虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「七人のマッハ!!!!!!!」

toshi202005-12-10

原題:Born to Fight



 「マッハ!!!!!!!!」(以下「マッハ!」)のブラッチャーヤ・ピンゲーオ監督がプロデュースしたアクション大作である。


 で、「マッハ!」みたいな話か?と問われれば、全然違う。向こうは「ジャッキー映画」を志向したアクションだったが、こっちは七人の、と冠している邦題で分かる通り、「七人の侍」みたいなシリアス路線である。



 麻薬組織の大物の将軍(夏目房之介似)を逮捕したものの、同僚を失い傷心していた主人公は、妹の勧めでスポーツ協会のボランティアの手伝いをすることになり、とある村を訪れていた。そこにどこからか軍隊が現れ、村人を蹂躙しはじめ、村は完全に彼らの支配下に置かれた。非道の限りを尽くす軍隊の正体は、主人公が逮捕した将軍の手下であった。彼らは村人を人質に取り、将軍の釈放を政府に要求。みせしめに一人また一人と村人を惨殺していく。だが、彼らは将軍を取り戻した暁には、核爆弾を首都・バンコクに落とし、国外へ逃げる腹なのだ。彼らを止められるのは、スポーツ協会から派遣された、「祖国の英雄」(スポーツ選手。演じるのは実際の選手でメダリストクラスの実力者。)の7人しかいない!という話。


 アクションのは、まあ頑張っているな、という印象。全編これアクションだった「マッハ!」に比べると、アクション濃度はそんなに高くない。好みの問題であろうが、「マッハ!」に比べると私はあんまり感心しなかったんだけど、むしろ驚いたのは、この映画に「人権思想」とか「命の大切さ」を謡うようなそぶりが全然なかったことだ。

 そもそも「核ミサイル」があるんなら、「核ミサイル」そのもので脅すのが常道だろ。なんで村人を虐殺する必要があんのか。全然わからん。そもそもの話のとっかかり自体が突っ込みどころ満載なんだが、展開自体が救われないので、重すぎて全然笑えない。敵は村人を人質としながら、彼らに対してひとかけらの温情もみせない。「俺もあまり手荒な真似はしたくない」なんていう決まり文句すらないのだ。虫けら以下の扱い。 しかもこんな仕打ちの理由が、夏目房之介を助けたい、というだけ、という。見捨てて逃げりゃいいだろ。体にも頭にも血の通わない悪党がここにいる。殺される必然性がない上に、無意味に救われない描写が前半のかなりの部分を占めるんで、正直うんざりする。
 で、後半にさしかかってようやく主人公たちが反攻に転じるんですが、そのきっかけがね、また凄い。主人公が、敵と「戦おう」と説得している横で、たまたまラジオから「タイ国歌」が流れて来て、それを聞いた主人公たちを含む全員がタイ国歌を熱唱。そして何をするかと思ったら・・・


 生き残った村人全員で銃を持った軍隊に徒手空拳で特攻


しはじめるのである。えええええええええ。なに?何この展開。しかも作戦「なにもなし」。安い!人命があまりにも安い!七人が村人の命を救うのではなくて、七人が村人全員を死地へと向かわせるんである。何?この映画、本当に近代国家で作られたの?七人の侍とは似て非なる展開に呆然。
 しかもなにげに村人、強い。軍隊と互角に渡り合い、互いに死屍累々。かつてない惨状をモニターで見た久米宏似の大統領も絶句。最後には村中に仕掛けられた爆弾が爆発!村の家屋、爆発で全壊!


 誰が生き残って誰が死んでももはやどうでもいい展開。そして、タイを救った「英雄たち」は村を去っていくのだった。
 傷を負い、家屋を失った村人を残して。
 すいません。村人が不憫すぎて声が出ません。全然なんも解決しとらん。救われたの、バンコクだけで村人死に損かアアアアアッ!?村が復興するまで残ってやれよ、せめて。


 アクションがどうのより、話がひどすぎて別の意味で絶句。いいんですか。村人たち。笑って手を振ってますよ。人良すぎますオマエラ。(★)



追記:俺が見ていて嫌だったのは、どうせ頭の悪い悪党に殺されるんだったら、その命を国のために戦って死ね、という展開に落とし込んでいくところでさ、だったら、村人が受ける理不尽に突っ込みどころがありすぎんのはまずいだろ、と。その賭ける命を安く描いているから、人の死が本当に安い。安く描いてから、安く命を消費させる映画なんで、なんとなく見てて吐き気がしてた。