虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ライフ・アクアティック」(DVD)

toshi202005-09-25



 「天才マックスの世界」「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のウェス・アンダーソン監督最新作。


 映画館で見そびれて、レンタルDVDでの鑑賞と相成ったわけですが、さて。


 海洋冒険家として世界的名声を得てきたスティーブ・ズィスー。彼とその仲間たち「チーム・ズィスー」は、航海の最中、幻の怪魚“ジャガー・ザメ”に出くわし、チームの長老・エステバンがその餌食となってしまう。だが、その冒険を記録した新作映画は散々な酷評を受け、次回作の契約も打ち切りに。さらには愛妻のエレノアも別の男の元に去ってしまうのだった。落ち目となったズィスーの前に「たぶん、アナタの息子です」という若者が現れる。ズィスーは彼をチームの一員に迎えると、“ジャガー・ザメ”を追って最後の冒険に繰りだすのであった…


 箱庭的世界。内省世界と外界の隔絶。章立て構成。圧倒的ディテール。低予算映画とは思えぬ豪華キャストが演じる、個性的かつ変なキャラクター群。そして(疑似)家族の崩壊と再生というテーマ。アンダーソン印のかっちりした決まり事は健在なのだが、今回の舞台は海。スティーブン・ズィスーー率いる「チーム・ズィスー」の面々と、彼らが暮らすベラフォンテ号を今までのアンダーソン的内省世界だとするなら、海は我々と地続きの「外界」である。
 アンダーソン監督の手腕はさすがというべきもので、そのディフォルメ感覚溢れるディテールを組み合わせて、船を輪切りにする荒技まで使用。疑似ドキュメンタリーのフィルターと、箱庭的虚構というフィルターを巧みに使い分け、まさに縦横無尽にカメラを駆使することで、魅力的な世界を生み出してみせる。そこに現れる人間模様も、様々な感情や因縁を孕みながら重層的にドラマを描いてみせる辺り、堂々たるものだ。まさに完璧!…のはずなんだが、どうも、いまいち乗らない。


 なんでかと考えてみると、ウェス・アンダーソン監督はあるミスを犯しているからだ、と気付く。箱庭的世界に人生やドラマを詰め込んで、ディテールを飾り立てて魅せるアンダーソン節であるが、こと本作に関して言えば、その内省世界の範囲をベラフォンテ号に留めるべきであった。ディテールの飾り立てを、監督はモーションアニメの第一人者・ヘンリー・セリック監督に海洋生物を担当させることで、「外界」にまで広げてしまっている。確かに海洋冒険ものという題材である以上「外界」からの干渉は避けられない要素ではあるのだが、それは監督本来の「外界」と「作品世界」の隔絶という魅力が損なわれてしまうし、「疑似ドキュメンタリー」という要素を持つこの作品にしては虚構が勝ちすぎてしまう。なにより「外界」は「未知」のままで残さなければ、虚構の「箱庭」を現実的な「外界」でくるむことで、獲得してきたリアリティーを手放すことになってしまう。また、銃撃アクションなどにも挑戦しているのだが、疑似ドキュメンタリーという題材故に、かえって嘘くささが増してしまい、どうにも見ていて困った。


 箱庭で重層的に起こる人間模様と、海洋冒険ものという題材を組み合わせて魅せる剛腕はさすがなんだが、それらが有機的に結びつくことなく、霧散してしまう感じがするのが非常に惜しい。
 その代わりと言っちゃなんだけど、キャスト陣の演技は言うことなしなので、お気に入りの役者がいれば是非。特にビル・マーレイの演技は出色。この人は本当にコメディアンとして、かなり面白い位置にいる人だと思う。(★★★)