虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

男の魂に火をつけろ!の映画映画ベストテンに参加します

http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20181030
ワッシュさんの「映画映画ベストテン」に参加します。

映画映画ベスト10

1位:Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!(2007年 スティーブ・ベンデラック監督)
2位:千年女優(2001年 今敏監督)
3位:これは映画ではない(2011年 ジャファル・パナヒ監督)
4位:ギャラクシー・クエスト(1999年 ディーン・パリソット監督)
5位:ブリグズビー・ベア(2017年 デイブ・マッカリー監督)
6位:アルゴ(2012年 ベン・アフレック監督)
7位:人生タクシー(2015年 ジャファル・パナヒ監督)
8位:アクト・オブ・キリング(2012年 ジョシュア・オッペンハイマー監督)
9位:劇場版 NARUTO 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!(2004年 岡村天斎監督)
10位:カメラを止めるな!(2018年 上田慎一郎監督)

「劇場版 NARUTO 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!」

「人生タクシー」(Taxi)

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「アルゴ」(Argo)

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ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest)

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これは映画ではない」(In film nist)

「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」(Mr. Bean's Holiday)

2017年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

toshi202017-12-31



 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。気がつけば年末でございます。
 今年、ブログ更新量はいよいよ、近年稀に見る少なさでございましたが、大変申し訳なく思います。しかし、映画自体を見る量はむしろ上がっており、いい映画との出会いがたくさんありました。その中から10本を選ぶという、なかなかつらい作業でございました。
 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「勝手にふるえてろ

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公式サイト:映画『勝手にふるえてろ』公式サイト


 東京国際映画祭にて鑑賞。十代からの片思いを引きずり、20代になってもなお、その「一番好きな彼」を片思いし続けてきたヒロインが、彼女にリアルに好意を向けてくる「二番目の彼」が現れたことで起こる、ヒロインの大混乱を描くラブ・コメディ。
 一人の男を片思いを続けてきたが故にリアルな恋愛からは遠ざかり、コミュニケーション不全に陥ったOL・ヨシカの、大混乱を描いている点がとにかくイマ感がある。自分の絶対的な聖域を作り、そこに踏み込んでくる人間にはたとえ好意を伝えてくる男性であろうとも、心を許していたはずの親友でさえ攻撃的になる。そんなヒロインの心の「大激震」を描いている。
 「理想の恋愛」に心をこじらせてき女性が、リアルな恋愛と対峙する。その時に初めて気づく、自分の中にある「狂騒」。刺さる人間は限定されるかもわからないけど、刺さる人間には思い切り、刺さる。その刺さり方がまたエグい。心臓を貫かんばかりの深さだ。
 心の奥底に踏み込まれることで起こる、ヨシカの心の「ふるえ」は、みっともなく滑稽かもしれないけれど、だけど(人によっては)誰よりも愛おしく見える人もきっと多いんじゃないでしょうか。少なくとも私はその一人です。是非一度ご覧ください。
 

9位「サバイバルファミリー」

 もしも突然、社会から電気が喪われたら。そんな状況に突然放り込まれた日本社会を、一家族の視点から描いた作品。
 ここ数年、なんだかんだと新作が出るたびに僕は矢口史靖監督の新作をベストテンに入れてきましたが、本作もまた非常に優れた娯楽作でありながら、3.11後の日本を見据えた娯楽作になっているように感じます。
 電気を喪った人間がどういう行動を取るのか。その群集心理を描きながら、同時に、かつてない危機に立ち向かう、一家族のロードムービーとしての側面もあったりする。その中で、家族に少しずつ今までの自分にはなかった「自分」が目覚め始めていく。
 今まで矢口監督が培ってきた、「取材によって徹底的にリアリティを固め」ながら、それをきちんと「コメディー」として落とし込むという蓄積が、本作もまた非常にリアルで、そして滑稽でありながらも少しずつ人間として成長していく家族の物語として、非常に完成度の高い形で結実していると思います。
 何より本作は、非常に普遍性の高い設定であり、「ドメスティック」に陥らない、万国共通のテーマであり、きっと多くの人に届く傑作であると思います。

8位「アシュラ」

 架空の地方都市アンナム市を舞台に、絶対的権力を持って街を腐敗させていく市長の下で手先として働いていた刑事が、ある事件をきっかけにして、市長と検察の対立の渦中に叩き込まれ、やがて破滅していくまでを描く、韓国ノワール
 とにもかくにも、主人公にしてからが最初から街の腐敗にどっぷり使った悪徳刑事で、冒頭で人生が完全に破綻するような事件が起こる。刑事を辞めて市長の正式な部下になるはずが、そのプランは頓挫し、そこから人生の歯車が狂い始め、そこから様々な「悪人」と絡むことになるのだが、それでもこの映画が面白いのは、言ってみれば「破滅」が定められた男の右往左往の物語としての魅力と、出てくる「悪人」たちが、それぞれに圧倒的な個性を放っているからに他ならない。
 柔らかな物腰で主人公をえげつなく追い詰めてくるクァク・ジョヨン演じる、市長を告発しようと動いている検事・キム・チャインと、彼の右腕となって動き荒事も辞さない検事、チョン・マンシク演じるト・チャンハクが主人公をえげつなく追い詰めます。
 そしてファン・ジョンミン演じる主人公がつるんでいた、悪徳市長パク・ソンベは、その純粋な悪でありながらも抗いがたいカリスマ性を持っており、その魅力はまさに悪魔的。主人公の代わりに彼の手先となる、純朴な性格の弟分・ソンモもまた、市長のカリスマ性によって心を奪われ、やがて「悪人」として開眼していく。そして主人公と袂を分かっていきます。徹底的に追い詰められた主人公が、最後に取った決断とは。その決断が、さらなる地獄の釜を開くのです。
 悪に落ちる快感、後戻りできないと気づいた時の悲哀と絶望、破滅していく魅惑、容赦ないバイオレンスとハイテンションなアクション、そして悪と悪がぶつかり合う興奮。その全てをがここにある。一見の価値ある傑作と思います。

7位「LUCK-KEY ラッキー」

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 殺し屋がひょんなことから記憶をなくして売れない役者と人生が入れ替わる、内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」を原案に、いぶし銀の名脇役として活躍してきたユ・ヘジン主演でリメイクした作品なのだが、完全に本歌取りとも言うべき傑作として生まれ変わった。
 日本では「漫画的」な感じになりがちな「殺し屋」という職業も、ノワールが盛んな韓国ならば「映画的」になる。45歳の殺し屋が32歳の売れない俳優として、大真面目に役者道へと邁進する姿を演じるユ・ヘジンはただただ面白いだけでなく、32歳として人生をやり直し、あまつさえ新たな人生を手に入れる、この一見いかついおっさんが、実にかっこよく、そして時に可愛いの。この映画のヒットによって、ユ・ヘジンと言う脇役俳優をも「生まれ変わらせた」この映画。
 まだまだ人生やり直せるんだ!という「おっさんのファンタジー」としても大変優秀で、見ていて笑いながら、最後はうっすら涙を浮かべちゃうような、そんな映画である。一人のおっさんとしてこの映画大好き。本当に好き。

6位「昼顔」

 上戸彩主演で大ヒットしたドラマ、「昼顔」の映画版である。
 いや、実を言うとドラマの方は全く見たことがなく、いきなり劇場版を見に行ったのでした。理由は簡単。西谷弘監督の新作だからである。「ガリレオ」シリーズ、「任侠ヘルパー」など、ドラマの劇場版を傑作・秀作に導いてきた監督であり、本作においてもその期待を大きく超える仕上がりとなっている。
 ドラマシリーズで不倫愛を知られてしまい、職も居場所もなくして、映画冒頭で地方都市へと移り住んだヒロイン。けれどそこでかつての不倫相手と運命の再会を果たしたことから、二人は次第に燃え上がり、物語は歯止めの効かない方向へと転がりだしていく。初めはただ、好きなだけだった。たとえ不倫であろうとも、お互い純粋に好きあった二人で生きていこうと決めた。だが、二人が向かった場所は引き返せない、あまりにも深い因業が渦巻く選択であることを、ヒロインは思い知ることになる。

