喜劇として描いた。大体人間が勝手に森を切り開いて住み始めたくせに、住宅街に動物がやってくれば「害獣」扱いとなる。いくらでも悲壮に描けるその題材で、「アンツ」のティム監督や「チキンラン」「銀河ヒッチハイクガイド」脚本などの経験を持つキャリー監督は、森に入り込んできた人間たちのジャンクフード中毒の動物たちが「エサ収奪大作戦」を開始する・・・ように仕向けるチンピラアライグマが主役、という大変シニカルな内容の喜劇に仕上げてしまった。


 むううん。唸った。お見事、である。


 新参者がコミュニティで信頼を勝ち得ていく中で、もともとのリーダー的存在の人間が徐々に信頼を失いハブされていく、という「トイストーリー」的なドラマも押さえつつ、動物たちから見た、人間たちの「特異な生態」と、それを利用しちまおう、というしたたかな動物たち、さらに、環境にあわせて動物たちも「人間社会」に順応していく、という現状も戯画化しながらもきちっと入れるあたり、抜け目がない話作り。
 舞台は、全体が実は街の一角という狭さだが、人間側の「敵」も、容赦ないアニマル・サディストの害獣駆除業者や、神経質な動物嫌いの独善的な女主人など、アクの強さと極悪ぶりなら相手にとって不足なし。動物の存在すら許さない人間が仕掛けた極悪な罠に、人間たちを利用しようとする動物たちの、最後の大作戦が開始される!


 それぞれの物語を動かす際のキャラクターの配置も見事なら、リスのハミーの能力発動(必見!)やら、地球が見えるところまでカメラが引いて爆発、などのナンセンスなギャグも、ビシッビシッと気持ちよく決まって場内爆笑が続く。ここまで気持ちよく笑える作品だとはおもわなんだ。嘘と打算から始まった友情が、やがて、かけがえのない絆となっていく、というストーリーのカタルシスも申し分なし!これほど多くの要素をぶちこみながら、4人も脚本家がいるとは思えないまとまりぶり。笑って泣けて、上映時間たったの84分とは思えぬ充実した内容で、文字通り大人からコドモまで楽しめるシニカルなドリームワークス作品の最高傑作!(★★★★)

*1:物語上、唯一ジャンクフードの魔力に取り憑かれないキャラにするため、だとは思うのだが