「大停電の夜に」
監督:源孝志 撮影:永田鉄男
大停電。実際起こったら大パニックだろうなー、とか思うのだが、そんな事象をロマンチックに彩った群像劇。様々な事情を抱えながらクリスマスを迎えた人々の、大停電から始まる人間模様を描いた作品。
源孝志は各エピソードに最低限のつながりはもたせながらも、無理に一本の線にまとめようとはしていない。その辺がちょっと物足りないところではある。
一応メインの話は豊川悦司なんだけど、むしろこの映画で八面六臂の大活躍をしてるのだは田口トモロヲで、しかもトモロヲもてもてだったりする。余命3ヶ月のオヤジを見舞ったその後に不倫相手と清算し、妻との関係を修復しつつ、生き別れの実の母と逢い、それで最後に地方に飛ばされたことを妻に告げるのであったと。それにしてもせわしい。
この映画で一番ドラマチックだったのがトモロヲでその他のエピソードは・・・彼の物語の外伝になってしまったような感じはあるかな。トモロヲ活躍させすぎて、淡白になっちゃった印象はあるな。宇津井健にしろ、吉川晃司にしろ、もう少し大胆なドラマが欲しかったところだが。
豊川悦司の話に感動できないのは、結局のところ落ちぶれたミュージシャンくずれのジャズバーのオヤジのくせに、格好良すぎるからで。落ちくぼんだ彼の人生に田畑智子(向かいのろうそく屋)という天使が降りてきた、という風ではなくて、なんか彼女がかっちょいい男の店にちょっかい出しに来た近所のプチストーカーに見えちゃう。豊川悦司がしょぼくれてればさ、最後に「待ち人来る」というクライマックスも感動できたのだろうが、彼ってば「俺のやるせない悲しみ」をジャズベースに乗せて表現しちゃうんですもの。格好良すぎて、「かーっ、ぺっ」って感じですぜ(えー。
だが。とにかく永田鉄男氏の撮影が素晴らしくて、それで映画が大分救われている。ここまでフィルムにこだわれば映画は、映画足り得るのだ、という実例を出されたような気がする。全編の8割方停電しているこの作品において、そのような闇の中でこそ映える画を重要視した英断は素晴らしいと思う。脚本は、オチを含めて今一歩踏み込みが甘い*1感じなんですが、日本映画にしては久々にリッチな感じのするファンタジーではありました。(★★★)
追記:全然関係ないけど、この映画で原田知世がインスタントコーヒーを飲むシーンで、しっかり銘柄が「blendy」だったのは、さすがだなーと思った。