 実を言うと、この映画の前に「午前十時の映画祭」で「突然炎のごとく」を見ていたですが、この映画と「突然炎のごとく」がシンクロするシーンがあって大変興奮した。
 人の夫を奪い、自分のものにする。その道はあまりにも、あまりにも業が深い。その愛は、奪われた者の気持ちを踏みにじることで成立する愛である。純愛などと決して言えはしない。
 奪うもの。奪われるもの。この映画は、その業に真っ向から向き合い、そして物語は一つの終着へと疾走していく。憧れ的に消費されがちな不倫愛。それを巡る因業の果てを描いた傑作である。

5位「ドリーム」

 1961年。まだ黒人差別が当たり前だった時代、NASAの計算手として働いていた3人の女性たちの活躍を描いた映画である。
 時まさに冷戦時代。宇宙進出は人類の悲願であり、アメリカはソ連としのぎを削り、お互いの国の威信を賭けた宇宙計画を進行させていた。そんな中、圧倒的な計算力を誇るキャサリンはスペース・タスク・グループへと配属された。しかし、そこでも当たり前のように差別的な扱いを受けるキャサリンだったが、次第にその計算力が高く評価されていく。
 ひとかどの人物として仕事で自己実現する「夢」。人類を宇宙へ運ぶ「夢」。そして自分たちに向けられた差別をなくしていく「夢」。黒人女性がそれらを実現することが、「夢物語」だった時代において、一つ一つ困難をクリアしていくことによって、その「夢」が実現していく流れをNASAにもたらした3人の女性。見終わった時に思った。「彼女たちこそが『ワンダーウーマン」である」と。
 大きな目標に向かって、知性を結集していたNASAにおいて、「人種差別」と言うのは目標達成を阻む「エラー」でしかない。目標を持った知的な人間は、そのことにいち早く気づき、それを取り除く。3人の黒人女性のヒーローたちの物語というだけではなく、本当に知性のある人間と言うのは差別しないのだと描いてみせたこの物語は、まさに差別被差別者双方にとっても、学ぶことの多い傑作でありましょう。

4位「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」

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 南北戦争時代、黒人と白人の差別から無縁の「ジョーンズ自由州」を築いた一人の白人男性、ニュートン・ナイトの生涯を描いた歴史大作である。
 アメリカ本国でもあまり知られてないこの人物は、南北戦争のさなか、南軍から脱走し、逃げ出した奴隷たちや脱走兵たちとともに、銃を取り戦いながら北軍、南軍どちらにも属さない、黒人と白人がともに暮らす独立区を作ったのである。黒人女性と結婚した彼は、戦争が終わり、自由州がアメリカに戻った後も、色濃く残る差別と戦い続けた。
 そしてその戦いは、彼の子孫にまで及ぶ。アメリカ全土で黒人と白人が自由に結婚できる時代になるまでには、彼一世代では終わらなかったのだ。それは映画「ラビング」で描かれた、ラビング夫妻の法廷闘争を待たなければならない。
 差別が根強く続くアメリカで、世代を超えた戦い続けた描く脚本の構成がまた見事である。今、アメリカを覆い始めている空気は、まるでニュートン・ナイトが戦った時代へと戻ろうとするかのようだ。戦いはまだまだ終わらないのである。
 まさしく、今知られるべき人物であると思う。

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3位「バーフバリ/伝説誕生」「王の凱旋」

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公式サイト:映画『バーフバリ 王の凱旋』完全版公式サイト

 インドで歴代興行記録を塗り替えた、インドの古代都市・マヒシュマティを舞台にした、貴種流離譚である。
 滝の下で高貴な婦人の手によって救われた赤子シヴドゥは、実はある王国の英雄の息子マヘンドラ・バーフバリであり、数奇な出来事を経て再び王国に帰ってくる。彼はそこで、父である偉大なる英雄王アマレンドラ・バーフバリの活躍と悲しき運命を知ることになる。
 その圧倒的イマジネーションは凡人である我々の想像をはるかに超え、圧倒的な演出に打ちのめされる。第1作こそちょっと突飛な話に見えながら、第2作を見ることで物語が全て繋がり、偉大なる王の数奇な運命と悲劇、王国に起こった物語を主人公が背負い、王としてマヒシュマティ王国へと帰ってくる。その熱量はまさに「王の凱旋」と言うにふさわしい圧倒的力強さで観客を飲み込んでいく。
 この映画の声出し可能な発声可能上映、名付けて「絶叫上映」に何回か行かせてもらっているが、本当に最後は一人の群衆として、「王を称える」ことしかできない。大きな声で「バーフバリ!!」と。
 ツッコミどころももちろんあるのだけれど、それを映画大国・インドの粋を詰め込んだかのような、その有無を言わせぬ力強さでねじ伏せて、全てに圧倒される前後編。是非スクリーンで王の凱旋を称えて欲しいと思います。

2位「トンネル/闇に鎖された男」

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感想:俺を救え!「トンネル/闇に鎖された男」 - 虚馬ダイアリー

 韓国・ソウル。突然のトンネル崩落に巻き込まれた自動車セールスマン。彼に残されたのはケーキ1個と飲料水2本、そして電波のかすかに届くスマートフォン。彼の救出作業は難航し、彼には逆境に次ぐ逆境が待っていた。
 この映画の暴き出す経済優先社会の冷酷さ、大衆メディアは男に望むもの。主人公が受ける圧倒的な窮地は誰が生み出し、誰が彼を殺そうとし、誰が彼を救うのか。見終わってその流れにゾッとし、そして主人公が最後に叩きつける一言は魂の言葉として我々に突き刺さるのだ。
 この映画において問われるのは、この映画のどこに「自分」がいるのかと考える想像力である。僕らは主人公を見捨てるのだろうか。そして、自分が主人公であったならばどうしただろうか。現場で救う側の焦燥と、悲劇を「消費」するメディアと、綺麗事を言いながら時に生命を簡単に切り捨てる政府と、時に冷めやすい大衆と。
 優れた映画というのは様々な示唆をくれるものである。この映画を見た後、考えて欲しい。見ていた映画のどこかにきっとあなたが「いる」はずなのである。本当に孤独なサバイバルの中で、本当に信じられるものはなんなのか。それをつぶさに描き切った大傑作だと思います。必見です。

1位「新感染/ファイナル・エクスプレス」

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感想:ヨン・サンホ監督と揺らぐ我々。「新感染」「我は神なり」他 - 虚馬ダイアリー


 今年の一番大きい収穫は、ヨン・サンホ監督というでっかい才能を知ったことである。

 もちろん本作「新感染」も衝撃的だったのだけれど、彼の本来のフィールドであるアニメ映画も立て続けに公開されて、「新感染」の前日譚「ソウル・ステーション:パンデミック」や、信仰の意味を問う「我は神なり」などもまた、刺激的で面白くて、実に示唆に富む傑作であり、まさに私に強いインパクトを残した。


 監督がアニメ映画で培ってきた卓越した人間描写は、初の実写映画である「新感染」においても変わらない。普段なら穏やかな人も、追い詰められれば一番大事なのは「自分」になる。本当に追い詰められた時、僕らは「人間らしい」選択をできるのだろうか。「ゾンビ」という題材でありながら、一人の人間としてどうするのか。観客の喉元に突きつけてくる映画なのだ。
 この映画は一番恐ろしいのは、ゾンビではない。それによって右往左往する人間なのだ。それを言葉ではなく、映像で、音で、物語で観客にナイフを突きつけながら問うてくる。あなたならば、どうするのだ?と。

