「ジャージー・ボーイズ」

toshi202014-10-02

原題:Jersey Boys
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジョン・ローガン


 記憶ってのは自分に都合のいいものだよ。終盤、トミー・デヴィートは観客につぶやく。


 トニー賞受賞のブロードウェイミュージカルの映画化である本作は、かつてアメリカで一世を風靡したフランキー・ヴァリフォー・シーズンズの栄光と挫折、そこからの復活を描く物語。この映画の語り手はメンバーの4人が自らの記憶の「再演」を行う形で進行する。
 地元の影の実力者・ジップ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)に贔屓にされるなど、音楽の才能の片鱗を見せながらも、窃盗などの犯罪行為に明け暮れながらバンド活動を行うフランキー・ヴァリ(ジョン・ロイド・ヤング)、トミー・デヴィート(ビンセント・ピアッツア)ニック・マッシ(マイケル・ロメンダ)たちだったが、フランキーの歌声に見せられて加入したボブ・ゴーディオ(エリックバーゲン)の才能によって意識が「レコードで稼ぐ」という道筋を見つけ、プロデューサー・ボブ・クリューとの出会いを経て、ついに名曲「シェリー」の誕生により、大ブレイクする。
 新曲も軒並み全米1位をかっさらい、彼らは栄光の日々を過ごすが、時が経つにつれ少しずつメンバー内の中でも溝ができはじめ、やがて会計を一手に引き受けていたトミーの借金問題が明らかになることで、彼らの中にある亀裂は決定的なものとなり、フォー・シーズンズはかつてない危機を迎えることになる。



 原作となる舞台の話の流れは、メンバー4人が混成でそれぞれの栄枯盛衰を「回想」する構成であり、彼らのヒット曲満載のミュージカルとしてざっくりとわかりやすく脚色する過程で「真実の物語」というには色々フィクション性の入った物語でもある。つまり、大まかな彼らの人生の流れとしては正確でも、ドラマがどこまでが本当で、どこまでが嘘か、というのは実は細かい部分ではよくわからなかったりする。
 4人で回想するというアイデアのおかげで、ある程度の説得力やリアリティは確保しているが、完全に「すべてが真実!」というには色々と語弊が出てくる場面もある。


 クリント・イーストウッド監督がそんな脚本を映画化する過程でどうしたか。というと、伝記映画として描くよりも、「フィクション」として割り切って描ききってしまうという、試みに出た。と、僕は見終わって思ったのである。


 無論イーストウッド監督であるのでリアリティはきちんと追求しているわけだが、この映画のキモは4人の「記憶」の混成によって物語が出来ているということだ。
 たとえば、である。物語の開幕に今は西暦何年、みたいな字幕は開幕の60年代前半のトミー・デヴィートの登場時と、彼らがロックの殿堂授賞式で再会するクライマックスの1990年のみであることにも顕著だ。
 この出来事は何年の出来事!みたいな記録映画的な正確さは求めていない。フォー・シーズンズの伝記映画!ではなく、彼らの人生をたたき台にした大ヒットミュージカルの映画化として演出している。時代の移り変わりは、俳優達の髪型、ファッション、乗ってる車などの意匠によってざっくりと示されてはいるが、あえてすべて本当のことを描いている!とはしていないところが、この映画の面白いところなのだ。
 それは主役級キャストをすべて映画オリジナルにするのではなく、映画出演経験の少ない原作ミュージカルのキャストを起用していることからも明らかである。


 「物語」の中の人生、たゆやう真実。虚実定かならぬ「記憶」の集積。愚かな我々は「都合の良い記憶」によって自分の人生を捉えている、と「人生の先達」イーストウッドは笑い飛ばしているかのようである。
 肩の力を抜きながら、遊び心満載で「フィクション」を楽しむ。そんな余裕すら感じてしまう。


 ジャージー流の仁義で仲間の借金をまるごと抱えてドサ周りする演歌歌手のような人生を送り、それが終わったと思ったら、長年の多忙でなかなか面倒を見れずにいた最愛の娘の死に直面し、終わらない苦悩にのたうつフランキー・ヴァリが、長年の盟友たちの計らいによって、「君の瞳に恋してる」で復活する場面の、見事な多幸感。クライマックスの、人生の中の「登場人物」たちが皆若返り、人生を肯定しながら唄い踊る祝祭的シーン。それを舞台で長年歌い込んできた、ジョン・ロイド・ヤングはじめオリジナルキャストたちの本領が遺憾なく発揮されている。
 それは「フィクション」だからこそ出来るのだ!という監督の割り切りが、近年のイーストウッド作品ではなかった高揚感のつるべ打ちを可能にした!そんな気がするのである。


 それはまさに老境を迎えるイーストウッドにとって、人生を振り返ったときに見える「風景」としては、すごくリアルなのではないだろうか。この感想を書くまでにすでに5回くらい見ているくらい、超・大好き。傑作だと思います!(★★★★★)


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