虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2018年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

toshi202018-12-30



 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。気がつけば年末でございます。
 今年、ブログ更新量はいよいよ、見る影もなく壊滅状態で大変申し訳なく思います。しかし、映画自体を見る量はむしろ上がっておりTwitterでは映画感想をガンガンかいてたりします。鑑賞量はブログを書かない分、過去最多120本を軽く超えておりまして。しかも面白い映画ばかりで、選定作業は難航いたしました。
 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「ボヘミアン・ラプソディ

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

公式サイト:映画『ボヘミアン・ラプソディ』公式サイト 大ヒット上映中!
 今年最後に爆発的ヒットを記録している、人気ロックバンド・Queenを扱った伝記映画。
 とにかく映画館で見た回数で行ったら今年一番かもしれない。伝記映画としては構成がいびつな映画ではあり、そして虚実をないまぜにした「フィクション」でもある。そういう意味で毀誉褒貶があるのはわかる。だが、それでも後半20分強を実際のライブ再現に使い、そこにドラマを収束させたのは見事であった。あそこまで「ファン以外の層」に「Queen」の音楽を響かせるクライマックスを作り上げたのは、まさに映画ならではの離れ業だと思う。
 加えて、私の初見が「Queenファンが集結した発声可能上映」というのもでかかった。その体験がとにかく衝撃的で、その出会いのせいで、私は「応援上映じゃなきゃ見れない」体になってしまった。どうしてくれる。とにかく「映画館でこそ見なければいけない映画」として忘れがたい体験でした。
 未見の方は公開中に是非。

9位「タクシー運転手 約束は海を越えて」

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 韓国・ソウルに住む一介のタクシー運転手が、ドイツ人記者を乗せたことから、衝撃的な事件「光州事件」の目撃者になっていく物語。
 実話を元にしてはいるのだが、主人公のタクシー運転手当人がどういう人物なのか。実は長らくわかっていなかった。そこから想像を膨らませて描いた「フィクション」でもある。政治にまったく興味もなく、デモに対しても辛辣だった「ノンポリ」タクシー運転手が、外国から来たソウルから光州までの「長距離客」をせしめた事から、彼は「自分の国で何が起きているのか」を目の当たりにする。その主人公を肉付けするソン・ガンホの演技がとにかく人間くさく、政治と我々は不可分であることを身を持って教えてくれるのである。
 この映画が韓国で大ヒットしたことで、モデルとなったタクシー運転手の身元とその後の人生が判明した事を含めて、映画の力ってすごいと思わせる傑作であります。
1987、ある闘いの真実 [Blu-ray]

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8位「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

 ニクソン政権下で作られた、ベトナム戦争を巡る機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在がニューヨーク・タイムズでスクープされたことにより、残りの文書の存在と掲載を巡り、ワシントン・ポストの女性社主の葛藤や編集主幹の不屈の戦いを描いた作品。
 この映画における「新聞」というメディアが「権力」におもねる事なく、戦うことの苦難とその重要性を描いた作品なのですが、とにかく僕にとって衝撃的だったのは、その構成。
 僕の仕事は「新聞の印刷」であります。
 僕は新聞を「書く側」ではなく、「刷って届ける側」であります。この映画は「書く側」のドラマではあります。だが、同時に「日々刷っている」人間に対して最大限の敬意を払ってくれた映画であります。あの「スティーブン・スピルバーグ」が、そんな映画を作ってくれたのです。これが感動せずにはおれますか。
 日々書かれた内容を刷って顧客に届ける。
装填された弾丸が拳銃から射出されたかのように。輪転機が動く。魂を込めた記事が、新聞として刷られていく。その新聞を荷造りし発送する。その新聞が世界を変えていく。
この「刷る」という仕事も日々のたゆまぬ努力によって為されている、書くのと同じくらい大変な仕事なのです。そんな日の当たらない我々の仕事を、こんなドラマックに扱っていただけるとは思わなかった。劇場で嗚咽に近い号泣をしてしまった。とにかくこの作品には「ありがとうございます。」という言葉しかありません。スピルバーグ監督に最大の感謝を。

7位「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

 ナンシー・ケリガン襲撃事件を起こしたとして、当時世界中に衝撃を与えたフィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングが、なぜそんな事件に関わってしまったのか。そこまでの半生を描いた作品。
 優美さを求められる「フィギュアスケート」界において、トーニャ・ハーディングは次々と前人未踏の技を開拓する「技術の天才」であり、彼女のそのハングリーさとある種向こうみずな性格は、母親によって形成されたことが明らかになっていく。そんな「フィギュアスケート」の技術を底上げすることに貢献してきた才能が、なぜ「転落」していったのか。彼女自身の目線から描かれていくのだが。
 その真相はあまりに衝撃的で、劇場で腰を抜かしそうになった。人間って「こんな事」で未来を失うのか。これが「悲劇」なのか。それとも「喜劇」なのか。この映画の物語が事実ならば、そのシナリオを書いた「神」はなんと残酷な事であろうか。あまりの事に「爆笑してしまった」その真相は、是非とも映画本編でご覧ください。


6位「殺人者の記憶法」「殺人者の記憶法/新しい記憶」

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 アルツハイマーを患った老いた殺人鬼が、若き連続殺人鬼と対決するというスリラーである。
 この映画の白眉は、自分を構成するために必要な「記憶」を徐々に失いながら、最愛の娘のために戦う「殺人鬼」の物語であることだ。「殺人鬼」とはいえ、娘が生まれて以降は殺しをやめて一介の動物医院を営む初老の男なのだが、体力差に加え狡猾さも併せ持つ「敵」に対し、「アルツハイマー」が進行する中で戦わざるを得ない苦闘が描かれる。のだが。
 この映画の「別バージョン」である「新しい記憶」で、実はこの映画の物語に「もうひとつの可能性」が観客に提示される。この二本を見ることにより、観客は「記憶」という実にあやふやで不確かでいい加減な存在に、戦慄することになる。自分の「見ていた」物語はどちらなのか。自分は「何」を見ていたのか。観客を「思考の泥沼」に引きずり込む、恐るべき映画であります。

殺人者の記憶法:新しい記憶 [DVD]

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5位「モリのいる場所

モリのいる場所 [DVD]

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 実在の画家・熊谷守一氏を描いた物語。なのであるが、本作は「伝記映画」ではない。
 30数年自宅から一歩も出なかったと「言われている」熊谷守一氏が自宅でどう暮らしていたのか。彼のとある数日を「スケッチ」した映画で、その自宅の庭がまるで「一個の小宇宙」のように描かれている。「モリ」を演じる山崎努とその奥さんを演じる樹木希林は、本作が初共演とのことだが、まるで長く連れ添った夫婦のように「その世界」にたたずんでおりその演技が実に素晴らしい。
 もちろん「熊谷守一」氏はそこに至るまで様々な苦難を経験してはいるのだが、この映画ではそれは「匂わされる」程度で決して表立って描きはしない。あくまでも二人の老夫婦から見た「世界」に寄り添っている。その視点が実に見事で、沖田修一監督恐るべしと思った次第。