 娘とろくなコミュニケーションも取れず、父親としては落第点だった主人公は、利発な娘さんの存在によって、「たまたま」、「人間らしい選択」を選び取れた。偶然にも、奇跡的にも。だからこそ、「選び取れないかもしれない」僕らは彼の選択に涙を流す。それは「せめてそうありたい」と願う涙なのだろう。そう僕は思うのです。
 「新感染」、本当に恐るべき映画だと改めて思います。


ソウル・ステーション/パンデミック [DVD]

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フェイク~我は神なり [DVD]

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5月6月の感想書き損ねた映画たち

帝一の國

 将来総理大臣を目指す破天荒な高校生が生徒会選挙に命を賭けるエリート高校生たちの頭脳戦というストーリーでありながら、青春の懊悩と友情の裏表、幼少期のトラウマと向き合う青春映画でもある離れ業。政治映画としてはやや青臭い部分もあるが、高校生と政治のバランスはこれでいい。
 面白かったけど、帝一が総理大臣になれるかどうかはまた別の話のようには思う。案外、帝一のような計算で動く男よりは、ライバル・大鷹弾みたいな周りが自然と支えていく男の方が国を動かす男になりそうな気はするし、帝一はサブに回った方がいい仕事することを証明した話だったような。

無限の住人

 良かった。時を経ても変わることを許されない男・万次を演じるのがキムタクという配役が白眉。キムタクは何を演じてもキムタクなのは変わらないんだが、この映画はそこがいい。杉咲花ちゃんも処女性と復讐の激情を身の内に同居させる凛というめんどくさい役柄を見事飲み込んでる。
 三池監督は沙村先生が持つ変態的な暴力性に背を向けることなく真っ向勝負してるのも気持ちがいい。逸刀流があっさりしすぎな気もするが、続編への未練を断ち切るかのような完全燃焼な脚本も良い。杉咲花ちゃんは今の少女性を持ち続けるにはギリギリの年齢だし、これでいいかもね。
 しかし全ての悲劇の始まりが音尾琢真の無念にあったというのはちょっと笑ってしまった。無骸流が今ひとつ不完全燃焼だったのは仕方がないか。みんな大好きドS変態クソ野郎尸良を出すためのエクスキューズだったんだろうが、しかしとことんクズだったのはさすが三池監督であった。

「タレンタイム〜優しい歌」

 タレンタイムという音楽イベントを通して描かれる悲喜こもごものドラマを描くこの映画自体は非常に娯楽的だが、その底に流れる宗教や人種間対立を内包するマレーシア社会を背景にしている。その中でより強く描き出されるのは前向きな、不寛容を超える若者たちへの希望だ。
 多民族国家ならではの様々な言語にさらに聴覚障害の若者の手話が加わり、様々な言葉が飛び交うが、同じ「言葉」を使えれば心が通じ合うとは限らないし、言葉を越えて通じ合う人々もいる。大人が持つ偏見を越えていくのは若者たちの感性だ!というメッセージが力強い。
 それにしても音楽が重要な映画で、見終わった後サントラが欲しくなるんだけど、取り扱いがまるでないのはなんでなんだ。itunesとかで配信しないかな。

「ノー・エスケープ 自由への国境」

 問答無用で移民を殺すジェフリー・ディーン・モーガンの演技が良い。基本頭おかしい凄腕スナイパー殺人鬼なんだけど、人間としての肉付けを付けて、ガエル・ガルシア・ベルナル演じるしがない自動車整備士につけいるスキのようなものを見せて行くさじ加減が見事。
 逃げ場なしの砂漠でワンショットワンキルで殺すスナイパー殺人鬼に狙われる絶望感。だけど砂漠という舞台は実は殺人鬼側にもリスクで、主人公たちが粘れば粘るほど射撃の精度が落ちてくる、という脚本がリアル。主人公が終始基本単なる凡人というのもいい。

「T2 トレインスポッティング

 これはあれだな。スコットランド版「男はつらいよ」だな。私生まれも育ちもスコットランドエディンバラでございます。スコットランド一汚いトイレで産湯を使い、姓はレントン名はマーク。人呼んでトンズラのレントンと発します。恥ずかしながら帰って参りました。
 なんかユアン・マクレガーとかジョニー・リー・ミラーが一丁前の役者になって地元に帰ってきたらヒゲが待っていて「いよーう、それじゃあとりあえず裸で草原や街中走ってもらおうかあ」とむちゃぶりされる「水曜どうでしょう」感とでも言おうか。

 「男はつらいよ」説には理由があって、つまるところシリーズを重ねるごとに観客が自らの人生の老いの残酷さや時代から次第に取り残される辛さを、観客が変わらない登場人物を通して噛みしめると言う映画になっているのよね。そんな映画が日本に毎年一回あった訳。
 本作が残酷なのは、第1作公開当時この映画が若者のアイコン映画だったこと。山田洋次作品だったらまだしも、若者の映画が20年後に中年老年の哀しみを描く映画として蘇るって監督ドS。「青春は終わった!人生に帰れ!」的な話だもんな。劇場版エヴァなんか目じゃない。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス」

おいおいどこまでぶち込んでくるんだよ!この映画からサプライズしか飛び出して来ねえよ!アイツの親父がアレでお前の妹がナニでお前らはコレだあ!で、最後は泣かせる場面しか出て来ねえ!一言叫ばせろ!

 改めて言うと面白かった。割とキャッチボール辺りからすでに泣いてたんだけど、最後らへんのド直球連投は逆に正直言うと愁嘆場が多すぎて逆に涙が引っ込むくらいに色々ぶち込んでくるので最初のような感想になるわけです。「銀魂」か!という。
 「家族」と言うワードの使い方のジャンプ漫画感、ヤンキー気質感は面白かったな。「ワイルド・スピード」シリーズでもそうだけど、家族の定義をどう考えるかはその人次第で、それで救われる人生もある、と言うのは現実世界でもある話。
 元々力の入り抜きの上手いシリーズではあったけど、オープニングからさすがと感心。ゲラゲラ笑わせながらその分、最後らへんは容赦する事なく力一杯泣きの棍棒で観客を引っ叩いてくるので弱い人は泣きっぱなしだろうなあという感じ。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

 死んだものは蘇らない。壊れたものは戻らない。古傷は消えず痛く、越えられない壁はある。そんな世界に放り出され、1人彷徨する男が一筋の希望を見出す物語。本当にかすかで容易にかき消えるかもだが、それでも一歩を踏み出す為の正直しんどい人生の中の希望。
 終盤、ややどんよりした雲の切れ間に晴れ間が見えた途端に、いきなり夕立のゲリラ豪雨をぶち込む脚本がえげつない。しかも一見すると決して残酷には見えないところがスゴい。このシーンに悪人はいないんだよね。だけどこれは・・・。目の前がグラっとした。

「トンネル 闇に鎖された男」

http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20170518#p1

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

ここ数年見たスーパーヒーロー映画を蹴散らす傑作。これは凄い。
スゲエのは主人公が中年のオッさんで偶然手に入れたスーパーパワーの使い方もとりあえず強盗に使うことしか思いつかないチンピラ。なのに心を壊したヒロインとの触れ合いを通して真のスーパーヒーローに覚醒していくまでを、非常に丁寧に描き出し観客を納得させる。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」から「ローガン」をはしごするとヒーローものの夜明けから黄昏までを体験できるのでオススメ。

バーニング・オーシャン

 ようやく見た。本当にバーニングなオーシャンだった。て言うか、複数の判断ミスが爆発的に激甚事故につながって行く様は完全にトラウマ。他人事感ゼロ。そりゃ関わった人やめちゃうよな、こんな事故に出会ったら。経済至上主義は人を殺す系映画。この映画に英雄はいない。
 「バーニング・オーシャン」という邦題は「DEEPWATER HORIZON」という原題よりも直接的で好きだが、原題はアメリカの内省的な映画である意味合いが強いので、これはこれで良い。

「ローガン/LOGAN」

 「ローガン」見ました。なるほど、良かった。

 本当に最後!と言う気合いが乗ってて、まさに「刻みつけた最後の爪跡」って感じ。一切未練を残さない幕引きは気持ち良かった。

 あと前から呟いてたけど、ローガンは老眼なのか?というワスの疑問にちゃんと答えてくれたの感動した。ローガン老眼!

