虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「そして、一粒のひかり」

toshi202005-11-16

原題:Maria full of grace
監督・脚本:ジョシュア・マーストン


 まったく予備知識なしで見たのだが、見終わってから、よーやくこれがアメリカ映画なのだと気づいた。いやー、アメリカの描写が自然で、へえー上手く撮ってるなー、とか感心してたら、監督、実はアメリカ人でしたー、という。主役がコロンビアの17歳の少女で、全編(ほぼ)スペイン語なんでてっきりご当地の監督が撮ったと思っていた。


 うーん。こういう映画がいきなりぽんと出てくるあたりが、アメリカという国の抱える現実の厳しさであり、またアメリカ映画の侮れないところであるなー、と思う。


 アメリカ人監督が撮ったのにリアルなのは、結局のところ、この映画の主人公「マリア」やその仲間のような人々が、実際アメリカに多く渡ってきている現実があるわけで。監督がそういった人々が多く住む地方に住んでいなければ、こういう映画を撮る必然性もない。
 麻薬問題を扱った最近の映画としてはソダバーグの「トラフィック」があるが、あれはあくまでもアメリカ人の視点から俯瞰した、「今、そこにある危機」を描いた作品。だが、この映画はあくまでも、異国・コロンビアの一少女が出会った麻薬に関する壮絶な体験を、彼女の目を通してサスペンスフルに描いていく。


 17歳のマリアは生花を商品にするための加工作業をしている。乳児を抱える姉をはじめ、女ばかりの家族はマリアの収入を当てにしており、彼女はプレッシャーを感じながらも日々を過ごしていた。そんな中、深く愛し合っていたわけでもない彼氏の子供を妊娠していることに気づいたマリアは、結婚はせずひとりで解決しようとする。が、上司と職場で衝突し仕事を失ってしまう。偶然出会ったフランクリンから“ミュール(麻薬を胃の中に飲み込んで密輸する運び屋)”の話を聞いた彼女は、危険だと知りながらも5000ドルという報酬に、仕事を引き受ける。


 閉塞感に駆られて(いや実際かなり閉塞してるんだが)、現実からドロップアウトしようとした少女たちを待ち構えているのは、コロンビアに浸透しきった麻薬産業の業者たち。金も希望もなく、差し迫った現実にもだえている少女を、彼らは組織の末端たるアメリカへの運び屋として利用する。
 「白人は馬鹿だから安全ねー」とかうまいこと言っておきながら、カプセルにつめて麻薬そのものを胃の中につめこむ、というリスクバカ高な方法で彼女らを使い、そして死が差し迫ったら、生命よりも麻薬をすべてにおいて優先し、捨てていく。
 そしてアメリカの空港職員も当然バカではないので、彼女らのような存在は熟知していて、そう簡単に通すはずもない。そしてそこを抜けたとしても、麻薬を「排出」できないときには、非情な運命が彼女らを待ち受けるのである。


 邦題の「一粒のひかり」はいい邦題と思うが、この映画、アメリカ人としてはそう安穏と「ハッピーエンド」とは言えないのではあるまいか。ひとりの少女の成長を描きながら、大局的にみればこういった移民は年々増えている現実を垣間見ることもできてしまう。娯楽と社会性が見事に合致した、恐ろしい映画だと思う。(★★★★)


追記:全然関係ないけど、予告編で能登麻美子がナレーションしてるってことは、日本語吹き替え版は彼女で確定なんすかね。能登声のカタリーナ・サンディノ・モレノ・・・。見たいそれ。


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