「イミテーション・ゲーム」

toshi202015-03-18

原題：The Imitation Game
監督：モルテン・ティルドゥム
原作：アンドリュー・ホッジス
脚本：グレアム・ムーア

「謎」は人間の進化とともにある。知性と悪意と向上心。どれかひとつだけでは生まれない。どれが欠けても生まれない。
（松井優征「魔人探偵脳噛ネウロ」より）

　1951年。ケンブリッジ大学の研究者・アラン・チューリング（ベネディクト・カンバーバッチ）宅に泥棒が侵入。近所の人が目撃して通報するも、被害者のチューリングは「盗られたものはない。」といい、警察を無礼な態度で追い返した。その行動を不審に思ったロバート・ノック刑事は彼の過去を洗い始める。だが、彼の海軍での軍歴は抹消されていた。過去を追ううちに、ノック刑事はチューリング自身の抱えるパーソナルな問題を知るのだが、その件で拘束された彼から取調室で思わぬ告白を聞くことになる。

　1939年。ナチスドイツがヨーロッパ各地を侵攻し始めた第二次世界大戦下。アラン・チューリングは天才数学者として知られる存在だったが、その才能をたのみに英国軍の極秘プロジェクトに参加することになった。ドイツの無線用暗号「エニグマ」はドイツの情報戦の要であり、当時の世界最高難度の暗号である。この暗号を解読することは連合国にとって急務であったが、人力ではほぼ不可能と言われていた。集められたのはチューリングを含む暗号解読のプロ・6名。彼らは全員一丸となってこの「不可能な任務」にまい進する！はずであった。だが、チューリングがし始めたのは、謎の巨大機械の製作であった。そう！彼は天才だけど非コミュなので知らない人との共同作業が苦手だったのだ！ぎゃふん！どうなる、ミッション・インポッシブル！

　思いもしなかった人間が、とんでもない偉業を成し遂げる。そういう実話系成功譚。では終わらない映画である。この映画は人という存在の「謎」にまつわる物語。

　アラン・チューリングの天才性はその圧倒的な数学者としての才能にあるが、彼の原点は学生時代の親友との暗号ゴッコにあった。彼は時折その時の情景をまざまざと思い返す。彼にとっては、その同級生・クリストファーは忘れられない男であった。彼は国外から取り寄せた暗号解読器を改造した巨大機械を「クリストファー」と名づけ、製作に没頭する。そんなチューリングには当然同志たちの不満が噴出する。1日ごとに更新されるエニグマの設定により、解読は難航を極めていた。そんな時に非協力的な態度で自らの世界に没頭するチューリングの態度は反感を買って当然である。
　そんな時に現れるのはクロスワードパズルの天才性でこのプロジェクトに関わる女性、ジョーン・クラーク（キーラ・ナイトレイ）であった。

　彼女は彼の性格を理解し、仲間とのやり取りを円滑に橋渡しする役割を果たし、そんな彼女に偏屈なチューリングも心を開き、ついには彼女との婚約まで果たす。やがて、ジョーンのおかげで仲間との信頼を勝ち得たチューリングは、スパイ疑惑でチューリングが任務から更迭されそうになったときには、仲間がチューリングの正しさを上司に訴えて更迭を免れたことで、結束はいよいよ高まっていく。そして、ついに、エニグマ解読の鍵を彼らは掴み、そして任務を果たすことになるのだが・・・。そこからがまた、彼らを待つ地獄の苦しみの始まりであった。

　暗号を解いたことはドイツに気づかれてはいけない。それに気づいた時、彼らの心に去来するものは「救えたはずなのに救えなかった命」たちの重さである。
　そして、世間には長く秘匿された歴史的事実と、チューリングが親しい人にも長く秘めてきたある秘密。そして、彼の中に仄見える怪物性。のちにコンピューターの父と呼ばれることになるチューリングが、何故機械の中に知性を見出そうとし、その研究にまい進しつづけたのか。その一端をこの映画は示唆する。
　それはたぶん、この映画独自の創作なのだとは思うけれど、その「失われて決して取り戻せないものを欲する」秘めた狂気がこの映画を、決してただの「悲劇の伝記映画」では終わらせない、無数のきらめきを乱反射する娯楽映画としての強度となってこの映画に反映されている気がしてならない。偉業が歴史の陰に埋もれてしまった謎、暗号解読のヒント、ソ連のスパイの正体、そして主人公であるチューリング自身の秘密。この映画には「謎＜ミステリー＞」があふれている。謎が謎を呼ぶ展開が、力強くこの映画を牽引する。
　人は時に、巨大なミステリーを生む生き物である。そんな人間たちの蠢きが、カンバーバッチの名演の求心力もあいまって、実に面白い映画として響きあってると思うので是非ごらんいただきたい。大好き。（★★★★）