「家族はつらいよ2」

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ちょう面白かった。山田洋次は死なず!前作「母と暮せば」もなかなかに問題作で度肝抜かれたけど、本作は「生老死」を笑いに変えると言う北野武が「龍三」やりたかった事をいとも簡単に成し遂げてしまった。橋爪功の喜劇センスなくしては成立し得なかった事も付言しておきたい。
もちろんコメディの型としては年式古い。子役の演技も若者の描写もアナクロだし、こんな丁寧な喋り方をする40代50代はいないし、ケータイメールの描写も失笑だよ。その代わり老人の描き方だけは超リアルなんだな。それを橋本功が一手に引き受けてリアリズムある笑いにする。
橋爪功の家主としてのプライドはあって男としての若さへの未練もあって、でも次第に老いていく自分を受け入れられない小市民系老人の演技がとにかく絶品。彼が常に中心にいてそこに振り回される家族を実力派の中堅若手が固める構成が非常にピタッとハマってる。ネタも攻めてる。
今年公開の「破門」もそうだけど、橋爪功のコメディセンス衰えねえのすごいな。入り抜きの加減が完璧なんだよな。人間の小ささ、セコさ、愚かさ、哀しさを演じながらそれが鼻につかない、愛すべき人物になる。まさに名人が演じる落語の人物の如し。彼の代わりって日本にいるか?

ブラッド・ファーザー

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老いさらばえたチンピラ親父が、失踪からひょっこり戻ってきた娘のために、なけなしのコネと体力使って人生の最後に大暴れする系映画。最近のトレンドかこれ。上映時間が90分以内なので小気味よく進むのが楽しい。「ローガン」に比べるとメル・ギブソンは父性全開で明快。
基本頭の悪いチンピラで悪い奴は大体友達、そのせいで人生遠回りした親父と、トラブルで闇社会に触れたり麻薬に手を出したりするけど元々快活で頭のいい娘と言うコンビが良い。「よくわからんがメキシコ移民は職を奪うから嫌い」と言うメルギブが娘に諭される場面面白い。

「おじいちゃんはデブゴン」

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サモハンが元スゴ腕の軍人で孫を失ったトラウマ抱えて故郷に隠遁した認知症老人と言う、なかなかに複雑な役を言葉少なに演じるアクション映画。孫の面影を感じる少女との心温まる交流と、相手の得物を奪った上で肉体破壊して沈黙させる冷徹アクションの落差凄い。
アンディ・ラウが準主演級で登場。基本クズだが、行動や妻子への愛情が裏目に出て人生崖っぷちのトラブルメイカーと言う何もアンディが演じなくてもって役を熱演してて何でかと思ったら、ラストの後に余禄シーンからスタッフロールでアンディの失恋バラード流れて納得した

「昼顔」劇場版

ヤバイ。これヤバイ。奪い奪われる者の業の深さを描き切った大傑作!やはり、俺たちの西谷弘監督は本物だ。やりおる。
不倫愛の果てに2人で生きる決断をしたカップルに待ち受ける罪と罰。許されぬ禁断愛、などというキラキラと惹かれ合う男女の不倫愛の光と闇を明らかに描き出し、お前ら純粋な愛の物語で終われると思うなよ!という、明確な意思を持って描かれてるのがすごいわ。伊藤歩が裏ヒロイン。
本作は配役の勝利だわ。華のある上戸彩を無邪気に夫を奪う表ヒロインとし、奪われる妻役に伊藤歩という、華は足りないけど演技力抜群な若手女優を配置した事で、この映画の陰影がより深まった。何気に重要なレストランオーナー役平山浩行も、チャラさと重さが同居するいい存在感だった。

3月4月の感想書き損ねた映画たち

「お嬢さん」(パク・チャヌク

 世にも美しく歪な変態ミステリー映画。純粋を装う生まれ育った朝鮮が嫌い元泥棒の侍女。日本語にうんざりな日本の貴族お嬢様。伯爵を装う詐欺師に、日本人になりたい朝鮮人の富豪。4人が邂逅する事で始まる物語は誰も見たことの無い世界へと誘う。パク・チャヌク恐るべし。
 日本に併合されてた頃の朝鮮と言う設定で日本語台詞がやたらと飛び交うのも面白いんだけど、それがこの映画の舞台となる富豪の家が和洋組み合わさった歪な館で、それと相まって現実世界から隔絶された世界観へと繋がっている。だから最初違和感あるんだけど終盤は全く気にならなくなる。
 コンゲームの要素もあるんだけど、そこには性愛なしでは成立し得ない展開が多いのも面白い。男が望む女性への願望と、女性が望むものにはズレがあるんだけど、それを知り尽くしながらどこまで利用できるかが勝利の鍵となる。誰が勝つのかは相手を知り利用できた者。まさに頭脳戦である。
 朝鮮を舞台にしていながらそこから隔絶された無国籍感溢れる館を舞台とする事で、小道具の使い方も粋だ。きちんと種を見せながら展開を読ませない伏線回収も見事で、「あ、ここでコレが!」と思わされる展開も多い。ラストの展開も非常に納得度高い。

(★★★★)

「アシュラ」(キム・ソンス)

 アイゴーアイゴー。傑作。最高。
 主人公の悪徳刑事は冒頭10分で人生が詰みになるので、後は人生投了する以外にないんだけど、病身の妻を抱えているので金が要る。だから人生下りずにひたすら悪人だらけのワンダーランドを彷徨うおとぎ話。自分たちの悪事でがんじがらめでどこにもいけない男たちの哀歌でもある。

 基本的にチョン・ウソン演じる刑事は冒頭ですでにこんな感じなのであとはもう堕ちるだけという絶望感満載で始まるので、あんまりかわいそうではない。可哀想なのはこの地獄に巻き込まれた弟分のほう。

 ファン・ジョンミン演じる市長は基本的に人間のクズみたいな人なんだけど、人物像にブレがないのと欲望に基本的に真っ直ぐなので見てて一番気持ちがいい。なんか人を籠絡しようとする時、藤田和日郎先生が描く悪役みたいな笑顔になるのが最高に気持ち悪い(褒め言葉)。
 ちなみにこの映画で俺が一番イケメンだと思ったのは刑事の弟分のチュ・ジフン

 ・・・ではなくクァク・ドウォン演じる検事の部下を演じるチョン・マンシク!映画ではコワモテで荒事をこなし、ならず者相手に一歩も引かない武闘派。でも笑うとチョー可愛い!
 「アシュラ」のチョン・マンシクさんのベストショットはここ!クソカッコいい!ここで、俺の中で渡辺謙を越えたね!世界に羽ばたけチョン・.マンシク兄貴!

