「鴛鴦歌合戦」(1939年製作)
監督:マキノ正博
「人生には二通り。マキノのある人生とマキノを知らぬ人生だ。」by m@stervision。
恥ずかしながら申し上げると。
生まれて30年と少し。私はマキノ雅弘(当時:正博)という監督の作品を知らずに育ち、まったく無縁に生きてきました*1。まるですれちがわぬ人生。それは不幸なことだったのでしょうか。それは俺にもわからない。
見てみなければわからない。
というわけで、現在レイト公開中の「鴛鴦歌合戦」を見てきましたよ。渋谷のラブホ街・円山町の一角という、オタにはもっとも縁遠い場所にあるQ-AXビルに移転したユーロスペース*2へ。しかも週末ですよ今日。あーた。話には聞いていたが、それはもう酷い有様ですよ。だれだ、こんなとこに映画館建てたの。
上映40分まえくらいに着いてみると、お、ビルの前にひとだかりが。すわ、もしかして大人気?かと思ったらさにあらず。1階のカフェで結婚式が行われていたのでした。おしあわせに(やさぐれ気味に)。
というわけで、3階のユーロでチケットを買う。整理番号1ばーん。わーい。
・・・若い人に知られてない、というのもあるのでしょうが、とりあえず、映画館建てる場所とかける映画のアンバランスさがすさまじいのも、この不入りの原因だと思いますよ。しかも、同じビルにある映画館・シネマヴェーラで「次郎長三国志」全作かけてるって・・・なんのいやがらせ?
まあ、そんなこんなで、開場してみるとお客はぱらぱらといました。うーん。週末なのになー。で、見ました。
物語はと言うと、ご近所に住むイケメン侍(片岡千恵蔵)*3に恋しちゃってる貧乏浪人のはねっかえり娘と金持ち商家の美人で積極的なお嬢様、彼の許嫁で引っ込み思案な武家の娘の、惚れた晴れたな騒動を描きつつ、そこに横恋慕の殿様やら、その親たちの思惑からくる野暮な横やりで、てんやわんやの騒動が起こりますよ、ってな感じの話。
えーえー、そんなベタベッタなコメディミュージカルですよ。でもね・・・
面白い。面白いんです。
見ている間、浮き世の悩みもルサンチマンも消え去り、ただただ映画の世界に没頭する至福の69分。
見終わって思ったことは、二つ。「なんでこんな面白いものを俺は知らなかったのか」という思いと、「いままで見なくて良かった」という思いです。
前者はそのまんまです。超絶楽しい。これほどベタと王道でありながら、新鮮さを失わない、という理想の娯楽映画ですよ。しかも実に明るく健全。文部省はとりあえず選定して、情操教育として全国のお子様に見せなさい。泣く子も笑います。
後者はですね。コレを若い頃に通過してたら、おそらく娯楽映画を見る目が一段厳しくなっていたろう、ということです。今の映画を楽しめなくなりそうで、怖いです。そんな俺が「オペレッタ狸御殿」を見たら、卒倒するぐらい怒り狂ったに相違ありません。そのくらい面白い。しかも、この映画ができたのが、65年以上前なんですから、ビックリですよ。つーか戦前じゃねっすか。それでこのモダンでポップな感性がすごい。なんだこれ。
というわけで、なんですな。いろいろびっくりで新鮮で楽しかった、という思いが先です。後悔にのたうつよりも、ほかのマキノを見てみたい。この世には、俺の知らない面白い映画がいっぱいあるのだ。そう思うと、わくわくしてくる。この年齢でなお。
「マキノをこれから知る人生」。うん。これもまた悪くないんじゃなかろーか。
映画の海は広い。そして深い。だから映画はやめられない。(★★★★★)