虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「プライドと偏見」

toshi202006-01-19

原題:Pride & Prejudice
監督:ジョー・ライト


 21世紀初頭。日本にツンデレという概念が一般化した。だが、ツンデレの先進国はどこか、と言えばイギリスである。根拠は?この映画である。正しく言えば、この映画の原作である。


 というわけで、イギリスではおなじみの古典「高慢と偏見」の映画化である。えー、さて。


 「高慢と偏見」はジェーン・オースティンによって18世紀に書かれた、イギリス文学の古典である。その内容は、といえば、「身分違いの恋」という、題材としては実にありふれたものだ。恋愛に至る二人は、大地主で愛想のない性格で有名なダーシー氏と、決して裕福な家の出ではないが鼻っ柱が強く知性のある5人姉妹の次女、エリザベス。この二人は、舞踏会で出会い、一目で相手に惹かれるものを感じる。
 しかし二人には問題があった。身分の差もあるが、もっと重大なことだ。


 ふたりはともにツンデレだったのである。


 イギリスの古典。なのに、いきなりツンデレ頂上決戦。男子の側も女子の側もそろってツンデレである。イギリスは200年以上、この物語と親しんできたのだ。ツンデレの素養が違う。「ブリジット・ジョーンズの日記」で一躍有名になった英国男優・コリン・ファースは、イギリスでブレイクし、「ブリジット」に起用されたのは「高慢と偏見」のダーシー卿を演じたのがきっかけだった、というのはつとに有名な話だ。つまり、彼はツンデレキャラとしてイギリスでブレイクしたことになる。

 5人姉妹はそれぞれ、立派な連れ合いを見つけようと必死だ。なにせ、女性には財産相続権がなかった時代である。それゆえに必死に立派でイケメンでお金持ちの男を落とそうと、必死になるのだが、そういったものにいささか魅力を感じられずにいたのが、エリザベスである。そんなどこか現実離れしたところも含めて、ツンデレ・ダーシー氏は惹かれたのかもしれぬ。


 で、この映画で、エリザベスを演じるのは見事な美貌と見事な貧乳っぷりがアンバランスなキーラ・ナイトレイ、英国女性の垂涎の伝統ツンデレ男・ダーシー卿に新鋭・マシュー・マクファディン
 話を進めるさい、ツンデレ同士だと、お互い意識はしてるんだけど決して表に出すことはない。口を開けば、言葉の皮肉と、さりげない攻撃の応酬が続く。なにせツンデレである。デレデレに至るまでに、ツンツンしないと始まらないのである。しかし、その辺はツンデレの国である。もう、こういうのはお手の物といわんばかりの演出の妙を見せる。
 例えば舞踏会のシーン。ヒロインがつと目をあらぬ方向にむける、するとそこにはダーシー卿がいる。しかし、こちらに気づく様子はない。そしてダーシー卿がカメラの方に目を向ける。カメラは彼女のいた方を映すがそこには彼女はいない・・・というような、絶妙のカメラワークで、ふたりの視線の行方を追うことで、視線も気持ちもすれちがう二人の関係を紡いでいくのである。


 やがて二人は、お互いの心に気づいていくが、なんせツンデレなので、小さな誤解は簡単に大きな溝になる。ダーシー卿には親友の妹と、幼いころに決められた婚約のとりきめがある、などというベタなネタも織り込みつつ、素直になれないふたりは、どういう決断をするのか!?というところへと落とし込んでいく。


 いやあ、ツンデレっぷりで言えば、完全にダーシー卿の勝利かもしらん。ツンツンの裏に隠された、デレデレっぷりは、さすが英国女性を200年以上虜にしてきただけのことはある堂の入ったもので、一旦デレモードに入ってしまえば、ヒロインのために見事な行動力で尽くす。その落差にこそ、彼の魅力がある。
 無論、キーラたんが演じるエリザベスもいいのだが、表情が柔和なのでいささかツンな感じが弱い。その代わり、天衣無縫な感じで屈託なく笑う笑顔は大変キュートなのだが。


 というわけで。ツンデレツンデレに恋をする!というなかなか一風変わったラブコメとして、あまり肩肘はらずに見て欲しい一作であります。いいのか、こんな締めで。まあ、いいか。(★★★)