「シン・シティ」
原題:Sin City
原作:フランク・ミラー 監督・脚本:フランク・ミラー/ロバート・ロドリゲス
一晩共にした娼婦のために復讐する前科者、元・恋人のために警察と渡り合うハメになった脱獄犯、昔助けた少女のピンチに再び立ち上がる老いた元・刑事。「ベイシン・シティ」という悪徳と腐敗がはびこる街を舞台に織りなされる、3つの物語によるオムニバス群像劇。
世界一正しいアメコミ映画。結論から言えばそう言う映画である。
グラフィック・ノベルである原作を、ロバート・ロドリゲスが原作者フランク・ミラーを共同監督に迎えて映画化したこの作品。コミックの原作者が監督をすると、絵に演出が追いつかないという例も多分にあるわけだが、ロバート・ロドリゲスが原作者に敬意を払ってサポートに回ったことで*1、演出面でもキャスティングも文句なし。コミックとしての完璧な絵だけでなく、映画としての強度まで手に入れた幸福な作品となった
えぐい暴力が頻発する映画だが、殺伐な後味が残らないのはひとえに徹底された「実写のコミック化」と優れた編集の妙であろう。3人の主人公たちも、他のキャラクターたちも、基本的に、銃で撃たれたくらいでは簡単に死なないタフな奴ばかり。なので、観客の間口を結果的に広げることに成功している。
物語は基本的にはハードボイルドで過激なんだけど、同時に一人称のモノローグで語られる内省的な物語でもある。主人公たちは常人にはない男としての強さを持つがゆえに阻害され、常に寂しさを抱えている。自分を醜男と自嘲するマーヴ、運んでいる死体が喋る幻覚を見てしまうドワイト、老いている自分を嘆くハーディガン。彼らはそれぞれに繊細さを隠し持っている。故に愛を、優しさを欲する。
そんな彼らが「命を賭けるに足る」女性を見つけたとき、彼らは血に染まった手を、再び血で汚していく。優しささえも罪によって手に入れる街。シン・シティの名は伊達ではない。
復讐に手段を選ばないマーヴ→街を仕切る女たちのために命をかけるドワイト→少女のために命を賭けるハーディガン、という構成も、いい。過激さが徐々に薄まることによって、この物語が、暴力とともにある「愛」の物語であることが明確になった。
ただし。物語は3つの物語が並列されているけれど、物語が組み合わさって深化することはない。それぞれの生き様が絡み合うことはなく、ただシン・シティという殺伐とした世界が重層的に浮かび上がるのみである。ゆえに、まとめて見た後の余韻はそれほど深くはない。
それでも、この映画が放つ映画の新たなる可能性は、「必見」と言い切れる。コミックスの映画化の、新たなる指針かもしれない。(★★★★)
公式ページ:http://www.sincity.jp/
*1:ロバート・ロドリゲスってストーリー・テラーとしてはイマイチなので、サポート役に徹した方がいい仕事すると思う俺。