虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ポリス・ストーリー/レジェンド」

toshi202014-06-12

原題:警察故事2013
監督・脚本:ディン・シェン


 クリスマスの上海。老刑事ジョン・ウェン(ジャッキー・チェン)は非番の日に娘からとあるバーに呼び出された。娘は「ある諍い」がきっかけですっかり父親に対して反抗的になっており、そのいかがわしいバーの店主ウー・ジアン(リウ・イエ)を「彼氏」として紹介する。その時、ジョン刑事の部屋に突然サンタの格好をした男達が乱入。ジョン刑事は昏倒し、気がつくと拘束されていた。悪漢達は娘を含めた客全員を人質に取り、立て籠もりを開始。警察に「ある事件」の容疑者を連れてくるように要求し始める。
 悪漢たちの「目的」とは何か。とらわれたジョン刑事たちの長い夜が幕を開けた。


 気がつけばジャッキーも還暦だそうである。


 40代のジャッキー・チェンは活動の舞台を世界に移し、まさに香港が誇るアクションアイコンとして輝いていた。「ラッシュ・アワー」の成功でハリウッドでの足場を作りつつ、本国でも大傑作「WHO AM I?」を撮り上げるなど、まさに香港映画の至宝が世界に飛躍し、充実したキャリアを築く。だが、ジャッキーにも歳を重ねるごとに明確になる課題がある。老化による肉体の衰えである。


 50代に入ってジャッキーの戦いは如何にして自分が築いてきた「遺産」を次代に託し、そして自らが「役者」として生き残っていく術を模索し、暗闘していたのではないかと思う。
 自らの「ブランド」というもの。その価値を減じることなく、どうアクション役者人生を「降りる」か。身体のキレの問題はジャッキー自身が明確に自覚していただろうし、自分のポテンシャルとそれを最大限に生かすアクションを見せるかという兼ね合いの中で出した答えが、「ライジング・ドラゴン」での「アクション引退」という答えだったと思うのである。


 


 40代であってもかたくなに「青年」を演じてきたジャッキーが、初めて年相応の「オヤジ」役にシフトした初めての映画が「香港国際警察/NEW POLICE STORY」(ベニー・チャン監督)だったと思う。ハリウッドに足場を移していたジャッキーが久々に香港オールロケを敢行した大作で、「ポリス・ストーリー」1〜3「ファイナル・プロジェクト」と続いた「警察故事」シリーズの名前を用いながら、設定をリセットする形で作り上げた物語は、人生に挫折し、どん底に落ち込んだジャッキーが、若手巡査とともに、再び立ち上がる物語。ジャッキーひとりが大車輪で頑張る物語ではなく、若手役者と「共闘」する物語である。
 自らだけが矢面に立つのではなく、自らの遺産を次代につなげる。その意思がみなぎっている作品であった。


 それから9年ぶりの「警察故事」を掲げた新作が本作となるわけである。



 香港警察から中国公安警察に舞台を移した物語は、老体にムチうちながら現場で悪を追い続ける現役刑事の物語。「アクション俳優引退」を表明していたにも関わらず、アクション自体は存分にあるのだが、ジャッキーが目指す「今後の俳優人生」の雛形になるような物語を目指しているように思われた。
 それは「役者」として見せる映画。そして、それに見合う脚本が作られた映画である。アクションはよりリアル志向になり、今までジャッキーの十八番だったアクロバティックな大技小技は影をひそめ、リアルで泥臭いアクションが展開する。脚本もなかなか練られたミステリ仕立ての物語が展開し、しかし、その中に「人間の命は等しく価値がある!」というメッセージを込める。
 ジャッキーであることの価値を決して減じることなく、新たな方向性を模索する。「ジャッキー印のアクション俳優」としての一線を降りつつも、「俳優」ジャッキー・チェンの戦いはより深化していっていることを示す、新たな一歩である。(★★★★)


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