虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

今週のプラネテス-ΠΛΑΝΗΤΕΣ- PHASE.25「惑い人」

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●あらすじ(公式ページより)
ついに木星往還船フォン・ブラウン号の乗員選抜試験に合格したハチマキ。久しぶりにテクノーラ社にやってきた彼は、そこでタナベが地球に戻っていることを知る。木星へ出発する前に実家に戻ったハチマキは、バイクでタナベの実家に向かった。だがその途中、事故を起こしてしまう。


●メモ

 惑い人(=ΠΛΑΝΗΤΕΣ)、愛へと還る。


「…同じく船外活動員・星野八郎太。以上18名がフォン・ブラウン号の選抜クルーです。」


 あのテロ事件から半年が経過。ハチマキはついに木星乗員試験を突破し、晴れてフォン・ブラウン号のクルーとなった。サリー、レオーノフも選ばれる。


「行く…。どこに。どこに行くんだ。俺は。」


 記者会見中だというのに、心ここにあらずのハチマキ。「木星へ行く動機」について尋ねられたハチマキの答えは要領を得ない。


「おいおい、虫だよ虫。」


 フォン・ブラウン号で作業中、ハチマキは蚊をつぶす。潰した蚊をじっと見るハチマキ。脳裏にはおそらくハキムの声が聞こえている。




 「ああ、そうだ。その目だ。蝿を潰すのと同じ感覚で自らの邪魔する者を排除出来る…。その引き金を引けば君は完全に生まれ変わる。先へ進むことしか知らないブレーキの壊れた生き物に。」




ガリレオ開発が強引に動いたみたい。」
「よく知らないけど、セキュリティの問題でしょ?」「…にしても複雑な手続きが増えすぎだ。全部の情報を把握しているのってドルフ社長だけなんじゃないか?」


 例のテロ事件の発端がテクノーラ本社が推進した外部からのエンジン非常停止装置だったので、木星計画に対するテクノーラの発言権が弱まり、その結果、ドルフ率いるガリレオ開発が木星計画全般の権限を掌握しつつある。


「地球に降りてねえ…ピクニック。テムズ河の河辺でね。」


  サリーの休暇の過ごし方。


「こんなところで二日もなにやってたんだ。」


  ハチマキの休暇は月に降りて二日もピクニック。いや、冗談じゃなくて。


「帰る…。どこへ。どうやって。」


 行く場所も帰る場所も分からない。闇へと踏み越えてしまった意識は、後戻りする方向すら見いだせない。



「おいチェンシン、久しぶりに人を乗せているんだから、思い切り緊張しろよ。」


 第2話以来の名もなき(あるんだけど)機長の名台詞、再び。…というわけで、チェンシン、3話ぶり(半年ぶり)に航宙旅客機パイロットに復帰。




「これ、タナベくんの住所と電話番号。」「大丈夫なふりしてたけど、会いたがってたよ、ハッちゃんに。」「木星に行く前に一度くらい…な?」


 ゴローに連れられて地球に帰る途中、デブリ課に顔を出したハチマキは課長とラビィからタナベがテクノーラを辞めたことを伝えられる。二人の仲を心配するラビイたちはタナベの居場所を教える



・夕暮れ。風力発電の発電機。伸びる人影。




「ああ、もういいや」
「ごっそうさん。」
「ハルコさんのトンカツ喰えばなんとかなると思ったんだかなあ。」「深刻ねえ…」


 九十九里の実家に帰ったハチマキだったが、キュータローとゴローが親子で醜いまでの奪い合いを見せるほどのハルコさんのトンカツですら箸もつけない。


 ハチマキは寝ようと布団を用意しているときに、デブリ課からうっかり持ってきてしまったタナベの遺言状がジャケットから落ちる。


「どうせ愛がどうとか書いて…」


 何の気はなしに読んでしまうがそこに書かれていたのは…。


 突然ハチマキはバイクに乗って北へと向かう。




 バイクを走らせる間、ハチマキの脳裏にはタナベとの思い出があふれだす。




「おい、後悔してるのか、まさか。甘いんだよ。いまさら誰かにすがろうなんて。」


 そんなハチマキの前に現れるもう一人の「自分」が諭す。「人間は所詮一人」なのだと。




「何もない。独りだ。一人だけ。そうだよ。俺がそう言ったんじゃないか。俺がそう望んだんじゃないか。だけど、ここじゃ、ここは…」


 物思いにふけるうちにガードレールに接触して海へと投げ出されるハチマキ。沈んでいく意識の中で、孤独な自分を突きつけられ、あわてふためく。人は一人だと、思いなおしたばかりなのに。


 孤独な闇にもがくハチマキの前に現れたのは…ハキム。





「撃てよ。そして修羅に堕ちるがいい。」





「口先だけの決意じゃなかった。断ち切るつもりだった。殺すつもりだった。けど、弾が出なかったんだ。俺は引き金を…引いたのに。」


 意識は半年前のあの日、あの瞬間に戻る。確かに、ハチマキは引き金を引いた。だが…殺せなかった。




「俺のせいじゃない。じゃあ、だれのせいだ。………だれのせい?いや、何のおかげだ?撃たずに済んだのは何のおかげだ!?」


 ハチマキ、目が覚めたようにいう。「何のおかげ」か。

 撃てなかったんじゃない。撃たなかったのでもない。

 撃たせなかった。…何が撃たせなかったのか。



 誰かがハチマキに近づき、手をさしのべる。



 そしてハチマキは「宇宙」を見る。





「これが宇宙!?じゃあ、俺が今まで見てきた宇宙は何だったんだ?」



・闇夜に現れる車いすの人影。タナベとの再会。光によって浮かび上がる風力発電機。


 原作ではタナベの親父さんは、風力発電の管理をする仕事をしている。設定が原作に準拠しているのならば、タナベが真夜中に散策していたのは親父さんの職場、ということになる。


・あの日の話をする、タナベ。孤独と恐怖の記憶に震える手。ハチマキのポケットに遺言状。


・ハチマキは遺言状を渡し、無断で読んだことを詫びる。


「…去年はちゃんと書いたんです。育ててくれてありがとう、とか、さようならとか、ごめんなさいとか。でも、実際の宇宙で色んなことを経験をして、先輩もいなくなって、今年また新しく書けって言われたら、何も書けなくって。先輩に散々言ったくせに。でもどんな言葉も違う気がして。」


 最初に二人が共有するのは「互いの孤独」。


 ハチマキはタナベに、新たに見出した「宇宙」の話をする。


 そして最後に二人が共有するのは互いの手の温もりと…。





●雑感。

 タナベの建前だけの愛が孤独の前に解体されて、やがて新たな形で組み合わさるとき、本当の愛に変わる。

 愛で全ては救えない。だけど、「繋がる」ことは出来る。


 …タナベの主張する愛をさんざいじめ抜いてきたこの作品で、たった一つ確かな結晶を見せる。お見事。