虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「寝ずの番」

toshi202006-04-10

監督:マキノ雅彦 原作:中島らも
公式サイト:http://nezunoban.cocolog-nifty.com/main/


 マキノ省三を祖父に、マキノ雅弘を叔父に持つ津川雅彦が、あえてマキノ姓を襲名して挑む監督デビュー作。その題材に選んだのが、中島らもの「寝ずの番」。


 いや、なかなかよい。ここ一番のデビュー作であえてマキノ姓を名乗るだけあって、気合いを入った娯楽映画になってる。話の内容は、上方落語家のとある一門の通夜の「寝ずの番」三番勝負。通夜だけに艶話、というわけでも、今しかでけん故人のあんな話こんな話が、がんがんに繰り出されるバチ当たりな内容。にもかかわらず、噺家だけあって、粗にして野だが卑ではない、ギリギリのところで「粋」に落とす辺りのさじ加減がもう、たまらなく面白い。
 俺にとって津川雅彦というと、子供の頃から、とりあえずやたらとベッドシーンを演じているおっさん俳優というイメージがあるが、実際、監督の演出がこころなしか下品な話に艶をたたえてる、というか、照れがないから、スパっとカラっと笑わせることが出来ている辺りは見事。中井貴一木村佳乃のおっぱいぐわしっと思い切って行く絡みはともかく、笹野高史高岡早紀の絡みまで艶が出てくる思い切りのよさは、さすが津川雅彦、と思わされた。この辺は叔父の雅弘が到達できなかったところではないかしら。


 「外」と「そ●」を間違えるエピソードから始まり、マリファナ失敗談とか、死人のカンカン踊りを本当にやっちゃうだとか、シモウタ歌合戦とか、それぞれの夜にもクライマックスをもうけている辺りが面白く、演者たちの芸達者ぶりもなかなかに堂に入っていて、中井貴一なぞさっすがだなあ、と思う。
 人に人生あり、死人に艶話あり、故人の話をすることで故人の生前の人生が色鮮やかに甦る、という趣向で泣かないわけもなく、特に最後の三夜目はさすがに泣けた。つーか、一門で湿っぽく歌う歌に「次郎長三国志東宝版第六部のクライマックスで次郎長一家が歌ったあの歌を持ってくるのは反則だ。泣けるに決まってるじゃねーか。


 脚本自体に大きな芸がありわけでもなく、良くも悪くもとりとめないのがこの映画の特徴なんで、そこでやや評価が分かれるかも。いやま、ともかく、デビュー作としては大成功、と言っても差し支えないのではないか。いや、俺は好き。(★★★)