4位「ラッカは静かに虐殺されている


 シリアの内情を国外向けに報道するシリアの市民ジャーナリストのグループについてのドキュメンタリー映画
 今年、シリアで拘束された安田純平さんの事件が記憶に新しいが、シリア内戦とそこでの国内の内情を世界に発信するジャーナリストのグループがRBSS、日本語で「ラッカは静かに虐殺されている」である。
 ISによって報道が統制され、真実を報道できない国がどうなるのか。シリアの内情の一端を描くこの映画は非常に衝撃的だ。
 今、日本では「メディア」の存在は非常に軽視されはじめていて、安田純平さんへの一部で行われた「非難」もそこに端を発している。だが、権力におもねり、真実に切り込むメディアを失った国がどうなっていくのか。彼らが住んでいたかつて美しい都市だった「ラッカ」の無残な姿をそのカメラは捉えている。
 ここに出てくるジャーナリストたちは元々記者ではない。様々な職種だった人々が集い、自らの国の惨状を世界に伝えようと文字通り命がけで戦っている姿を描いている。彼らが伝えるシリアの姿はあまりつらく、見るに堪えない。だが、これは世界が知るべき真実であるのだ。この映画は「メディアが死んだ国はこうなるのだ」という警句でもある。

3位「リメンバー・ミー

 歌を禁じられた家に生まれながら、歌手に憧れるメキシコの少年・ミゲルが、憧れのスター歌手が自分の先祖であることを知ったことから、死んだ先祖に会いに「死者の国」に向かう物語。
 私には弟がいて、私が常に映画館まで行って新作映画を見に行くことに訝しげに尋ねることがあり、そこで私は常にこう答えてきた。「その新作映画の一部が、後に古典になるのだよ。」と。それでも弟は納得してなかったのだが、たまたま本作の試写会が当たり、一緒に見に行った時、見終えた後「ようやく言ってる意味がわかった」と興奮した。本作もまた「古典になりうる新作映画」の一本であります。
 この映画を見た後の興奮は忘れがたい。歌を巡る葛藤の物語、死者と生者をつなぐ独自の世界観、ツイストの効いた脚本、そして圧巻のクライマックス。「忘れようにも忘れられない」映画であります。

2位「パディントン2」

 英文学の古典「くまのパディントン」を映画化したシリーズ第2弾。
 ペルーからイギリスにやってきた熊・パディントンの物語は第1作も非常に面白かったが、第2作は輪をかけて素晴らしかった。時まさに「移民問題」でヨーロッパが揺れる時代に作られた本シリーズは、家族向け映画としても大変優秀ながら、異邦人を受け入れる寛容な社会の重要さを高らかに歌い上げもする。
 ミステリ、アクション、コメディ、刑務所もの、そしてミュージカル。この映画はあらゆるジャンルを横断する。
 パディントンが無実の罪で刑務所に入った事から巻き起こる騒動とその顛末は、彼の人柄に触れて人々を巻き込みながら、やがて奇跡的なハッピーエンドへとつながっていく。多幸感あふれるエンディングはまさに素晴らしく、思わず感涙。まごうことなき傑作です。

1位「悪女 AKUJO」

 父を殺され、暗殺者として育てられた女が復讐の果てに逮捕され、国家直属の女暗殺者として生まれ変わり、新たな人生を始めた事から、さらなる悲劇へと巻き込まれていくアクション映画。
 映画館で見て、一発で衝撃を受けたのはそのアクションである。とにかく「新しい」。オープニングシーンから「どうやって撮ってるんだ?」と思ってしまう壮絶なアクションを観客に叩きつける。
 スタント出身のチョン・ビョンギル監督の目指すアクションは「見たことないもの」への飽くなき探求に満ちている。そして映画で描かれる物語は、激しい情念に満ちている。日本でリメイクされた「殺人の告白」でデビューしただけあり、その物語性も素晴らしい。アクションとドラマが不可分である点も特筆すべきことである。
 激しく、儚く、美しくも切ない。一人の女の「愛」の物語であり、「哀しみ」の物語であり、「狂気」へ至る物語である。
 「誰も見たことない映画」を高い次元で実現した、恐るべき映画だと思います。映画館で見れて本当に幸せでした。

男の魂に火をつけろ!の映画映画ベストテンに参加します

http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20181030
ワッシュさんの「映画映画ベストテン」に参加します。

映画映画ベスト10

1位:Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!(2007年 スティーブ・ベンデラック監督)
2位:千年女優(2001年 今敏監督)
3位:これは映画ではない(2011年 ジャファル・パナヒ監督)
4位:ギャラクシー・クエスト(1999年 ディーン・パリソット監督)
5位:ブリグズビー・ベア(2017年 デイブ・マッカリー監督)
6位:アルゴ(2012年 ベン・アフレック監督)
7位:人生タクシー(2015年 ジャファル・パナヒ監督)
8位:アクト・オブ・キリング(2012年 ジョシュア・オッペンハイマー監督)
9位:劇場版 NARUTO 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!(2004年 岡村天斎監督)
10位:カメラを止めるな!(2018年 上田慎一郎監督)

「劇場版 NARUTO 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!」

「人生タクシー」(Taxi)

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「アルゴ」(Argo)

アルゴ<エクステンデッド・バージョン> [Blu-ray]

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ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest)

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これは映画ではない」(In film nist)

「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」(Mr. Bean's Holiday)

2017年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

toshi202017-12-31



 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。気がつけば年末でございます。
 今年、ブログ更新量はいよいよ、近年稀に見る少なさでございましたが、大変申し訳なく思います。しかし、映画自体を見る量はむしろ上がっており、いい映画との出会いがたくさんありました。その中から10本を選ぶという、なかなかつらい作業でございました。
 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ [Blu-ray]

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公式サイト:映画『勝手にふるえてろ』公式サイト


 東京国際映画祭にて鑑賞。十代からの片思いを引きずり、20代になってもなお、その「一番好きな彼」を片思いし続けてきたヒロインが、彼女にリアルに好意を向けてくる「二番目の彼」が現れたことで起こる、ヒロインの大混乱を描くラブ・コメディ。
 一人の男を片思いを続けてきたが故にリアルな恋愛からは遠ざかり、コミュニケーション不全に陥ったOL・ヨシカの、大混乱を描いている点がとにかくイマ感がある。自分の絶対的な聖域を作り、そこに踏み込んでくる人間にはたとえ好意を伝えてくる男性であろうとも、心を許していたはずの親友でさえ攻撃的になる。そんなヒロインの心の「大激震」を描いている。
 「理想の恋愛」に心をこじらせてき女性が、リアルな恋愛と対峙する。その時に初めて気づく、自分の中にある「狂騒」。刺さる人間は限定されるかもわからないけど、刺さる人間には思い切り、刺さる。その刺さり方がまたエグい。心臓を貫かんばかりの深さだ。
 心の奥底に踏み込まれることで起こる、ヨシカの心の「ふるえ」は、みっともなく滑稽かもしれないけれど、だけど(人によっては)誰よりも愛おしく見える人もきっと多いんじゃないでしょうか。少なくとも私はその一人です。是非一度ご覧ください。
 

