虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「チョコレートドーナツ」

原題:Any Day Now
監督 トラヴィス・ファイン
脚本 トラヴィス・ファイン
ジョージ・アーサー・ブルーム



 実話を元にしたという、1970年代、同性愛差別がはびこっていた時代の物語。


 歌手を夢見るショーダンサーのルディ(アラン・カミング)と弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)は、ゲイのカップル。ルディはある日、隣の部屋の女性が夜中に出て行ったまま戻ってこず、後に彼女が麻薬所持で逮捕されたことを知る。その部屋で彼女から置き去りにされた息子であるマルコ(アイザック・レイヴァ)を女性の許可をとりつけて保護し、引き取ることにした。女性は完全に育児放棄状態で、覚醒剤中毒に溺れていたのだった。ポールのすすめで、ルディはマルコとともにポールの部屋で住むことになり、一緒に暮らすうちに、2人はマルコを本当の家族のように思うようになる。
 ゲイ差別が厳しかったのもあり、ルディとポールは従兄弟と偽っていたが、やがて2人の関係が露見すると、2人はマルコと引き裂かれていく。ポールは不当に解雇され、マルコは施設に連れられていった。2人はマルコを取り戻すため、法廷闘争に討って出る。だが、法廷の場ですら、同性愛差別とは無縁ではいられなかった。


 マルコと出会い、ショーガールとして生きる道を選び、どこかで夢をあきらめていたルディは、ポールの後押しもあり、前向きに歌手への道を歩み始める一方、3人の「家族」を引き裂こうとする社会の差別の根は深いことも思い知らされる。
 それにマルコはダウン症の子供というハンデも二人に大きく不利に働いた。そして、法廷は「社会のあるべき観念」に基づき、判決を下すことになるのである。


 さて。この映画は非常に真っ当な、「差別」と戦う人々の温かさと、被差別者に対する社会の酷薄を描いた映画ではあるのだが、実を言うと、しばらく考えていたのはマルコの母親の事だった。本来ならば彼女という母親がいるのだから、彼女が愛情をもってマルコを育てていれば、この映画は成立していない。
 この映画では、マルコの母親は、「親失格」の最低な女、という、「憎まれ役」になってしまっている。


 だが、俺は思うのである。
 もしも、ダウン症の息子をを抱えてどうしようもなく追い詰められ、やがて麻薬に溺れていった彼女だが、その前に食い止めることができる社会であったならば。と。
 人間、初めから「悪徳」を持って生きているわけではない。彼女のような女性を生んでしまうのもまた、社会の悲劇と言えないだろうかと。この映画は「被差別者」たちの戦いを描いているから、彼女は「既成概念」の象徴として機能してしまっているが、むしろ彼女もまた、社会に殺された人だと思う時、とても複雑な気持ちで映画を見終えたのを覚えている。


 この映画が描いているのは、幾重にも重なる、社会に押しつぶされる人々の悲劇なのかもしれないと思ったのでした。(★★★★)

「ママはレスリング・クイーン」

原題:Les reines du ring
監督:ジャン=マルク・ルドニツキ




 こちらは打って変わって、女性のセカンドチャンスを描いたフランス発のコメディである。


 シングルマザーで長く刑務所に服役していたローズ(マリルー・ベリ)は、長く疎遠になって心を開こうとしない息子との距離を縮めるために、彼がプロレスにハマっていることを知って、プロレスラーになることを決意する。前科のある彼女を雇ってくれたスーパーマーケットの同僚である、ベテランで現場主任のコレット(ナタリー・パイ)、独身で男好きのジェシカ(オドレイ・フルーロ)、容姿に深いコンプレックスを持つ「精肉担当」のヴィヴィアン(コリエンヌ・マシエロ)を引き入れ、プロレスチームを結成。近所に住む元レスラーのコーチ・リシャール(アンドレ・デュソリエ)の指導の下、レスラーデビューを目指して、ド素人女性たちの七転八倒の日々が始まった。


 素人女性がいきなりプロレスラーデビュー!というアイデアとしては荒唐無稽もいいところだし、レスラーとしての身体や技術が出来上がったとしても、「ショウ」のマッチメイクが素人にそう簡単にできるわけもないので、クライマックスにおいて、わずか3ヶ月で立派にマッチメイクする彼女たちのすがたは、はっきり言えば嘘もいいところなのであるが。
 それでも、この映画がぐっとくるのは、人生の曲がり角にさしかかった4人の女性たちの人生が、仲間とのプロレス修行や、様々な葛藤の中で、再び新たな模索をする映画となっているからである。


いくつになっても人生はやり直せる。しかし、その勇気を持つのは容易ではない。だが、そのきっかけを彼女たちはプロレスデビューを目指す日々の中で掴んで行く。


 だから、紆余曲折のドラマを経て、彼女たちが様々な悩みや葛藤を越える!その高揚が一気に爆発するプロレスシーンは、ベタだけど!嘘だけど!いやベタで嘘だからこそ!より胸に迫るものがあって、私は心捕まれてしまったのである。私は好きである。大好き。(★★★☆)