虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「明日の記憶」

toshi202006-06-01

監督:堤幸彦


 えー。怖かった。ちょー怖かった。こんな映画だとは思ってなかった。


 いきなり頭悪い文章でごめんなさい。でも、これ、怖い。怖すぎる。ジャンルとしてはホラー映画ではないです。どちらかというと感動系難病ものというジャンルで、そういう意味では、予告編なんかは嘘をついていないんだけど・・・その病気によって失うのが・・・「記憶」。それを保つ力なんですよね。
 難病ものってさー、こういう風にあなたは悶え苦しみながら死ぬ、って話じゃなくてさ、そういう絶望の中で人と人が葛藤の中からドラマを紡いでいったりするのが肝なわけじゃない。そして、そのドラマに涙したりするわけでさ。
 この映画、ガチで記憶が保てなくなっていくという「若年性アルツハイマー」の恐怖を、逃げずに描き切っちゃった映画。なのですよ。特効薬もないこの病気に安易な救いは存在しない。頭では分かっていたのだけれど、ここまで大マジに作られてるとは思わず、下りっぱなしのジェットコースターに乗ってるみたいで、もうひたすら怖かった。



 もうね、オープニングからしてね。ガチですから。




 時は2010年。ちょっと未来。
 都市部から離れたこざっぱりとした建物で、いきなり呆けた顔した渡辺謙が外を見てるわけですよ。樋口可奈子の声にも反応を示さず、そとの景色を眺める姿。
 ゴールがいきなり目の前にでんと置かれる。物語の終着点はここですよと。そして時は2004年へと巻き戻り、物語は終着点へ向けて走り始める。


 つまり、観客、逃げ場なし。



 俺は50を前にしてなおバリバリ働くヤリ手広告マンで、売り込みに成功して大きなプロジェクトが動き出した。しかも体は渡辺謙。ヤクルト飲んで今日も健康。妻は見た目が樋口可奈子で尽くしてくれて、吹石一恵みたいに可愛い娘も出来ちゃった結婚ながらも、坂口憲二みたいなさわやかな好青年と一緒になるという。しかし、最近ね、たまにど忘れすんだよね。俳優の名前とか、出てこないんだよな。ほら、あのほら・・ちょい前に大ヒットした・・・船が沈没する映画の・・・あいつ・・・とか、思い出せないことがね、たまにね、あるんだよ。うん。歳かね・・・俺も。


 ・・・というまあ、きっかけはそんな軽い世間話で笑って済ませられる程度のことなのである。仕事がまったく出来なくなるという状況にもない。俺にはまだ、やらなければいけない仕事が山とあるのだ。と本人はやる気満々。
 しかし、そこから先はひたすらころがり落ちるだけなんですよ。
 軽い物忘れだし、体だりーから鬱病かな、と妻の薦めで病院いったら、精神内科に回されて、ミッチー先生に軽い気持ちで試しにやってみて、と言われた記憶テスト、念のためにと受けるMRI検査、やわらかく「もしかしたら・・・」という形で告げられる、可能性としての「アルツハイマー」という病名。


 そして。正式告知。


 高速道路で降りるべき出口で降りられない、会議の時間を忘れる、名前が思い出せない、道なれた町中で突然迷う、自分では大丈夫と思っていても、自分の知らない行動をしている自分を指摘され・・・。症状は目に見えて悪化しても、仕事に生きてきた俺だブレーキなんて、簡単にかけられない。だが、確実に仕事に支障が来たし始め、やがて、病名は上司にもれ、プロジェクトからハズれ、窓際社員。そして希望退職という形で仕事を離れ・・・



 だが、それはこれから続く苦しみのほんの入り口。


 もう。もう、ひたすら怖いですよ。名前が出てこないとかそんなこと、自分だってたまにありますよ。(たまに?とか突っ込まないで怖いから。)それがこんな結果につながっているだなんて、だれも想像したくない。それでもひたすら壊れていく自分と、世界と、それを引き受けなきゃならないなんて。その残酷をこの映画はまっすぐに描いているのだ。
 主人公はまだ、賢明な奥さんがいたし、父思いの娘夫婦もいたから、まだ、救われている方である。それでも、この苦しみなのだ。物語は、一応、ささやかな救いの光明を持って終わったかのように見えるけど、とんでもないね。この「苦しみ」が「苦しくなくなった」とき。


 それはこの病気の「終着点」なのだ。


 この映画はそれを、「主人公が見た」幻という形でやわらかく描いているが、俺はもうひたすら戦慄しましたよ。下手なホラーよりも怖い。記憶を巡るドラマとしても一級の傑作。
 あなたはこの恐怖に耐えられるか!COMING SOON!この恐怖は実在する・・・・ごめんシャレにならない。ほんと怖い。(★★★★)