9位「サバイバルファミリー」

 もしも突然、社会から電気が喪われたら。そんな状況に突然放り込まれた日本社会を、一家族の視点から描いた作品。
 ここ数年、なんだかんだと新作が出るたびに僕は矢口史靖監督の新作をベストテンに入れてきましたが、本作もまた非常に優れた娯楽作でありながら、3.11後の日本を見据えた娯楽作になっているように感じます。
 電気を喪った人間がどういう行動を取るのか。その群集心理を描きながら、同時に、かつてない危機に立ち向かう、一家族のロードムービーとしての側面もあったりする。その中で、家族に少しずつ今までの自分にはなかった「自分」が目覚め始めていく。
 今まで矢口監督が培ってきた、「取材によって徹底的にリアリティを固め」ながら、それをきちんと「コメディー」として落とし込むという蓄積が、本作もまた非常にリアルで、そして滑稽でありながらも少しずつ人間として成長していく家族の物語として、非常に完成度の高い形で結実していると思います。
 何より本作は、非常に普遍性の高い設定であり、「ドメスティック」に陥らない、万国共通のテーマであり、きっと多くの人に届く傑作であると思います。

8位「アシュラ」

 架空の地方都市アンナム市を舞台に、絶対的権力を持って街を腐敗させていく市長の下で手先として働いていた刑事が、ある事件をきっかけにして、市長と検察の対立の渦中に叩き込まれ、やがて破滅していくまでを描く、韓国ノワール
 とにもかくにも、主人公にしてからが最初から街の腐敗にどっぷり使った悪徳刑事で、冒頭で人生が完全に破綻するような事件が起こる。刑事を辞めて市長の正式な部下になるはずが、そのプランは頓挫し、そこから人生の歯車が狂い始め、そこから様々な「悪人」と絡むことになるのだが、それでもこの映画が面白いのは、言ってみれば「破滅」が定められた男の右往左往の物語としての魅力と、出てくる「悪人」たちが、それぞれに圧倒的な個性を放っているからに他ならない。
 柔らかな物腰で主人公をえげつなく追い詰めてくるクァク・ジョヨン演じる、市長を告発しようと動いている検事・キム・チャインと、彼の右腕となって動き荒事も辞さない検事、チョン・マンシク演じるト・チャンハクが主人公をえげつなく追い詰めます。
 そしてファン・ジョンミン演じる主人公がつるんでいた、悪徳市長パク・ソンベは、その純粋な悪でありながらも抗いがたいカリスマ性を持っており、その魅力はまさに悪魔的。主人公の代わりに彼の手先となる、純朴な性格の弟分・ソンモもまた、市長のカリスマ性によって心を奪われ、やがて「悪人」として開眼していく。そして主人公と袂を分かっていきます。徹底的に追い詰められた主人公が、最後に取った決断とは。その決断が、さらなる地獄の釜を開くのです。
 悪に落ちる快感、後戻りできないと気づいた時の悲哀と絶望、破滅していく魅惑、容赦ないバイオレンスとハイテンションなアクション、そして悪と悪がぶつかり合う興奮。その全てをがここにある。一見の価値ある傑作と思います。

7位「LUCK-KEY ラッキー」

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 殺し屋がひょんなことから記憶をなくして売れない役者と人生が入れ替わる、内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」を原案に、いぶし銀の名脇役として活躍してきたユ・ヘジン主演でリメイクした作品なのだが、完全に本歌取りとも言うべき傑作として生まれ変わった。
 日本では「漫画的」な感じになりがちな「殺し屋」という職業も、ノワールが盛んな韓国ならば「映画的」になる。45歳の殺し屋が32歳の売れない俳優として、大真面目に役者道へと邁進する姿を演じるユ・ヘジンはただただ面白いだけでなく、32歳として人生をやり直し、あまつさえ新たな人生を手に入れる、この一見いかついおっさんが、実にかっこよく、そして時に可愛いの。この映画のヒットによって、ユ・ヘジンと言う脇役俳優をも「生まれ変わらせた」この映画。
 まだまだ人生やり直せるんだ!という「おっさんのファンタジー」としても大変優秀で、見ていて笑いながら、最後はうっすら涙を浮かべちゃうような、そんな映画である。一人のおっさんとしてこの映画大好き。本当に好き。

6位「昼顔」

 上戸彩主演で大ヒットしたドラマ、「昼顔」の映画版である。
 いや、実を言うとドラマの方は全く見たことがなく、いきなり劇場版を見に行ったのでした。理由は簡単。西谷弘監督の新作だからである。「ガリレオ」シリーズ、「任侠ヘルパー」など、ドラマの劇場版を傑作・秀作に導いてきた監督であり、本作においてもその期待を大きく超える仕上がりとなっている。
 ドラマシリーズで不倫愛を知られてしまい、職も居場所もなくして、映画冒頭で地方都市へと移り住んだヒロイン。けれどそこでかつての不倫相手と運命の再会を果たしたことから、二人は次第に燃え上がり、物語は歯止めの効かない方向へと転がりだしていく。初めはただ、好きなだけだった。たとえ不倫であろうとも、お互い純粋に好きあった二人で生きていこうと決めた。だが、二人が向かった場所は引き返せない、あまりにも深い因業が渦巻く選択であることを、ヒロインは思い知ることになる。

 実を言うと、この映画の前に「午前十時の映画祭」で「突然炎のごとく」を見ていたですが、この映画と「突然炎のごとく」がシンクロするシーンがあって大変興奮した。
 人の夫を奪い、自分のものにする。その道はあまりにも、あまりにも業が深い。その愛は、奪われた者の気持ちを踏みにじることで成立する愛である。純愛などと決して言えはしない。
 奪うもの。奪われるもの。この映画は、その業に真っ向から向き合い、そして物語は一つの終着へと疾走していく。憧れ的に消費されがちな不倫愛。それを巡る因業の果てを描いた傑作である。

5位「ドリーム」

 1961年。まだ黒人差別が当たり前だった時代、NASAの計算手として働いていた3人の女性たちの活躍を描いた映画である。
 時まさに冷戦時代。宇宙進出は人類の悲願であり、アメリカはソ連としのぎを削り、お互いの国の威信を賭けた宇宙計画を進行させていた。そんな中、圧倒的な計算力を誇るキャサリンはスペース・タスク・グループへと配属された。しかし、そこでも当たり前のように差別的な扱いを受けるキャサリンだったが、次第にその計算力が高く評価されていく。
 ひとかどの人物として仕事で自己実現する「夢」。人類を宇宙へ運ぶ「夢」。そして自分たちに向けられた差別をなくしていく「夢」。黒人女性がそれらを実現することが、「夢物語」だった時代において、一つ一つ困難をクリアしていくことによって、その「夢」が実現していく流れをNASAにもたらした3人の女性。見終わった時に思った。「彼女たちこそが『ワンダーウーマン」である」と。
 大きな目標に向かって、知性を結集していたNASAにおいて、「人種差別」と言うのは目標達成を阻む「エラー」でしかない。目標を持った知的な人間は、そのことにいち早く気づき、それを取り除く。3人の黒人女性のヒーローたちの物語というだけではなく、本当に知性のある人間と言うのは差別しないのだと描いてみせたこの物語は、まさに差別被差別者双方にとっても、学ぶことの多い傑作でありましょう。

