虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「SPIRIT」

toshi202006-03-19

原題:霍元甲
監督:ロニー・ユー アクション監督:ユエン・ウーピン
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/spirit/



 えーと、まず言っておくと。この映画、未完成な部分が多い。


 この映画は二十世紀初期のマスター、フォ・ユァンジア(霍元甲)の生涯を映画化したザ・大河ドラマである。が、そもそもこの物語が確実にドラマとして力を持つには、1時間55分という尺ではとても足らない。しかも、アクションもふんだんに入っているんである。それなのに子供時代から、その死までを描こうとするのだこの映画ってば。
 無茶である。
 だからどうしても駆け足になってしまっている。だが、この映画のいびつさは、製作者にとってはもはや、望むところであったようである。


 この映画はハナから、一人の男の説得力に拠って作られているのだ。言わずもがな、主演・製作:ジェット・リー(李連杰、以下リンチェイさん)である。もっと言えば、その肉体から放たれる「動き」によって、である。
 この映画において、ジェット・リーは全開である。アクション、演技力、そして「俺様度」。


 この映画を長年暖めてきた企画で、製作も兼ねている*1ためか、とにかくこの映画のリンチェイさんは楽しそうだ。こんなイキイキとしたリンチェイさんは(俺が見てきた彼の作品の中では)見たことない。子供時代の序盤が終わると、青年時代の話となり、リンチェイさんが出てくるのだが、いきなり子供とおもっくそたのしそうにじゃれ合っい始めるリンチェイさん。
 そのテンションたるや、バカ高である。
 この映画を楽しめるか否かは、もはや物語の力ではなく、彼の「俺様ワールド」でイキイキと動き回る彼のテンションについてこれるかである。


 俺は「ダニー・ザ・ドッグ」を見て、初めてリンチェイ氏の「俳優」としての資質に気づいたのであるが、今回、その演技力は迫真と言っていい。強さを恃みに倣岸不遜になるもある出来事で挫折・絶望を味わい、やがて一人の少女との出会いから武術のあり方を悟っていくまでその演技は確かにすごい。喜怒哀楽を全身から放つように演じる中盤から、やがて静謐のなかに漲る意志を体現してみせる終盤と、千変万化の変わり身を楽しそうに演じている。


 そして、アクションもぬかりなし。暴れるリンチェイ、余裕で敵をおちょくるリンチェイ、全開で敵を「破壊」するリンチェイ、そして、異種格闘技戦において「悟り」の中で穏やかに敵と対峙するリンチェイ。
 おなかいっぱいリンチェイ。とにかく戦いまくりである。
 つーか、物語よりもとにかくアクションを優先し、アクションシーンとアクションシーンつなぐために、物語を大河ドラマの総集編みたいな超ダイジェストにしてしまった感すらある。そういう意味ではストーリー性は浅い。
 クライマックスの展開は、はっきり言ってかなり無茶。俺は見ていてあまりのことに笑ってしまった。んなバカな、って感じである。


 だが・・・、見終えてみると、泣いてましたね。え、今お前「笑った」って書いたじゃん、といわれそうだが、どちらも本当である。
 この映画、ドラマを犠牲にしているが、そこまでしてなぜこの尺でアクションをふんだんにいれたかと言えば、「武闘」に生きた男が、絶望の中から中国の理想を体現した男として復活するまでを描いた、波乱万丈の物語だからである。だからこそ、リンチェイさんはあえて、「みずからの最大の資質」である「カンフー・マスター」としての自分を通して、「武闘」のあり方の成長をアクションを通して描こうとしたのである。


 無茶を承知でアクションで「生き様」を見せようとしたのである。


 その分映画としては、はじめから欠陥を抱えている。にも関わらず、なんでか異様な説得力を放っている。それは、結局のところ、彼自身の考える「理想の世界観」(ていうか理想の中国)の中で、思うがままに理想の人物の人生を体現することが出来る、マイワールドを手に入れた男の喜びの映画でもあるがゆえだろう。


 なので、哀しい結末にも関わらず、そこにはなんでか歓喜の後の様な、いびつな昂揚が広がるのである。そのいびつさは、どこか「ラストサムライ*2に通じるものがある。変な映画だ。大好き(笑)。(★★★★)
 

*1:監督からキャストから全部自分で決めたそうな。

*2:つーか、原田眞人のキャスティングは「ラストサムライ」からのアテ書きにしか思えなかった。俺が笑ったのは彼の異様なハマリっぷりゆえかもしれない。