虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「THE 有頂天ホテル」

toshi202006-01-14

監督と脚本:三谷幸喜 美術:種田陽平



「今日は本当にありがとう!最高の夜です!」



 映画が始まる。そこはどこかの劇場であり、舞台には幕が掛けられている。そして、ゆるやかな音楽とともにメインキャストの名前がひとつひとつ映し出される。やがて、幕は静かにあがり、映画という名の136分の三谷幸喜新作舞台が幕を開ける。


 最高。いや、もう、最高!下手したら2006年ベストはこれで決まりかもしれない。




 三谷幸喜は舞台の人である。東京サンシャインボーイズ旗揚げ後、彼の中で紆余曲折はあろうとも、端から見れば順風満帆なキャリアであった。舞台では数多くの傑作の演出・脚本を手がけ、ドラマでは「王様のレストラン」というドラマ史に残る傑作を書き上げ、古畑任三郎というキャラを世に送り出し、大河ドラマまで手がけ、そして映画監督としてもキャリアを積んで、本作で三作目、である。
 だが、三谷幸喜という映画監督は、いまだ「映画オリジナル」の傑作をものにできていない。「ラヂオの時間」は舞台脚本が原作だし、「みんなのいえ」は三谷幸喜らしさ大幅減の凡作だった。三谷幸喜は舞台という「箱庭」でこそ、最高の力を発揮できる作家なのである。


 で、本作である。三谷幸喜ファンを自認する私が断言させていただく。映画監督・三谷幸喜、最高傑作。


 三谷幸喜はついに、映画を舞台と割り切ったのだ。この映画の脚本・そして演出は、すべて舞台の常識で作られている。その上で、自らに課したのは、決して舞台では上演不可能な物語だ。
 美術に種田陽平を起用してともに生み出したこの映画の舞台、「ホテル・アバンティ」は三谷幸喜作品で史上最大の「箱庭」であり、史上最大の劇場(ハコ)である。そこで描かれる主要キャスト総勢24人による悲喜こもごもの人間模様。グランドホテルのスイートなのに、「隣から騒いでいる声が聞こえる」などのホテルの常識や映画的リアルから遠い出来事も起こるが、一切無視しなさい。あなたは映画が始まった時点で、三谷幸喜世界というファンタジーの中にいるのだ。
 箱庭を手に入れた三谷幸喜は無敵である。舞台の演出を基調とした長回しを多用し、完璧に物語をコントロールしながら、巨大な空間を縦横無尽に駆けめぐる。そして、それぞれの人間模様はひとつに収れんされていくのである!すばらしい。


 舞台では決して不可能な、映画でしかなし得ない、三谷幸喜作品史上最大前代未聞の舞台劇である。ここには三谷幸喜ファンが求めるものがすべてある。三谷幸喜のテーマパークだ。三谷幸喜ファンならば、是非、満員の劇場で見ていただきたい。ディズニーファンがディズニーランドで感じるような至福の時間が、きっと待っている。(★★★★★)





追記;ザッツ・オールスターなキャスティングもなかなか凝っていて、特に麻生久美子の使い方には感心させられた。エロかわいすぎ。篠原涼子オダギリジョーも一風変わった役で好演し、実力派のキャストもキッチリと仕事をしてみせる。ひたすらカッコいいのに笑える佐藤浩市や、人がいいだけの便利屋のように見えて、実は・・・な役所広司も面白い。
 あと「幸運?の人形」の行方は必見。最後に手にした人間が発覚した瞬間、拍手しちゃった(マジ)。


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