4位「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」

ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]

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 南北戦争時代、黒人と白人の差別から無縁の「ジョーンズ自由州」を築いた一人の白人男性、ニュートン・ナイトの生涯を描いた歴史大作である。
 アメリカ本国でもあまり知られてないこの人物は、南北戦争のさなか、南軍から脱走し、逃げ出した奴隷たちや脱走兵たちとともに、銃を取り戦いながら北軍、南軍どちらにも属さない、黒人と白人がともに暮らす独立区を作ったのである。黒人女性と結婚した彼は、戦争が終わり、自由州がアメリカに戻った後も、色濃く残る差別と戦い続けた。
 そしてその戦いは、彼の子孫にまで及ぶ。アメリカ全土で黒人と白人が自由に結婚できる時代になるまでには、彼一世代では終わらなかったのだ。それは映画「ラビング」で描かれた、ラビング夫妻の法廷闘争を待たなければならない。
 差別が根強く続くアメリカで、世代を超えた戦い続けた描く脚本の構成がまた見事である。今、アメリカを覆い始めている空気は、まるでニュートン・ナイトが戦った時代へと戻ろうとするかのようだ。戦いはまだまだ終わらないのである。
 まさしく、今知られるべき人物であると思う。

ラビング 愛という名前のふたり [DVD]

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3位「バーフバリ/伝説誕生」「王の凱旋」

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公式サイト:映画『バーフバリ 王の凱旋』完全版公式サイト

 インドで歴代興行記録を塗り替えた、インドの古代都市・マヒシュマティを舞台にした、貴種流離譚である。
 滝の下で高貴な婦人の手によって救われた赤子シヴドゥは、実はある王国の英雄の息子マヘンドラ・バーフバリであり、数奇な出来事を経て再び王国に帰ってくる。彼はそこで、父である偉大なる英雄王アマレンドラ・バーフバリの活躍と悲しき運命を知ることになる。
 その圧倒的イマジネーションは凡人である我々の想像をはるかに超え、圧倒的な演出に打ちのめされる。第1作こそちょっと突飛な話に見えながら、第2作を見ることで物語が全て繋がり、偉大なる王の数奇な運命と悲劇、王国に起こった物語を主人公が背負い、王としてマヒシュマティ王国へと帰ってくる。その熱量はまさに「王の凱旋」と言うにふさわしい圧倒的力強さで観客を飲み込んでいく。
 この映画の声出し可能な発声可能上映、名付けて「絶叫上映」に何回か行かせてもらっているが、本当に最後は一人の群衆として、「王を称える」ことしかできない。大きな声で「バーフバリ!!」と。
 ツッコミどころももちろんあるのだけれど、それを映画大国・インドの粋を詰め込んだかのような、その有無を言わせぬ力強さでねじ伏せて、全てに圧倒される前後編。是非スクリーンで王の凱旋を称えて欲しいと思います。

2位「トンネル/闇に鎖された男」

トンネル 闇に鎖された男 [DVD]

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感想:俺を救え!「トンネル/闇に鎖された男」 - 虚馬ダイアリー

 韓国・ソウル。突然のトンネル崩落に巻き込まれた自動車セールスマン。彼に残されたのはケーキ1個と飲料水2本、そして電波のかすかに届くスマートフォン。彼の救出作業は難航し、彼には逆境に次ぐ逆境が待っていた。
 この映画の暴き出す経済優先社会の冷酷さ、大衆メディアは男に望むもの。主人公が受ける圧倒的な窮地は誰が生み出し、誰が彼を殺そうとし、誰が彼を救うのか。見終わってその流れにゾッとし、そして主人公が最後に叩きつける一言は魂の言葉として我々に突き刺さるのだ。
 この映画において問われるのは、この映画のどこに「自分」がいるのかと考える想像力である。僕らは主人公を見捨てるのだろうか。そして、自分が主人公であったならばどうしただろうか。現場で救う側の焦燥と、悲劇を「消費」するメディアと、綺麗事を言いながら時に生命を簡単に切り捨てる政府と、時に冷めやすい大衆と。
 優れた映画というのは様々な示唆をくれるものである。この映画を見た後、考えて欲しい。見ていた映画のどこかにきっとあなたが「いる」はずなのである。本当に孤独なサバイバルの中で、本当に信じられるものはなんなのか。それをつぶさに描き切った大傑作だと思います。必見です。

1位「新感染/ファイナル・エクスプレス」

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感想:ヨン・サンホ監督と揺らぐ我々。「新感染」「我は神なり」他 - 虚馬ダイアリー


 今年の一番大きい収穫は、ヨン・サンホ監督というでっかい才能を知ったことである。

 もちろん本作「新感染」も衝撃的だったのだけれど、彼の本来のフィールドであるアニメ映画も立て続けに公開されて、「新感染」の前日譚「ソウル・ステーション:パンデミック」や、信仰の意味を問う「我は神なり」などもまた、刺激的で面白くて、実に示唆に富む傑作であり、まさに私に強いインパクトを残した。


 監督がアニメ映画で培ってきた卓越した人間描写は、初の実写映画である「新感染」においても変わらない。普段なら穏やかな人も、追い詰められれば一番大事なのは「自分」になる。本当に追い詰められた時、僕らは「人間らしい」選択をできるのだろうか。「ゾンビ」という題材でありながら、一人の人間としてどうするのか。観客の喉元に突きつけてくる映画なのだ。
 この映画は一番恐ろしいのは、ゾンビではない。それによって右往左往する人間なのだ。それを言葉ではなく、映像で、音で、物語で観客にナイフを突きつけながら問うてくる。あなたならば、どうするのだ?と。

 娘とろくなコミュニケーションも取れず、父親としては落第点だった主人公は、利発な娘さんの存在によって、「たまたま」、「人間らしい選択」を選び取れた。偶然にも、奇跡的にも。だからこそ、「選び取れないかもしれない」僕らは彼の選択に涙を流す。それは「せめてそうありたい」と願う涙なのだろう。そう僕は思うのです。
 「新感染」、本当に恐るべき映画だと改めて思います。


ソウル・ステーション/パンデミック [DVD]

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フェイク~我は神なり [DVD]

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5月6月の感想書き損ねた映画たち

帝一の國

 将来総理大臣を目指す破天荒な高校生が生徒会選挙に命を賭けるエリート高校生たちの頭脳戦というストーリーでありながら、青春の懊悩と友情の裏表、幼少期のトラウマと向き合う青春映画でもある離れ業。政治映画としてはやや青臭い部分もあるが、高校生と政治のバランスはこれでいい。
 面白かったけど、帝一が総理大臣になれるかどうかはまた別の話のようには思う。案外、帝一のような計算で動く男よりは、ライバル・大鷹弾みたいな周りが自然と支えていく男の方が国を動かす男になりそうな気はするし、帝一はサブに回った方がいい仕事することを証明した話だったような。

