虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「トイ・ストーリー3」

toshi202010-07-25

原題:Toy Story 3
監督:リー・アンクリッチ
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:マイケル・アーント
音楽:ランディ・ニューマン


 うぐふおうえぐふおう←(泣いてる)


 面白い!面白かった!傑作!お勧め!終わり!



 ・・・というわけにはいかないか。見てない方は、とりあえず劇場に行って、そして迷わず本作を見なさい・・・としかいえない


 あそこが良かった、ここが良かった、なんて話はあらかた出尽くしちゃったんだろう、とも思うし、なんか、おれが下手にああだこうだ言うよりもさ、見るべきところは「全部!」と言って過言じゃないわけで。「この夏見るべき1本」という意味では、文句なく大本命と言って差し支えない。


 この映画は言ってみれば、「トイ・ストーリー」という傑作シリーズに「落とし前」をつけて見せた。それはとても勇気と覚悟がいる作業であったと思う。しかも物語全体が、「2」でプロスペクターがおもちゃコレクターの部屋でウッディに問うた、「アンディの成長」問題への解答でもあり、そこに、「子供たちの扱いに耐えねばならない意識を持った無機物」たちの、個々の「人生」・・・いや「おもちゃ生」からの思想信条の違いがぶつかり合う。悪の親玉とも言うべきくまのぬいぐるみ「ロッツォ」にも哀しい過去があり、それゆえにゆがんだ魂を有してしまっていることまで明らかになる
 そして、ウッディたちがアンディに捧げてきた無償の愛に、アンディが最後、優しく応える映画でもある。


 と、した上でである。


 僕は「トイ・ストーリー」シリーズが大好きなのだが。このシリーズのありようは、まるでありえない物語である。なにせ、「無機物に意識があって、人格があったら」という、いわば御伽噺である。人間の前では動かない。けれど、見てないところでは動く。感情も、意識も、人格もあるのだ。その彼らの生き方は、まるで「だるまさんが転んだ」だ。
 それが、まるでおもちゃという「生き物」が連綿と続けてきた「営為」のように、彼らはそれを何の疑問ももたずに実行し続けている。本作で悪の限りを尽くす悪役の「ロッツォ」ですら。

 このおもちゃたちが絶対的に守る生物的、じゃないや無機物的「ルール」は、人間が「おもちゃなんか動くわけがない」という思い込みを植えつけるためだけに続けられてきた。なぜか。・・・などという問いを突き詰めると、この物語はあっという間に崩壊する。


 あくまでもこの物語は、「人間の妄想」かもしれぬ、という前提に立って作られてきたから成立している。


 あの時、なくしたと思っていたおもちゃが、ふいに見つかった。とか。おもちゃ箱に入れておいたつもりのおもちゃが、いつのまにか床に転がっていて、「あれー?」と思ったりとか。おもちゃを有する子供たちの記憶の隙間に、そして、子供たちの飽くなき想像力の中に、「アンディたち」は生きている。
 しかし、今回の「3」はもはやそんな次元ではない。


 アンディは「大人」になったにもかかわらず、ウッディたちは「生ける無機物」という呪いの中にある。
 ウッディたちおもちゃの生きる過酷な世界は、あくまでも「人間」に知られてはいけない。そう生きることを宿命づけられた「無機物」たちの物語。これが「妄想」でなくしてなんだろうか。しかし、今回の映画は、その世界が「圧倒的」すぎる分、妄想などという生易しいものでは、もはやなくなってしまった。
 この映画は冒頭のシークエンスから、圧倒的に力みなぎる。彼らには「アンディ」が実家から出て行く、という切迫した事情を抱え、ある誤解からサニーサンシャイン幼稚園にみんなで引き取られに行ったはいいが、そこはおもちゃたちの「無情なる監獄」だった。そこから出て行かなければ「生き残れない」世界。そしてそこを抜けても、さらなる地獄がウッディたちを待っている。

 この世はおもちゃたちの「サバイバル世界」なのだ!という過酷さに満ちた世界を、作り手たちは執拗に描き出す。


 それはまるで、彼らがわれわれ「人間」と変わらない。時に、人間以上の死線をくぐっておもちゃたちは生きているかのようである。そんな「地獄」を潜り抜けてまでアンディたちの下へと戻ってきて無機物であり続ける「おもちゃ」たち。そんな彼らの生き様。 


 監督のリー・アンクルリッチと脚本のマイケル・アーントは、あまりにもガチにウッディたちの「生」を、そしてウッディがアンディに捧げた「愛と決断」を描いた。それゆえに「トイ・ストーリー」が抱える、夢のある「おとぎ話」感が吹き飛ぶような、ひりひりとして切ない物語なのである。
 「動くおもちゃたち」という15年以上前にジョン・ラセターがひらめいた「ネタ(アイデア)」に対する強烈な「マジレス」を返した傑作であった。


 ・・・1ファンとしては、そこまでマジレスしなくても、もうちょい「おとぎ話」要素の強い続編を見たかった気もするのだけど。それは贅沢というものなのでしょうね。あうあう。(★★★★★)