虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「フューリー」

toshi202014-12-03

原題:Fury
監督 デヴィッド・エアー
脚本 デヴィッド・エアー

「乗るなら早くしろ。でなければ、帰れ。」(「新世紀エヴァンゲリオン」)

 第2次世界大戦末期、ドイツ。連合国はドイツを攻め落とす最終局面を迎えていた。フューリー号はなんとか戦場から生還したものの副操縦士を死なせてしまい、緊急にその代わりが必要となっていた。基本的に戦車は5人の兵士のチームワークがあって初めて十全なポテンシャルを発揮する兵器である。今欲しいのは即戦力となる人材である。フューリー号の車長である「ウォーダディ」ことドン・コリアー(ブラッド・ピット)は、新たな副操縦士として本部から派遣されてきたノーマン・エリソン(ローガン・ラーマン)と出会う。だが、彼は戦場にも出たことのない新兵で、タイピストの青年であった。
 他の3名は北アフリカ戦線以来の猛者ばっかりの中、ノーマンという青年はまだ「兵士」ですらなかった。ウォーダディにとって選択肢はひとつ。戦場経験を通じて、ノーマンを兵士として「教育」していくことであった。


 人を殺すのが当たり前、たった一発の銃弾が自分の命を奪う戦場に否応なく放り込まれた青年から見た戦争であり、そしてすっかり戦場に染まってしまった戦車の車長という「中間管理職」が使えない人材を戦力になるまでたたき上げる苦闘の映画でもある。


 新兵ノーマンの「人」としての一瞬の躊躇が結果として戦車とそのクルーたちを死に至らしめてしまう。敵にかける温情などない。それがたとえ女子供であっても。ウォーダディにとっては至極当然の言葉であっても、ノーマンにとってはそれはあまりに受け入れがたいことである。お前が殺さなければ仲間が死ぬ。何を迷うことがあるか、と言われても。ノーマンはそれでも人を殺すことにためらいを持つ。それは人としては当然の逡巡だ。しかし、兵士としては引き金を引けない兵士はお荷物以下なのである。
 そんなノーマンに、ウォーダディは嫌々捕虜を撃たせて殺させるという通過儀礼を行う。



 そのあとウォーダディはノーマンを連れて制圧した街のアパルトメントも乗り込み、女性二人を発見すると、そこでノーマンに1人の女性とベッドを共にさせた後、食卓を囲む。戦場を離れれば人に戻りたいと願うウォーダディが、まだ人としての繊細な感情を残すノーマンと行動し、そしてクルーとしての絆を深めたいという意図もあるわけだが、その平穏な食卓に土足で踏み込んでくるのが、他ならぬ戦場を共にしている、他のクルーたちである。
 彼らはもはや人としての礼儀をドイツ人女性にかけることはしない。彼女たちを蔑み、そして彼女たちへの嫌がらせを行うなど、尊厳を踏みにじることに躊躇が無い。戦場という「異常」な「場所」に居続けなければならぬ「理不尽」に対する「怒り」を押し殺している人間達にとって、戦場以外の場所でも人としての正常を取り戻すことはムズカシイ。そんな彼らに一瞬、ウォーダディは激しい怒りを見せる。
 人でいることと、仲間のために人を殺す機械であること。ノーマンに兵士として人を殺す「機械」になれと「教育」しつつ、その狭間の中で揺れ動きながら苦悩しているのは、他ならぬウォーダディなのである。



 その後、とある事件を目撃して以後、ノーマンは急速に兵士としての覚悟に目覚めていき、徐々にクルーからの信頼を得ていく。
 戦線はもはや連合国が勝利目前であるが、だからこそドイツは総力を挙げて反撃してくる。ウォーダディが小隊長を務める戦車小隊は戦略的要所である「十字路の保持」という任務に向かう途上、最強と謳われるティガー戦車との対決を強いられることになる。圧倒的性能差を前に次々と他の戦車は撃破され、気がつけばフューリー号ただ一両のみ。なんとか敵を撃破し、十字路に到着するも対戦車地雷を踏み、立ち往生する。そして、索敵していたノーマンは戦闘意欲旺盛なSS大隊を発見する。
 動けない戦車1両、兵士は5人。対するは精鋭300人。森へ待避しよう、という他のクルーたちの言葉を拒否し、ウォーダディはひとりでもここに残り戦うと決意を表し、他のクルーたちも覚悟を決める。


 戦場で生きる男達の最後のより所は「神」である。「つらくて、こわくて、逃げ出したい」。それは誰もが同じ事だ。ウォーダディでさえ。それでもなお、その地獄に居続けなければならぬ「人」の物語。戦争とはかくも残酷でつらく、そして醜い。そんな場所になぜ。俺たちが居続けなければならぬ。それはもはや、「神」にしかわからない。生きて戦争を終わらせるしかこの地獄から抜け出すことはできないのだ。
 今はただ機械になるしかない。そうしなければ「人」として自分の心が壊れてしまうから。弾尽き矢折れ、もはやこれまでかと思いつつ。男達はナチを殺し続ける。


 新兵だったノーマンが戦いを経て、仲間達からもらった二つ名は、彼ら自身の事でもあるのではないか。理不尽に対する恐怖、憎悪、そして怒り。それらを押し殺して地獄にいる。生きねば。生き残らなければ。神にすがり、心を殺した機械となり、それでも彼らに待つ運命は苦い。
 ノーマンの見た戦場は、敵味方関係なく、ただ生きている者が気がつけば「死体」になる。そんな理不尽な現実である。神も見捨てた戦場。そんな現実を容赦なく見つめ描ききった、戦場に生きざるを得ない「人間」たちについての映画である。(★★★★)



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