無限の住人

 良かった。時を経ても変わることを許されない男・万次を演じるのがキムタクという配役が白眉。キムタクは何を演じてもキムタクなのは変わらないんだが、この映画はそこがいい。杉咲花ちゃんも処女性と復讐の激情を身の内に同居させる凛というめんどくさい役柄を見事飲み込んでる。
 三池監督は沙村先生が持つ変態的な暴力性に背を向けることなく真っ向勝負してるのも気持ちがいい。逸刀流があっさりしすぎな気もするが、続編への未練を断ち切るかのような完全燃焼な脚本も良い。杉咲花ちゃんは今の少女性を持ち続けるにはギリギリの年齢だし、これでいいかもね。
 しかし全ての悲劇の始まりが音尾琢真の無念にあったというのはちょっと笑ってしまった。無骸流が今ひとつ不完全燃焼だったのは仕方がないか。みんな大好きドS変態クソ野郎尸良を出すためのエクスキューズだったんだろうが、しかしとことんクズだったのはさすが三池監督であった。

「タレンタイム〜優しい歌」

 タレンタイムという音楽イベントを通して描かれる悲喜こもごものドラマを描くこの映画自体は非常に娯楽的だが、その底に流れる宗教や人種間対立を内包するマレーシア社会を背景にしている。その中でより強く描き出されるのは前向きな、不寛容を超える若者たちへの希望だ。
 多民族国家ならではの様々な言語にさらに聴覚障害の若者の手話が加わり、様々な言葉が飛び交うが、同じ「言葉」を使えれば心が通じ合うとは限らないし、言葉を越えて通じ合う人々もいる。大人が持つ偏見を越えていくのは若者たちの感性だ!というメッセージが力強い。
 それにしても音楽が重要な映画で、見終わった後サントラが欲しくなるんだけど、取り扱いがまるでないのはなんでなんだ。itunesとかで配信しないかな。

「ノー・エスケープ 自由への国境」

 問答無用で移民を殺すジェフリー・ディーン・モーガンの演技が良い。基本頭おかしい凄腕スナイパー殺人鬼なんだけど、人間としての肉付けを付けて、ガエル・ガルシア・ベルナル演じるしがない自動車整備士につけいるスキのようなものを見せて行くさじ加減が見事。
 逃げ場なしの砂漠でワンショットワンキルで殺すスナイパー殺人鬼に狙われる絶望感。だけど砂漠という舞台は実は殺人鬼側にもリスクで、主人公たちが粘れば粘るほど射撃の精度が落ちてくる、という脚本がリアル。主人公が終始基本単なる凡人というのもいい。

「T2 トレインスポッティング

 これはあれだな。スコットランド版「男はつらいよ」だな。私生まれも育ちもスコットランドエディンバラでございます。スコットランド一汚いトイレで産湯を使い、姓はレントン名はマーク。人呼んでトンズラのレントンと発します。恥ずかしながら帰って参りました。
 なんかユアン・マクレガーとかジョニー・リー・ミラーが一丁前の役者になって地元に帰ってきたらヒゲが待っていて「いよーう、それじゃあとりあえず裸で草原や街中走ってもらおうかあ」とむちゃぶりされる「水曜どうでしょう」感とでも言おうか。

 「男はつらいよ」説には理由があって、つまるところシリーズを重ねるごとに観客が自らの人生の老いの残酷さや時代から次第に取り残される辛さを、観客が変わらない登場人物を通して噛みしめると言う映画になっているのよね。そんな映画が日本に毎年一回あった訳。
 本作が残酷なのは、第1作公開当時この映画が若者のアイコン映画だったこと。山田洋次作品だったらまだしも、若者の映画が20年後に中年老年の哀しみを描く映画として蘇るって監督ドS。「青春は終わった!人生に帰れ!」的な話だもんな。劇場版エヴァなんか目じゃない。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス」

おいおいどこまでぶち込んでくるんだよ!この映画からサプライズしか飛び出して来ねえよ!アイツの親父がアレでお前の妹がナニでお前らはコレだあ!で、最後は泣かせる場面しか出て来ねえ!一言叫ばせろ!

 改めて言うと面白かった。割とキャッチボール辺りからすでに泣いてたんだけど、最後らへんのド直球連投は逆に正直言うと愁嘆場が多すぎて逆に涙が引っ込むくらいに色々ぶち込んでくるので最初のような感想になるわけです。「銀魂」か!という。
 「家族」と言うワードの使い方のジャンプ漫画感、ヤンキー気質感は面白かったな。「ワイルド・スピード」シリーズでもそうだけど、家族の定義をどう考えるかはその人次第で、それで救われる人生もある、と言うのは現実世界でもある話。
 元々力の入り抜きの上手いシリーズではあったけど、オープニングからさすがと感心。ゲラゲラ笑わせながらその分、最後らへんは容赦する事なく力一杯泣きの棍棒で観客を引っ叩いてくるので弱い人は泣きっぱなしだろうなあという感じ。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

 死んだものは蘇らない。壊れたものは戻らない。古傷は消えず痛く、越えられない壁はある。そんな世界に放り出され、1人彷徨する男が一筋の希望を見出す物語。本当にかすかで容易にかき消えるかもだが、それでも一歩を踏み出す為の正直しんどい人生の中の希望。
 終盤、ややどんよりした雲の切れ間に晴れ間が見えた途端に、いきなり夕立のゲリラ豪雨をぶち込む脚本がえげつない。しかも一見すると決して残酷には見えないところがスゴい。このシーンに悪人はいないんだよね。だけどこれは・・・。目の前がグラっとした。

「トンネル 闇に鎖された男」

http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20170518#p1

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

ここ数年見たスーパーヒーロー映画を蹴散らす傑作。これは凄い。
スゲエのは主人公が中年のオッさんで偶然手に入れたスーパーパワーの使い方もとりあえず強盗に使うことしか思いつかないチンピラ。なのに心を壊したヒロインとの触れ合いを通して真のスーパーヒーローに覚醒していくまでを、非常に丁寧に描き出し観客を納得させる。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」から「ローガン」をはしごするとヒーローものの夜明けから黄昏までを体験できるのでオススメ。

バーニング・オーシャン

 ようやく見た。本当にバーニングなオーシャンだった。て言うか、複数の判断ミスが爆発的に激甚事故につながって行く様は完全にトラウマ。他人事感ゼロ。そりゃ関わった人やめちゃうよな、こんな事故に出会ったら。経済至上主義は人を殺す系映画。この映画に英雄はいない。
 「バーニング・オーシャン」という邦題は「DEEPWATER HORIZON」という原題よりも直接的で好きだが、原題はアメリカの内省的な映画である意味合いが強いので、これはこれで良い。

「ローガン/LOGAN」

 「ローガン」見ました。なるほど、良かった。

 本当に最後!と言う気合いが乗ってて、まさに「刻みつけた最後の爪跡」って感じ。一切未練を残さない幕引きは気持ち良かった。

 あと前から呟いてたけど、ローガンは老眼なのか?というワスの疑問にちゃんと答えてくれたの感動した。ローガン老眼!