(★★★★★)

「少女は悪魔を待ちわびて」(モ・ホンジン)

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 「サニー」「怪しい彼女」のシム・ウンギョン主演の復讐サスペンス。例えるなら能年玲奈ちゃんが外ではホワホワした空気を振りまきながら、裏では父親を殺した殺人鬼への復讐を計画する修羅と化している、みたいな話。可愛い顔してアグレッシブな復讐するヒロイン。
 さすが韓国の復讐モノは恨みの熱量が深い。ヒロインが本当に刺し違える覚悟で復讐を練っているので、最初ヒロインが殺人鬼側を押しまくる。そして、殺人鬼側が彼女の存在に気付き逆襲へと至るのが終盤なのだが、その殺人鬼相手に指すヒロインの一手がこの映画のミソ。
 この映画の特異点はヒロインが復讐を練っているなんて普段はおくびにも出さないところ。ゆるふわ愛されキャラで元刑事の娘って事で警察にもきっちり信頼を獲得してる辺り抜け目がない。この辺は「少女」という「武器」の使いどころ。そしてそれは復讐計画に連なっていく。
 ただ、警察が凄まじく無能なのが残念かなあ。殺人鬼がモーテルから逃げる段で、被害者の部屋に死体を発見することなく鑑識が撤収しちゃってるのはギャグだと思った。

(★★★)

「哭声 コクソン」(ナ・ホンジン)

 ネタバレ。ワンちゃんかわいそう。


一言で言えば「訳がわからない。」。でも怖い。恐ろしい。面白い。ところどころに聖書ネタをぶち込んでくるのはナ・ホンジンが熱心なキリスト教信者らしいけど今までの作品でそれ感じたことねえー(笑)。誰が善で誰が悪か、宙ぶらりんになったまま放り出される感覚はすごい。
 結局誰が悪かったんだ!と言う方向性でこの映画を見ると、思考が迷走する映画と思う。実際俺、未だに混乱してる←お前かーい。信じられる人間が誰もいない不安。悪が誰かかも特定し得ない混乱。しかし迫り来る恐怖は厳然としてある。例えるなら足場のないジェットコースターね。
 おそらく一応物事の因果がストンと腑に落ちる答えがあるんだろうけど、観客にそれを噛み砕いて教える気が監督にないね。だからもうみている間「なんなの!」「なんなの?」「・・・なんなの・・・」と色んな「なんなの」が頭の中に浮かんでは消える。不安が最後まで消えない。
 上映時間長すぎて忘れてたけど、序盤は結構愉快なへっぽこ警官と出来た娘の日常を点描していて、それが後半に効いてくる作劇というのは、なかなか堂に入ってたなあーと。ナ・ホンジンってこういう作劇出来るんだ!って感じはあったかな。娘さん役の子が新人女優賞取ったのわかる。

(★★★☆)

「ラビング 愛という名前のふたり」(ジェフ・ニコルズ

ラビング 愛という名前のふたり [DVD]

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 しみじみといい映画すぎてもうね。なんかこう。つええ。この夫妻つええ。
 パンフでルース・ネッガが「夫妻は怒りという感情にしがみつかなかった」という洞察が深い。白人の夫と黒人の妻というカップルが結婚し子を持ち、当たり前に暮らす事を禁じられ、紆余曲折を経て裁判という茨の道に至る。そんな彼らに怒りを表す余裕はないという。
 この映画のクライマックス、ある種扇情的な展開をこの映画は意図的に避けて裁判の間も淡々と生活をするラビング一家の日常を点描する。この裁判はアメリカ社会において画期的な裁判となるが、勝とうが負けようがふたりはこの生活を続けるだろうと思わせる力強さ。
 ふたりにはもちろん様々な感情のうねりが身のうちにあるだろう。裁判によって嫌がらせを受け、黒人の友人の対応も変わる。しかしその上でそれを押し殺しながら、「愛」のために裁判を続ける事で「意思」を示す。身のうちの「怒り」すらも「愛」への推進力にする。
 だからこの映画は「英雄の話」という感じがまるでない。伝記映画感すらない。「とある夫妻の意思が必然の結果を呼び込む」物語に見える。それがたまたま「アメリカ社会を変えただけ」という。多分結果が伴わなくともふたりの愛は揺るがない。そう思わせる映画だ。

(★★★★)

「SING/シング」(ガース・ジェニングス)

 良かった。こう言うシンプルな直球ど真ん中の「歌が人生を肯定する」のど自慢映画。王道な物語をてらいもなくやり切ったのが気持ちがいい。善も悪すらも包み込むところもいい。歌い出せば恐れは消えていく。ちょっと人生に疲れたおっさんにもこういう映画は効く。
 しかし「マイウェイ」って本当にいい唄だよねえ。

(★★★☆)

わたしは、ダニエル・ブレイク」(ケン・ローチ

ケン・ローチ監督の静かなる怒りに満ちた傑作。政治はだれを生かし、だれを殺すのか。心臓を悪くして働けなくなった、頑固で跳ねっ返りの老大工の視点を通して描く。あなたはだれだ。

 この爺さんは英雄でもなければ悪人でもない。口うるさくて頑固でデジタル音痴だが、長年仕事をしながら妻の介護を続け、我慢強く曲がった事はきらいで困った隣人には迷わず手を貸す人情にあふれた大工だった。しかし心臓のせいで職をなくした事で福祉の世話になる。
 医師から働く事を止められ、しかし福祉からは就労可能と言われ給付金を打ち切られる。働きたいけど働けない、でもって福祉は彼を突き放す。同じように福祉から見放されたシングルマザーのケイティを救うのは政府ではなく、同じ境遇のダニエルと言う皮肉。
 福祉を民営化に移した事で福祉からあぶれたイギリスの社会的弱者の現実を否応なく描いているが、それでも楽しく見られるのはダニエル爺さんのキャラクターに負うところが大きい。ぼやきながらも諦めずに食らいつき、困難な状況にあってもケイティに手を貸す情の深さ。
 この映画は「情けは人のためならず」な人情の大切さを描いているが、その限界を描いてもいる。彼らの困難や貧困はほんのボタンのかけ違いから起こった事で、彼らを救うのは構造的な社会問題を解決するしかないのである。この映画は政治が救えるものを描いてもいる。

(★★★★☆)

「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス

ムーンライト スタンダード・エディション [Blu-ray]

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 個人的にはすごく真っ当にフツーにいい映画。人生の師匠的なオトナの男がヤクの売人、優しかった母はその男が売るクスリで壊れていき、たったひとりの心許せる親友はある事件ですれ違ってから疎遠になる。大人の裏を知り、母の愛を疑い、友とのすれ違いに後悔する。ある人生の点描。
 我々の中にもある風景。大人に裏切られた気持ち、母の愛を失う怖さ、友との気まずい別れ。それでも人生は続く。我々にも代替可能な人生の話。でもそれこそがこの映画が黒人映画の成熟を示すもの。被差別の話ではなく、人種性別生志向関係なく共感可能な人生を黒人主人公で描く事。
 黒人映画は過去の歴史を振り返り、被差別者として、社会的弱者として、人生を落伍したら這い上がれずひたすら殺し合いの地獄を見るとかそういう映画ばかりだった。だが、「ムーンライト」はその連鎖から黒人を引き上げた。シャロンは黒人だが、私たちなのだ。
 黒人社会のリアリズムを失う事なく、現実からは目を背けず、黒人以外の人種だにも広く深く物語を共有させる高みにまで近づけたからこそ、この映画は非常にエポックであり、評価されてるのだと思う。びっくりするほど普通の人生賛歌。だからこそこの映画はスペシャルなんだと思う。

(★★★)

夜は短し歩けよ乙女」(湯浅政明

 あえてアニメ映画としての気負いを排してテレビアニメ版「四畳半神話大系」を雛形として正統進化しつつ、映画的快楽をも持ち合わせるに至った快作。四畳半ファンは納得の仕上がり。
 星野源の先輩はどうなるかと思ってたけど、クライマックスの進撃してくる乙女に対して、朦朧とした頭で脳内会議を始める場面で本領を発揮。頼りなさげな声の洪水が否応なくリアル。神谷浩史だと声が力強すぎるもんなー。この辺は逃げ恥を想起させるところでもある。
 見ていて思っていたけど、見た目が可憐で声が花澤香菜でも、酒豪で武道をたしなみ基本男に興味がない「黒髪の乙女」は中身が慈愛に満ちたおっさんみたいなので、普通に好感持ってしまった。割と言い寄ってきた男は「お友達パンチ」と言う名の鉄拳制裁をするの面白い。

