虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「空中庭園」

toshi202005-10-17

監督・脚本:豊田利晃 原作:角田光代


 秘密や嘘をもたない。それが、その家族の絶対のルールだった。


 団地と呼ばれる、地方都市のとある集合住宅。そこに居を構える京橋家は、朝食には必ず顔を合わせ、夕食の家族団らんもかかさない。オープンテラスには色鮮やかな花が咲き乱れている。子供をどこで仕込んだ、とか、いつ初潮を迎えただとか、そういう秘密すら共有してきた。笑顔の絶えない、秘密と嘘のない家庭。それは、母親・絵里子(小泉今日子)が家族に課した決まり事によって成立していた。。
 だが、それは(当然のことながら)欺瞞の上に作られたものであることが、映画が進む事に露わになっていく。夫婦は5年ちかくセックスレス。夫(板尾創路)には愛人*1がいて、娘(鈴木杏)はいじめから逃れるために、学校をさぼっている。中学生の長男も、さぼりがちでふらふらしている。そして、母親もまた、パート先で、嘘の告げ口をして気に入らない娘を追い出そうとしたりする、不安定な面を見せ始める。だが、それでも彼らは家に帰ってくる。そして、明るく幸せな家族を「演じて」いくのだが…。


 オープニングから家族の会話、そして出勤、通学のシーンへ。タイトルが出てくるまでの、この一連のシーンが印象的だ。明るくあけすけな会話をする家族だが、それぞれがひとりになったときに見せる、アンニュイな表情。それらが浮遊するように揺れるカメラから映し出される。
 小泉今日子演じる絵里子が抱えるある「秘密」によって、「秘密と嘘のない」家庭が出来上がっている皮肉。そんな家庭が生み出す苦しさ。そんな家庭にやってきた二人の訪問者によって、家族の虚構が一気に崩れ去っていく。


 このまま行くと、よくある家庭の崩壊劇なんだけど、この映画はさらに、絶望の中にもうひとつ、ささやかな希望を指し示す。秘密と嘘のない家庭を描くことで、逆説的に浮かび上がる、秘密と嘘の重要性。所詮は個の集積である家族。だからこそ、それらは必要なのだ。
 その家族が幻想なら、そこに愛はない?そんなことはないのだ。絵里子が望んだ形とはまた別な形で、幸せはやってくる。


 監督の不祥事*2で公開館数が減ってしまったことが悔やまれる秀作。必見。(★★★★)


追記:
 あと、キャスティングが素晴らしい。小泉今日子の存在感もさることながら、特に物語の重要な鍵となる祖母役に大楠道代を持ってきたのは慧眼。小泉今日子の母親なんだけれども、どきっとするほど声質が似てるんだ、この二人。実質上のクライマックスと言える「最後の晩餐」のくだりでの二人きりで会話する場面はすばらしい。
 あと父親役の板尾がね。いいねいいね。押しすぎてもダメ、引きすぎてもダメ、という難しい役どころを見事に演じきってる。もしかしたら、役者として面白い存在になれるかもしれない。


公式サイト:http://kuutyuu.com/

*1:ソニン(笑)。これ以上ない存在感。

*2:覚醒剤所持でタイーホ。作品に罪はない…と思うが故に、監督の罪はかえって重い。