「家族はつらいよ2」

家族はつらいよ2 [Blu-ray]

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ちょう面白かった。山田洋次は死なず!前作「母と暮せば」もなかなかに問題作で度肝抜かれたけど、本作は「生老死」を笑いに変えると言う北野武が「龍三」やりたかった事をいとも簡単に成し遂げてしまった。橋爪功の喜劇センスなくしては成立し得なかった事も付言しておきたい。
もちろんコメディの型としては年式古い。子役の演技も若者の描写もアナクロだし、こんな丁寧な喋り方をする40代50代はいないし、ケータイメールの描写も失笑だよ。その代わり老人の描き方だけは超リアルなんだな。それを橋本功が一手に引き受けてリアリズムある笑いにする。
橋爪功の家主としてのプライドはあって男としての若さへの未練もあって、でも次第に老いていく自分を受け入れられない小市民系老人の演技がとにかく絶品。彼が常に中心にいてそこに振り回される家族を実力派の中堅若手が固める構成が非常にピタッとハマってる。ネタも攻めてる。
今年公開の「破門」もそうだけど、橋爪功のコメディセンス衰えねえのすごいな。入り抜きの加減が完璧なんだよな。人間の小ささ、セコさ、愚かさ、哀しさを演じながらそれが鼻につかない、愛すべき人物になる。まさに名人が演じる落語の人物の如し。彼の代わりって日本にいるか?

ブラッド・ファーザー

ブラッド・ファーザー [Blu-ray]

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老いさらばえたチンピラ親父が、失踪からひょっこり戻ってきた娘のために、なけなしのコネと体力使って人生の最後に大暴れする系映画。最近のトレンドかこれ。上映時間が90分以内なので小気味よく進むのが楽しい。「ローガン」に比べるとメル・ギブソンは父性全開で明快。
基本頭の悪いチンピラで悪い奴は大体友達、そのせいで人生遠回りした親父と、トラブルで闇社会に触れたり麻薬に手を出したりするけど元々快活で頭のいい娘と言うコンビが良い。「よくわからんがメキシコ移民は職を奪うから嫌い」と言うメルギブが娘に諭される場面面白い。

「おじいちゃんはデブゴン」

おじいちゃんはデブゴン [Blu-ray]

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サモハンが元スゴ腕の軍人で孫を失ったトラウマ抱えて故郷に隠遁した認知症老人と言う、なかなかに複雑な役を言葉少なに演じるアクション映画。孫の面影を感じる少女との心温まる交流と、相手の得物を奪った上で肉体破壊して沈黙させる冷徹アクションの落差凄い。
アンディ・ラウが準主演級で登場。基本クズだが、行動や妻子への愛情が裏目に出て人生崖っぷちのトラブルメイカーと言う何もアンディが演じなくてもって役を熱演してて何でかと思ったら、ラストの後に余禄シーンからスタッフロールでアンディの失恋バラード流れて納得した

「昼顔」劇場版

ヤバイ。これヤバイ。奪い奪われる者の業の深さを描き切った大傑作!やはり、俺たちの西谷弘監督は本物だ。やりおる。
不倫愛の果てに2人で生きる決断をしたカップルに待ち受ける罪と罰。許されぬ禁断愛、などというキラキラと惹かれ合う男女の不倫愛の光と闇を明らかに描き出し、お前ら純粋な愛の物語で終われると思うなよ!という、明確な意思を持って描かれてるのがすごいわ。伊藤歩が裏ヒロイン。
本作は配役の勝利だわ。華のある上戸彩を無邪気に夫を奪う表ヒロインとし、奪われる妻役に伊藤歩という、華は足りないけど演技力抜群な若手女優を配置した事で、この映画の陰影がより深まった。何気に重要なレストランオーナー役平山浩行も、チャラさと重さが同居するいい存在感だった。

3月4月の感想書き損ねた映画たち

「お嬢さん」(パク・チャヌク

 世にも美しく歪な変態ミステリー映画。純粋を装う生まれ育った朝鮮が嫌い元泥棒の侍女。日本語にうんざりな日本の貴族お嬢様。伯爵を装う詐欺師に、日本人になりたい朝鮮人の富豪。4人が邂逅する事で始まる物語は誰も見たことの無い世界へと誘う。パク・チャヌク恐るべし。
 日本に併合されてた頃の朝鮮と言う設定で日本語台詞がやたらと飛び交うのも面白いんだけど、それがこの映画の舞台となる富豪の家が和洋組み合わさった歪な館で、それと相まって現実世界から隔絶された世界観へと繋がっている。だから最初違和感あるんだけど終盤は全く気にならなくなる。
 コンゲームの要素もあるんだけど、そこには性愛なしでは成立し得ない展開が多いのも面白い。男が望む女性への願望と、女性が望むものにはズレがあるんだけど、それを知り尽くしながらどこまで利用できるかが勝利の鍵となる。誰が勝つのかは相手を知り利用できた者。まさに頭脳戦である。
 朝鮮を舞台にしていながらそこから隔絶された無国籍感溢れる館を舞台とする事で、小道具の使い方も粋だ。きちんと種を見せながら展開を読ませない伏線回収も見事で、「あ、ここでコレが!」と思わされる展開も多い。ラストの展開も非常に納得度高い。

(★★★★)

「アシュラ」(キム・ソンス)

 アイゴーアイゴー。傑作。最高。
 主人公の悪徳刑事は冒頭10分で人生が詰みになるので、後は人生投了する以外にないんだけど、病身の妻を抱えているので金が要る。だから人生下りずにひたすら悪人だらけのワンダーランドを彷徨うおとぎ話。自分たちの悪事でがんじがらめでどこにもいけない男たちの哀歌でもある。

 基本的にチョン・ウソン演じる刑事は冒頭ですでにこんな感じなのであとはもう堕ちるだけという絶望感満載で始まるので、あんまりかわいそうではない。可哀想なのはこの地獄に巻き込まれた弟分のほう。

 ファン・ジョンミン演じる市長は基本的に人間のクズみたいな人なんだけど、人物像にブレがないのと欲望に基本的に真っ直ぐなので見てて一番気持ちがいい。なんか人を籠絡しようとする時、藤田和日郎先生が描く悪役みたいな笑顔になるのが最高に気持ち悪い(褒め言葉)。
 ちなみにこの映画で俺が一番イケメンだと思ったのは刑事の弟分のチュ・ジフン

 ・・・ではなくクァク・ドウォン演じる検事の部下を演じるチョン・マンシク!映画ではコワモテで荒事をこなし、ならず者相手に一歩も引かない武闘派。でも笑うとチョー可愛い!
 「アシュラ」のチョン・マンシクさんのベストショットはここ!クソカッコいい!ここで、俺の中で渡辺謙を越えたね!世界に羽ばたけチョン・.マンシク兄貴!