(★★★★)

PとJK」(廣木隆一

PとJK [Blu-ray]

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 少女漫画的シチュエーションラブコメと演出、キャスティングが噛み合ってないのが面白い。「警官と女子高生の結婚」と言うファンタジーめいた設定と、当て馬的不良キャラの函館の街の底を漂う生活のリアリズムの配分の高低差がすごい。函館の上流と下流の落差たるや生きる世界が違う感。
 ふわっふわな警官と女子高生の結婚というシチュをリアルに落とし込めるかが眼目だったとは思うんだけど、ヒーローが警官として向かい合うもののリアリズムを描けば描くほどシチュが浮く。それを繋ぎとめてたのは土屋太鳳の圧倒的色気のなさだったのは皮肉。つか太鳳ちゃんつよそう。
 正直、土屋太鳳ちゃんを普通の女子高生として見るのが難しい。走るにしても自転車乗るにしてもいちいち動きがキレキレで、ヒーローに守られるキャラと言うより守る側でしょ。こんな肉体派な普通の女子はいない!亀梨くんは怖そうだけど実は繊細なキャラに合ってただけにバランスがもう。

(★★★)

「ゴースト・イン・ザ・シェル」(ルパート・サンダース

 これは賛否あろうが、面白く見た。士郎正宗先生の原作の映画化ではなく、押井攻殻を翻案した作品として見るのが正しい。チョイチョイ押井ファンがニヤリとするようなワードとが散りばめられてて、作り手の押井愛が炸裂してる感も好印象。リスペクトは深い。
 話としては電脳化技術はそこそこ進んでいるが、義体技術はまだ黎明期という設定。スカヨハ義体の少佐が本当の自分を探す話。話としてはやや古臭くなった感はあるけど、ネットが発達した今となっては少佐がスカヨハ義体を手放す理由もないのでこの終わり方を支持する。
 やっぱりスカヨハの「身体」ならぬ「義体」自体が魅力的で、彼女のアクションで駆動する映画になってるのは、押井攻殻よりも評価できる点。彼女の身体で義体の身体性に説得力を持たせてるのはアニメで出来なかった事で、身体を離れず自分を獲得する物語に回帰してる。
 もちろん押井攻殻を超えたという気は無いが、実写化企画としては成功の部類に入るんではないか。ふんだんに予算を使って、スカヨハを主演に出来たのはとにかく大きい。たけし演じる荒巻が終始日本語なのも電脳化社会の解釈としては面白い。
 俺が本作を否定できないのは、それをする事でスカヨハの魅力そのものを否定するような気がするからだ。スカヨハの義体を作ったジュリエット・ビノシュ演じるオウレイ博士にノーベル賞をあげたい。

(★★★☆)

「人生タクシー」(ジャファル・パナヒ)

人生タクシー [DVD]

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 日本より一歩も二歩も先行く人権無視のディストピア、イランより届いた、映画製作を止められたイラン人映画監督によるイランで上映できないイラン映画。タクシーから世界を撮る。政治的に反骨な映画でありながら娯楽的、記録映画のような虚構でもある。パナヒ監督は俺のヒーローだ。
 一言で言うと「笑ってはいけない」シリーズのバス移動パートのタクシー版とも言える。監督自身が運転手を務め、車載カメラやスマホ、デジカメで撮影。きっちり仕込みを入れ、客に「今の客、役者でしょ?」なんてメタ発言も入れつつ、虚実入り混じるパナヒ監督のタクシー行脚。
 元々娯楽的な「オフサイド・ガールズ」みたいな意欲的な作品を撮ってきたパナヒ監督が政治的に政権と対立して映画製作を禁止され、ゲリラ的に映画を作らざるを得ず、そのアイデアの中で生まれたのが傑作「これは映画ではない」であり本作である。この反骨、この逞しさ。素晴らしい。

(★★★★)

「PK」(ラージクマール・ヒラーニ)

PK ピーケイ [Blu-ray]

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 早稲田松竹にて。噂にたがわぬ大傑作だった。笑って泣けて広くて深い。まったく見事なエンターテイメントでありながら、底に流れる問いは下手なアート映画よりも深い哲学がにじみ出る。凄まじかった。観てよかった。ありがとうインド。ありがとうPK。

(★★★★★)

「イップ・マン/継承」(ウィルソン・イップ)

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

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 「求めた強さの先にあるのは愛であるべき」という気恥ずかしいほどにまっすぐな映画だった。名を成し戦う時も最少限度の動きと力で敵を沈黙させるイップ師匠と、天才だけど不遇で野心的、どんな相手も全力で叩き潰す同じ拳の使い手チョン・ティンチとの対比も面白い。
 面白かったのはまっすぐで清く正しく技も心も誰よりも強いイップ師父が、周りの面倒に首を突っ込みほったらかされる妻や、運に恵まれず正しくない方法で日銭を稼ぎながら名を成そうとする者からどう見えるか、と言うのを忌憚なく描いているところ。正しさは時に毒にもなる。
 我々凡人は常に正しくはいられない。弱い。師父はまっすぐに道を極めるために妻を置いてけぼりにしてきた悔いを持ち、道を捨ててでも妻に尽くそうとする。そしてその愛を返すように奥さんは師父を道へと戻す。愛を得た拳は、1人の不遇な青年を救済する。この流れが美しい。

(★★★★)

「ライオン 25年目のただいま」(ガース・デイビス

 あかん。これあかんやつやで。兄・グドゥと別れて幼サルーが壮絶なる迷子生活を始める序盤でほぼ壊滅的に涙腺が崩壊してる。一言で言えば「はじめてのおつかい」壮絶迷子編ですよ。こんなの泣くわ。しかも大人でも一人旅が怖いインドやで。ハードモードすぎる。
 綱渡りに次ぐ綱渡りで生き抜く序盤の迷子編だけでも俺の涙腺軽く決壊してるけど、そこに四半世紀の時の流れというドラマ。何不自由なく生きることがこれほどまでに辛いというサルーの引き裂かれるアイデンティティ。そして探り当てる故郷への道。そこで待つ真実!
 実話ならではの容赦なさと残酷さ。それでも、それでもサルーの心はかつてない平穏を取り戻す。そりゃそうだよな。彼はずっと旅を続けていたんだ。どこへ行っても彼は旅の途中だったんだ。誰も彼の「ホーム」にはなり得なかった。ホームになり得たのは「兄」だけ。

(★★★★)

1月2月の感想書き損ねた映画たち

 Twitterに書いた感想を交えながら、感想を書き損ねた映画たちを振り返っていきます。

「ホワイト・バレット」三人行(ジョニー・トー

 ジョニー・トーの新作「ホワイト・バレット」見たけど、「変かっこいい」と言うジャンルの極致のような映画だった。あとやっぱりパンフレットはなかった。パンフ作る余力すらないと言うのは哀しい。面白い映画だけど、クライマックスの銃撃シーンの歌の謎さだけは首をひねりつつ、かっこよさに痺れる。つーか、何この歌。

 ・・・と思って、銃撃戦でも流れる主題歌について検索してたら、あれ、香港の懐メロカバーなのね。わかるかー!

