虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」

toshi202016-08-07

原題:Trumbo
監督:ジェイ・ローチ
原作:ブルース・クック
脚本:ジョン・マクナマラ



 かつて20世紀には「冷戦」と言われる戦争が存在した時代がある。
 世界が二つに割れるという、そこを境に思想も経済も人も分断されていた時代があった。


 1945年に第2次世界大戦が終結した後、世界は「資本主義」を基盤とする国と「共産主義」を基盤とする国に色分けされた。おおざっぱに言えばそういうことになる。
 分断された「向こう側」の思想を持つと言うことを「敵性」とみなし、アメリカ、西側諸国、さらには日本も例外では無く、「共産主義」を「是」とする人々を糾弾、排斥する動きが出てきたのである。
 共産主義アメリカでは1930年代に若者の間で広く受け入れられ、その理想に共鳴する人々は多かった。その時期に共産党に入党したり、その思想に深く傾倒した人々は、「敵性」思想を持つ人物としてリストアップされ、監視と弾劾と、そして事実上の追放の憂き目に遭ってしまったのである。


 それは映画業界も例外では無かった。この映画は、そんな時代の物語である。


 さて。この映画のタイトルは「トランボ」である。


 トランボ。・・・トランボ?トランボって何かね。
 わたしが最初にこの名前を聞いて最初に頭に鳴り響いたのはこの音楽。





 そりゃ「真犯人に最も嫌われた男」。


 てなわけで。この映画の主人公の名前は「ダルトン・トランボ」という。
 この「トランボ」なる人物が何者なのか。


 このひげのおっさんが実際のトランボ氏である。


 まず彼の基本的なプロフィールをさらってみる。彼は1905年の生まれである。
 南カリフォルニア大学卒業後に、雑誌編集者を経て脚本家に転身。1940年に書いた「恋愛手帖」がアカデミー賞脚色賞を受賞し、一躍トップ脚本家としての地盤を築く。戦争映画「東京上空三十秒」脚本や「緑のそよ風」の脚色を手がける一方、のちに自身の脚色で映画化される「ジョニーは戦場へ行った(ジョニーは銃をとった)」などの小説も書くなど多彩な才能で知られるようになる。

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 だが、前述の通り、第2次大戦後、ハリウッドでも「赤狩り」の炎がかけめぐり、その疑惑の10人、いわゆる「ハリウッド・テン」の中にダルトン・トランボの名前があった。事実、彼はアメリ共産党員であり、そして共産主義の闘いに自らの稼ぎを惜しみなく使ってもいた。彼は法廷に呼び出され、法廷侮辱罪で収監された後、事実上ハリウッドから追放。仕事はなくなり、メキシコに移り住む。

 だが、彼はそれでも脚本家であることをやめなかった。彼は偽名を使い、その才能を安く買いたたかれつつも、B級作品をいくつも手がける事で食いつなぎながら、自分が本当に描きたい物語が描ける機会を待った。
 そして、彼が「偽名」で描いた「ある脚本」がアカデミー賞を受賞してしまう!そのタイトルとは?


 これは是非、頭に何も入れずに映画に臨んだ方が面白いので、実際映画を見てから知ってもらう方が良い。


 見終わった私の感想はこれである。


 すごい男がいたもんだ。いや本当にそれだけである。逆境にも負けぬ、強き意志。類い希なる才能。抜け目ない才覚。その強さゆえに、失意のうちに死んでいく「同志」たちの血をかぶってもいる。
 伝説的な実在のハリウッドの大スターや映画監督、脚本家、製作者たちも登場人物として多数登場し、彼の敵となり、または味方となる。
 才能があっても才覚がなければ生き残れない、ハリウッドという残酷な世界で、彼は抜け目なく立ち回り、そして彼が最後に見せるのは、時代が彼に微笑み、そして勝利へと至るその姿である。世界に裏切られ、世間からつまはじきに遭い、逆境に追い込まれた男が、やがて時代の波を味方につけるまでの、長き雌伏の時。この映画はその、長きに渡る苦難の時代にスポットを当てて映画化している。
 そしてラストに待っているのは、時代を味方につけた男の大逆転!巨大なカタルシスのクライマックスである。


 思想弾圧は「人」を、「才能」を殺せる。これは言わばトランボにとって長きに渡る「戦争」であった。彼に遺されたのは「タイプライター」と「才能」と「家族」だけ。それを恃みに彼は世界と渡り合うのである。ただただ平伏するしかないその生き様。まさに「映画」になるにふさわしい「波瀾万丈なる人生航路」である。傑作。大好き。(★★★★★)