(★★★★★)

「少女は悪魔を待ちわびて」(モ・ホンジン)

少女は悪魔を待ちわびて [DVD]

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 「サニー」「怪しい彼女」のシム・ウンギョン主演の復讐サスペンス。例えるなら能年玲奈ちゃんが外ではホワホワした空気を振りまきながら、裏では父親を殺した殺人鬼への復讐を計画する修羅と化している、みたいな話。可愛い顔してアグレッシブな復讐するヒロイン。
 さすが韓国の復讐モノは恨みの熱量が深い。ヒロインが本当に刺し違える覚悟で復讐を練っているので、最初ヒロインが殺人鬼側を押しまくる。そして、殺人鬼側が彼女の存在に気付き逆襲へと至るのが終盤なのだが、その殺人鬼相手に指すヒロインの一手がこの映画のミソ。
 この映画の特異点はヒロインが復讐を練っているなんて普段はおくびにも出さないところ。ゆるふわ愛されキャラで元刑事の娘って事で警察にもきっちり信頼を獲得してる辺り抜け目がない。この辺は「少女」という「武器」の使いどころ。そしてそれは復讐計画に連なっていく。
 ただ、警察が凄まじく無能なのが残念かなあ。殺人鬼がモーテルから逃げる段で、被害者の部屋に死体を発見することなく鑑識が撤収しちゃってるのはギャグだと思った。

(★★★)

「哭声 コクソン」(ナ・ホンジン)

 ネタバレ。ワンちゃんかわいそう。


一言で言えば「訳がわからない。」。でも怖い。恐ろしい。面白い。ところどころに聖書ネタをぶち込んでくるのはナ・ホンジンが熱心なキリスト教信者らしいけど今までの作品でそれ感じたことねえー(笑)。誰が善で誰が悪か、宙ぶらりんになったまま放り出される感覚はすごい。
 結局誰が悪かったんだ!と言う方向性でこの映画を見ると、思考が迷走する映画と思う。実際俺、未だに混乱してる←お前かーい。信じられる人間が誰もいない不安。悪が誰かかも特定し得ない混乱。しかし迫り来る恐怖は厳然としてある。例えるなら足場のないジェットコースターね。
 おそらく一応物事の因果がストンと腑に落ちる答えがあるんだろうけど、観客にそれを噛み砕いて教える気が監督にないね。だからもうみている間「なんなの!」「なんなの?」「・・・なんなの・・・」と色んな「なんなの」が頭の中に浮かんでは消える。不安が最後まで消えない。
 上映時間長すぎて忘れてたけど、序盤は結構愉快なへっぽこ警官と出来た娘の日常を点描していて、それが後半に効いてくる作劇というのは、なかなか堂に入ってたなあーと。ナ・ホンジンってこういう作劇出来るんだ!って感じはあったかな。娘さん役の子が新人女優賞取ったのわかる。

(★★★☆)

「ラビング 愛という名前のふたり」(ジェフ・ニコルズ

ラビング 愛という名前のふたり [DVD]

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 しみじみといい映画すぎてもうね。なんかこう。つええ。この夫妻つええ。
 パンフでルース・ネッガが「夫妻は怒りという感情にしがみつかなかった」という洞察が深い。白人の夫と黒人の妻というカップルが結婚し子を持ち、当たり前に暮らす事を禁じられ、紆余曲折を経て裁判という茨の道に至る。そんな彼らに怒りを表す余裕はないという。
 この映画のクライマックス、ある種扇情的な展開をこの映画は意図的に避けて裁判の間も淡々と生活をするラビング一家の日常を点描する。この裁判はアメリカ社会において画期的な裁判となるが、勝とうが負けようがふたりはこの生活を続けるだろうと思わせる力強さ。
 ふたりにはもちろん様々な感情のうねりが身のうちにあるだろう。裁判によって嫌がらせを受け、黒人の友人の対応も変わる。しかしその上でそれを押し殺しながら、「愛」のために裁判を続ける事で「意思」を示す。身のうちの「怒り」すらも「愛」への推進力にする。
 だからこの映画は「英雄の話」という感じがまるでない。伝記映画感すらない。「とある夫妻の意思が必然の結果を呼び込む」物語に見える。それがたまたま「アメリカ社会を変えただけ」という。多分結果が伴わなくともふたりの愛は揺るがない。そう思わせる映画だ。

(★★★★)

「SING/シング」(ガース・ジェニングス)

 良かった。こう言うシンプルな直球ど真ん中の「歌が人生を肯定する」のど自慢映画。王道な物語をてらいもなくやり切ったのが気持ちがいい。善も悪すらも包み込むところもいい。歌い出せば恐れは消えていく。ちょっと人生に疲れたおっさんにもこういう映画は効く。
 しかし「マイウェイ」って本当にいい唄だよねえ。

(★★★☆)

わたしは、ダニエル・ブレイク」(ケン・ローチ

ケン・ローチ監督の静かなる怒りに満ちた傑作。政治はだれを生かし、だれを殺すのか。心臓を悪くして働けなくなった、頑固で跳ねっ返りの老大工の視点を通して描く。あなたはだれだ。

 この爺さんは英雄でもなければ悪人でもない。口うるさくて頑固でデジタル音痴だが、長年仕事をしながら妻の介護を続け、我慢強く曲がった事はきらいで困った隣人には迷わず手を貸す人情にあふれた大工だった。しかし心臓のせいで職をなくした事で福祉の世話になる。
 医師から働く事を止められ、しかし福祉からは就労可能と言われ給付金を打ち切られる。働きたいけど働けない、でもって福祉は彼を突き放す。同じように福祉から見放されたシングルマザーのケイティを救うのは政府ではなく、同じ境遇のダニエルと言う皮肉。
 福祉を民営化に移した事で福祉からあぶれたイギリスの社会的弱者の現実を否応なく描いているが、それでも楽しく見られるのはダニエル爺さんのキャラクターに負うところが大きい。ぼやきながらも諦めずに食らいつき、困難な状況にあってもケイティに手を貸す情の深さ。
 この映画は「情けは人のためならず」な人情の大切さを描いているが、その限界を描いてもいる。彼らの困難や貧困はほんのボタンのかけ違いから起こった事で、彼らを救うのは構造的な社会問題を解決するしかないのである。この映画は政治が救えるものを描いてもいる。

(★★★★☆)

「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス

ムーンライト スタンダード・エディション [Blu-ray]

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 個人的にはすごく真っ当にフツーにいい映画。人生の師匠的なオトナの男がヤクの売人、優しかった母はその男が売るクスリで壊れていき、たったひとりの心許せる親友はある事件ですれ違ってから疎遠になる。大人の裏を知り、母の愛を疑い、友とのすれ違いに後悔する。ある人生の点描。
 我々の中にもある風景。大人に裏切られた気持ち、母の愛を失う怖さ、友との気まずい別れ。それでも人生は続く。我々にも代替可能な人生の話。でもそれこそがこの映画が黒人映画の成熟を示すもの。被差別の話ではなく、人種性別生志向関係なく共感可能な人生を黒人主人公で描く事。
 黒人映画は過去の歴史を振り返り、被差別者として、社会的弱者として、人生を落伍したら這い上がれずひたすら殺し合いの地獄を見るとかそういう映画ばかりだった。だが、「ムーンライト」はその連鎖から黒人を引き上げた。シャロンは黒人だが、私たちなのだ。
 黒人社会のリアリズムを失う事なく、現実からは目を背けず、黒人以外の人種だにも広く深く物語を共有させる高みにまで近づけたからこそ、この映画は非常にエポックであり、評価されてるのだと思う。びっくりするほど普通の人生賛歌。だからこそこの映画はスペシャルなんだと思う。

(★★★)