 わかりやすく言うと、テレビアニメ「輪るピングドラム」の「生存戦略」の場面でARBのカバーが流れる感じに近い演出なのね。本作の銃撃シーンはジョニー・トー監督の「変」な感性が爆発したシーンだと思います。(★★★★)

輪るピングドラム キャラクターソングアルバム

輪るピングドラム キャラクターソングアルバム

「ドラゴン×マッハ!」殺破狼2(ソイ・チェン)

 「SPL/狼よ静かに死ね」のシリーズ続編であり、タイのアクションスター・トニー・ジャーと、実力派・ウー・ジンのW主演で映画化した香港映画。

 楽しかった。3人のマスターの肉体の躍動を堪能。パッケージングが香港製なのでタイアクション映画の「イカレてる!」感はないんだけど、明らかに目の前で起こってるトンデモナイアクションを過不足なく見せ切る編集が見事で、常人にもきちんと何が起こってるか目で追える。
 獄長(マックス・チャン)がトニー・ジャーを軽くあしらうところは、ドラマとは全く違う感動がある。あそこ、変な声出た。香港アクションの層の厚さ、底力を見た思い。


 その後本作の「絶叫上映」と言うものに初めて参加して、その魅力にも開眼するきっかけになりました。大好き。(★★★★)

「疾風スプリンター」破風(ダンテ・ラム

疾風スプリンター [DVD]

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 ダンテ・ラム監督による、恋と友情と野望を描く自転車レース活劇映画。

 見てすぐに分かった。本来これ、フィクションで扱う題材じゃねーよ。自転車ロードレースの生感が凄すぎる。並の監督なら絶対手を出さない。そのくらいレースシーンの出来栄えがハンパない。本気すぎる。ダンテ・ラム監督怖い。そして、ベタベタなドラマとの落差がエライことに。
 エンディングにメイキングダイジェストが出るんだけど、それ見てるだけでもどんだけ過酷な現場だったか、想像するだけでちびる。怪我人続出だし、可愛いヒロインも思いっきりしごかれてるし、主演クラスも生傷絶えない。よく死人が出なかったもんだと心の底から思う。
 それでいて主人公とヒロインのベタベタ過ぎて「少女漫画かよ!」的な恋愛模様とか、レースシーンが過酷な撮影すぎてスタッフが逃げ場が欲しかったとしか思えないギャップスゴイ。当て馬役のフラレ方も少女漫画の王道だし!振られたシーンで笑いそうになったの初めでだ。

 香港映画のパワフルさの一端がこの映画にあると思います。大好き。(★★★★)

ザ・コンサルタント」The Accountant(ギャビン・オコナー)

 この映画、間違いない。緻密に積み上げられた設定で、一人の「正義の執行者」が誕生するまでを解き明かす作劇は、見事すぎて感嘆のため息が出る。この地に足ついたリアリティー、主人公は障害者で、異質なるものを排斥しようとする社会の病巣も絡める視点は素晴らしい。
 とても愉快な映画なんだけど、予告編だと全然そう見えないのがかわいそうな映画。みんな見てね!秘密基地とか大好きな心が小学生な人や、相手の目を見て話せない人とか、特定の話題でしか盛り上がれないオタクは必見ダヨ!

 本作はいい意味で最初の印象を裏切られた映画で、ベン・アフレックが手にした新たなるアクション・ヒーローシリーズになって欲しい作品でした。社会的弱者と言われる障害者たちが、隠されたスペシャルな才能を獲得していく物語としても面白い。超・大好き。(★★★★☆)
 

ルパン三世/カリオストロの城」MX4D版(宮崎駿

 言わずと知れた宮崎駿の代表作の一つが、MX4D版でリバイバル上映。

 とりあえず大スクリーンで見られる貴重な機会と言うことで、普通に見ててもエグいくらい楽しいんだけど、カーチェイスからアクションから漫画映画的小ネタギャグかまで、MX4Dの物理演出が入るのも楽しい。塔の屋根からのずり落ちから次元のプロレス技まで反応。
 久々に大スクリーンで見て、「ああ、やっぱり映画館で見なきゃいけない映画だ。」と思いましたですよ。地下水道に落とされて発見する日本人の遺体の上に書かれた文字ってビデオだと潰れてなんのこっちゃだけど、大スクリーンだとくっきりはっきり。時計台で潰れる伯爵も見えるよ!
 クラリス姫抱きしめない例のやーつ、あれ中年になってからの方がより味わい深いな!もういじり倒された古典なのに、大スクリーンで見続けてあのクライマックス。「愛しいからこそ抱きしめない、抱きしめてはいけない、」っておっさんになってからの方が響くんだ!

「牝猫たち」(白石和彌

牝猫たち [Blu-ray]

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 日活ロマンポルノが平成に復活したシリーズの1作にして「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督の新作。

 池袋をうろつく学生時代を過ごしたあたくしにドンピシャな白石和彌監督のロマンポルノリブート作。シリアスと笑い、優しさとバイオレンス、性と死を縦横無尽に横断する白石節。なんで音尾琢磨さんがキャスティングされてんのかと思ったらオチが。攫うなあ音尾さん。場内大爆笑。さすが。
 引きこもりやホームレスデリヘル嬢、シングルマザーに虐待される子供、妻に先立たれた老人、人妻嬢の孤独を掘り下げるなど、社会派な匂いを漂わせつつ、最後に「なーんちゃってーー!」ってひっくり返すちゃぶ台が音尾さんなのね。これに関しては「見事」と言うほか無いわ。あれは笑う。
 人間群像劇としても大変優秀で、その点、「エロシーンが入る以外何やってもいい」と言うロマンポルノの王道的な作品なのかも。ただ、白石監督はかっちりとした娯楽映画にしてるけど、大きくははみ出さない生真面目さも感じる。あと音尾さんはかつての竹中直人枠を狙える位置に来たなあ。

 このロマンポルノシリーズは、まだまだ続けて欲しいですね。(★★★★)

「沈黙 サイレンス」Silence(マーティン・スコセッシ

 なんちゅー精神的SM映画。舞台が無知な日本人が拷問を用いて棄教を強いるなんて時代からちょっと経た長崎で、S側のイッセー尾形演じる奉行と浅野忠信演じる通詞も、M側アンドリュー・ガーフィールド演じる神父が長崎に来たことにうんざりしているのが面白い。
 奉行や通詞は一度棄教させた経験があって、どうすれば神父が棄教するか、その心理手に取るように把握している。だからSMの力の強弱の加減まで完成されていて、アンドリュー・ガーフィールドごとき若い神父をどのように落とせるか、段取りまで完璧という恐ろしさ。勝てない。
 弱さや業の肯定という意味では落語に近く、窪塚洋介演じるチキン系信者キチジローの存在が布石となって効いてくる。意識高い系神父は最初キチジローを愛せない。だが、自らの無力、神の沈黙を通して彼の中に「神の声」を知り、キチジローに対して愛を持てるようになっていく。
 表向き信仰を捨てたとして、それが果たして信仰を捨てたことになるのか。神父としての栄光を捨てることでアンドリュー・ガーフィールドはよりキリスト教の主の「真理」へと近づいていく、と言う皮肉な展開は、なるほどキリスト教圏で物議を醸すはずだわ。深すぎる問いだ。
 見て思ってたのは、世界のありようの発見ではなく、再確認だった。なので見てる時は「ひゃー!」とか「うわー!」とか声に出してたんだけど、割と見終わった後は淡々とした感じで劇場を出てきた。この感じが不思議だった。そこがこの映画の奇妙さであると感じる。

 (★★★★)

LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門」(小池健

 テレビシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』、2014年の映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の流れをくむスピンオフシリーズ「Lupin the Thirdシリーズ」の第3弾。

 五ェ門が元軍人の男に完膚なきまでの敗北を喫し、そこから再び立ち上がり更なる強さの境地へと至る事でリベンジを果たす復活劇。五ェ門という最強の男を挫く敵役・ホークのターミネーターもかくやの最強ぶりの描写が見事。暴力描写も容赦ない。
 小池ルパンの前作「次元大介の墓標」から地続きとなる話のようだけど、そっちを見てなくてもあまり問題ない。ルパン一味も銭形も登場するけど、五ェ門とホークのレベルがハイレベルすぎて傍観者にならざるを得ないのだが、その立ち回り方が五ェ門の琴線に触れるってのは面白い。

 (★★★★)

「未来を花束にして」Suffragette(サラ・ガヴロン)

未来を花束にして [DVD]

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 女性参政権を巡る女性たちの闘いを描いた映画。いやー「花束を」なんて邦題ついてるけど、そんなヤワなもんじゃねーな。本当に捨て身。思った以上に活動が過激なんだけど、そうならざるを得ないほど出てくる男たちがクソで、差別社会の地獄を生きるヒロインのサバイバルなのだ。
 ヒロインのモードの夫にしても敵対する警部にしても当時としては善良なる「普通」の男たちだ。彼らは差別者ではない。だが次第に参政権運動に関わるようになるヒロインを恐れ、または無法を行う女のように扱う。今の当たり前を求める事が昔はそうではなかった。ツライ話だ。
 虐げられた人々が声を上げると社会は驚くほど冷淡になる。それは今の社会もまさにそう。「普通」の人々が彼女たちの敵に回る。当たり前を求める果てなき闘争。その末に未来は、世界は少しずつ変わっていく。そこに人間の希望がある。その事を描いた映画である。それ大事。
 なんか女性映画として売られてるけど、男が見て損はない映画だ。強く生きる闘う女性を見るの大好きな人は見るといいと思う。お勉強だけでは理解できない「差別社会」の砂の味を体感できるし、政治運動の大事さを実感できる。つか「この世界の片隅に」だってこんな世界なんだぜ?
 本作を見てるとこういう歴史を経て我々の「権利」は勝ち取られてきたと言う事がわかるし、社会的強者と言うのは、油断すると弱者から尊厳から何から取れるものはすべて剥ぎ取っていく事を知る事が出来る。映画に教えられる事は本当に多いぜ。

 (★★★★)

「サバイバル・ファミリー」(矢口史靖

 いやー素晴らしい。電気が全て消えた世界という設定を徹底的にシミュレートしつつ、一家族が生き残りを賭けて日本を迷走する中で、家族の絆と生きる力を獲得し始めるまでを丁寧に描いてる。ワンアイデアもここまで突き詰めるとゾンビものより怖いホラーにも喜劇にもなる。
 電気のない世界に放り出された世界では人間は時にゾンビより怖いけれど、だからこそ生まれる感情の爆発や肉体の躍動、人間の本来あるべき情が溢れ出る。それを丁寧に段階を追ってきちんと描くことで、限りなく説得力を持たせる矢口史靖監督の手腕、ここに極まる。見事。
 しかも今回は非常に普遍的な物語なので、うまくすれば韓国や中国などのアジア諸国はおろか、欧米でもでリメイクが可能。昨今の日本映画らしからぬ、ドメスティックに陥らない映画力溢れる作品なので、本当に素晴らしい。これは矢口監督、やったな。大ホームランだと思う。
 とりあえず3.11後の映画としては決定版と言えるかもしれない。未曾有の状況で人間の力が呼びさまれると言うのは、阪本順治監督の大傑作「顔」に近い。と言っても、小日向さんは普通のサラリーマンでいきなり器用になるわけもなく、劇的に変わるのはむしろ子供達の方。

 リアルにシミュレートしつつ娯楽映画の強靭さを失わない、矢口史靖監督の映画力は韓国映画にだって負けはしないと思う。傑作。大好き。(★★★★★)

「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(小林聖太郎

破門 ふたりのヤクビョーガミ [DVD]

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 黒川博行氏の「疫病神」シリーズの第5作「破門」の映画化。

 面白かった。この映画、全然話題になっとらんけど何でや。キャストも適切だし演出もいい。主演の佐々木蔵之介横山裕に華がないくらいで映画は面白かった。こういうちゃんとした日本映画に客入らないのおかしい。だから日本映画は斜陽になる。橋爪功まだまだ巧い。
 横山裕に華がないと書いたけどけなしてるんじゃない。この映画に関してはそこがいい。この華のなさが異様にリアル。佐々木蔵之介と比べても月とスッポンのスッポンの方に見えるが、だからこそクライマックスにすごく共感できる。その意味でもこの映画侮れない。
 この映画、脇も異様に豪華で國村隼キムラ緑子北川景子、木下ほうかに宇崎竜童と錚々たる面々が脇を固めてタイプキャストな演技を披露してる。ポイントポイント抑えた配役で安心して話が追える。正直「ナイスガイズ!」と比べても遜色ないと思うんだけどなあ。
 加えて橋爪功だよ。出資金を集めて高飛びした食えねえ映画プロデュサー役なんだけどやっぱり巧い。ヤクザを向こうに回して殴られるわ箸刺されるわす巻にされるわ結構ひどい目に遭うんだけど、それでもめげない諦めない、そして憎めない。それを飄々とこなす。流石。

(★★★★)

ラ・ラ・ランド」La La Land(デミアン・チャゼル)

 くっそ!くっそ!クライマックスで大いに泣いてしまった。あかんわあんなん。思い出しても泣く。ダメダメ、こんなの。泣くに決まってんだから。ツボに完全にハマってしまった。
 正直言うと序盤はそこまで乗れてなかったんですよね。オープニングなんかは演出がテクニカルすぎて若干引きながら見てた。でも、あの夕焼けのダンス辺りから次第に引き込まれて、ふたりの恋と夢の道程を見つめつつあのクライマックス。もうね。ダメな。あーもう。してやられた。

 毀誉褒貶いろいろ言われる映画ですけど、僕は肯定派ですね。あのクライマックスは、なぜこの映画が「ミュージカル」だったのかを明確に示していて、とにかく心を撃ち抜かれてしまった。大好き。なのです。(★★★★)

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」Free State of Jones(ゲイリー・ロス

ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]

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 南北戦争時代、アメリカに奴隷解放宣言よりも早く、白人と黒人が平等に暮らせる「ジョーンズ自由州」を築いた男・ニュートン・ナイトの、黒人差別との果てなき戦いを描いた歴史大作。

 この非寛容が進む時代にあって、黒人奴隷と脱走兵を率い、アメリカの自由と平等を信じて果てなき戦いを続けた反骨の白人男性・ニュートン・ナイトの生涯を描いたこの映画は、まさしく今見られるべき映画だろう。このマコノヒーに痺れないならその人の魂は死んでる。
 ゲイリー・ロスは85年後、ニュートン・ナイトの孫である男性が直面した、ある裁判を物語に絡ませる。そして、その裁判は、ニュートン・ナイトの戦いは終わっていない事を浮かび上がらせる。その作劇は、今、アメリカで起こっていることと奇しくもつながっていく。凄い。


 この映画は非常に素晴らしい傑作だと思っていますし、いま、アメリカで進行している事態に通じる映画であると感じています。そんな私が、2回目を見に来た時に製作者の方のティーチインにたまたま遭遇したのでした。

 2回目。プロデューサーのブルース・ナックバーさんのティーチインあり。やっぱり傑作。構想から完成まで11年。最初はゲイリー・ロス監督と別に企画を進めていたけど、監督から合同でやろうと持ちかけられてこの映画に繋がったとの事。ちなみにナックバーさん、日本在住。
 ニュートン・ナイトはアメリカでも存在はあまり知られておらず、マシュー・マコノヒーも関わるようになるまで知らなかったそう。マコノヘは演技に集中するタイプでなかなか役が抜けない。周りの役者と無駄話もせず、監督と演技を詰める話ばかりしていたとの事。


 実際の写真とマコノヘ比較。目力の強さが激似。

 ニュートン・ナイトになりきったマシュー・マコノヒーの演技も大変素晴らしく、差別の根深さと世代を超えた戦いを描いていく構成が見事な傑作と思います。大好き。(★★★★★)