夜は短し歩けよ乙女」(湯浅政明

 あえてアニメ映画としての気負いを排してテレビアニメ版「四畳半神話大系」を雛形として正統進化しつつ、映画的快楽をも持ち合わせるに至った快作。四畳半ファンは納得の仕上がり。
 星野源の先輩はどうなるかと思ってたけど、クライマックスの進撃してくる乙女に対して、朦朧とした頭で脳内会議を始める場面で本領を発揮。頼りなさげな声の洪水が否応なくリアル。神谷浩史だと声が力強すぎるもんなー。この辺は逃げ恥を想起させるところでもある。
 見ていて思っていたけど、見た目が可憐で声が花澤香菜でも、酒豪で武道をたしなみ基本男に興味がない「黒髪の乙女」は中身が慈愛に満ちたおっさんみたいなので、普通に好感持ってしまった。割と言い寄ってきた男は「お友達パンチ」と言う名の鉄拳制裁をするの面白い。

(★★★★)

PとJK」(廣木隆一

PとJK [Blu-ray]

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 少女漫画的シチュエーションラブコメと演出、キャスティングが噛み合ってないのが面白い。「警官と女子高生の結婚」と言うファンタジーめいた設定と、当て馬的不良キャラの函館の街の底を漂う生活のリアリズムの配分の高低差がすごい。函館の上流と下流の落差たるや生きる世界が違う感。
 ふわっふわな警官と女子高生の結婚というシチュをリアルに落とし込めるかが眼目だったとは思うんだけど、ヒーローが警官として向かい合うもののリアリズムを描けば描くほどシチュが浮く。それを繋ぎとめてたのは土屋太鳳の圧倒的色気のなさだったのは皮肉。つか太鳳ちゃんつよそう。
 正直、土屋太鳳ちゃんを普通の女子高生として見るのが難しい。走るにしても自転車乗るにしてもいちいち動きがキレキレで、ヒーローに守られるキャラと言うより守る側でしょ。こんな肉体派な普通の女子はいない!亀梨くんは怖そうだけど実は繊細なキャラに合ってただけにバランスがもう。

(★★★)

「ゴースト・イン・ザ・シェル」(ルパート・サンダース

 これは賛否あろうが、面白く見た。士郎正宗先生の原作の映画化ではなく、押井攻殻を翻案した作品として見るのが正しい。チョイチョイ押井ファンがニヤリとするようなワードとが散りばめられてて、作り手の押井愛が炸裂してる感も好印象。リスペクトは深い。
 話としては電脳化技術はそこそこ進んでいるが、義体技術はまだ黎明期という設定。スカヨハ義体の少佐が本当の自分を探す話。話としてはやや古臭くなった感はあるけど、ネットが発達した今となっては少佐がスカヨハ義体を手放す理由もないのでこの終わり方を支持する。
 やっぱりスカヨハの「身体」ならぬ「義体」自体が魅力的で、彼女のアクションで駆動する映画になってるのは、押井攻殻よりも評価できる点。彼女の身体で義体の身体性に説得力を持たせてるのはアニメで出来なかった事で、身体を離れず自分を獲得する物語に回帰してる。
 もちろん押井攻殻を超えたという気は無いが、実写化企画としては成功の部類に入るんではないか。ふんだんに予算を使って、スカヨハを主演に出来たのはとにかく大きい。たけし演じる荒巻が終始日本語なのも電脳化社会の解釈としては面白い。
 俺が本作を否定できないのは、それをする事でスカヨハの魅力そのものを否定するような気がするからだ。スカヨハの義体を作ったジュリエット・ビノシュ演じるオウレイ博士にノーベル賞をあげたい。

(★★★☆)

「人生タクシー」(ジャファル・パナヒ)

人生タクシー [DVD]

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 日本より一歩も二歩も先行く人権無視のディストピア、イランより届いた、映画製作を止められたイラン人映画監督によるイランで上映できないイラン映画。タクシーから世界を撮る。政治的に反骨な映画でありながら娯楽的、記録映画のような虚構でもある。パナヒ監督は俺のヒーローだ。
 一言で言うと「笑ってはいけない」シリーズのバス移動パートのタクシー版とも言える。監督自身が運転手を務め、車載カメラやスマホ、デジカメで撮影。きっちり仕込みを入れ、客に「今の客、役者でしょ?」なんてメタ発言も入れつつ、虚実入り混じるパナヒ監督のタクシー行脚。
 元々娯楽的な「オフサイド・ガールズ」みたいな意欲的な作品を撮ってきたパナヒ監督が政治的に政権と対立して映画製作を禁止され、ゲリラ的に映画を作らざるを得ず、そのアイデアの中で生まれたのが傑作「これは映画ではない」であり本作である。この反骨、この逞しさ。素晴らしい。

(★★★★)

「PK」(ラージクマール・ヒラーニ)

PK ピーケイ [Blu-ray]

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 早稲田松竹にて。噂にたがわぬ大傑作だった。笑って泣けて広くて深い。まったく見事なエンターテイメントでありながら、底に流れる問いは下手なアート映画よりも深い哲学がにじみ出る。凄まじかった。観てよかった。ありがとうインド。ありがとうPK。

(★★★★★)

「イップ・マン/継承」(ウィルソン・イップ)

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

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 「求めた強さの先にあるのは愛であるべき」という気恥ずかしいほどにまっすぐな映画だった。名を成し戦う時も最少限度の動きと力で敵を沈黙させるイップ師匠と、天才だけど不遇で野心的、どんな相手も全力で叩き潰す同じ拳の使い手チョン・ティンチとの対比も面白い。
 面白かったのはまっすぐで清く正しく技も心も誰よりも強いイップ師父が、周りの面倒に首を突っ込みほったらかされる妻や、運に恵まれず正しくない方法で日銭を稼ぎながら名を成そうとする者からどう見えるか、と言うのを忌憚なく描いているところ。正しさは時に毒にもなる。
 我々凡人は常に正しくはいられない。弱い。師父はまっすぐに道を極めるために妻を置いてけぼりにしてきた悔いを持ち、道を捨ててでも妻に尽くそうとする。そしてその愛を返すように奥さんは師父を道へと戻す。愛を得た拳は、1人の不遇な青年を救済する。この流れが美しい。

(★★★★)

「ライオン 25年目のただいま」(ガース・デイビス

 あかん。これあかんやつやで。兄・グドゥと別れて幼サルーが壮絶なる迷子生活を始める序盤でほぼ壊滅的に涙腺が崩壊してる。一言で言えば「はじめてのおつかい」壮絶迷子編ですよ。こんなの泣くわ。しかも大人でも一人旅が怖いインドやで。ハードモードすぎる。
 綱渡りに次ぐ綱渡りで生き抜く序盤の迷子編だけでも俺の涙腺軽く決壊してるけど、そこに四半世紀の時の流れというドラマ。何不自由なく生きることがこれほどまでに辛いというサルーの引き裂かれるアイデンティティ。そして探り当てる故郷への道。そこで待つ真実!
 実話ならではの容赦なさと残酷さ。それでも、それでもサルーの心はかつてない平穏を取り戻す。そりゃそうだよな。彼はずっと旅を続けていたんだ。どこへ行っても彼は旅の途中だったんだ。誰も彼の「ホーム」にはなり得なかった。ホームになり得たのは「兄」だけ。

(★★★★)