虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

1月2月の感想書き損ねた映画たち

 Twitterに書いた感想を交えながら、感想を書き損ねた映画たちを振り返っていきます。

「ホワイト・バレット」三人行(ジョニー・トー

 ジョニー・トーの新作「ホワイト・バレット」見たけど、「変かっこいい」と言うジャンルの極致のような映画だった。あとやっぱりパンフレットはなかった。パンフ作る余力すらないと言うのは哀しい。面白い映画だけど、クライマックスの銃撃シーンの歌の謎さだけは首をひねりつつ、かっこよさに痺れる。つーか、何この歌。

 ・・・と思って、銃撃戦でも流れる主題歌について検索してたら、あれ、香港の懐メロカバーなのね。わかるかー!

 わかりやすく言うと、テレビアニメ「輪るピングドラム」の「生存戦略」の場面でARBのカバーが流れる感じに近い演出なのね。本作の銃撃シーンはジョニー・トー監督の「変」な感性が爆発したシーンだと思います。(★★★★)

輪るピングドラム キャラクターソングアルバム

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「ドラゴン×マッハ!」殺破狼2(ソイ・チェン)

 「SPL/狼よ静かに死ね」のシリーズ続編であり、タイのアクションスター・トニー・ジャーと、実力派・ウー・ジンのW主演で映画化した香港映画。

 楽しかった。3人のマスターの肉体の躍動を堪能。パッケージングが香港製なのでタイアクション映画の「イカレてる!」感はないんだけど、明らかに目の前で起こってるトンデモナイアクションを過不足なく見せ切る編集が見事で、常人にもきちんと何が起こってるか目で追える。
 獄長(マックス・チャン)がトニー・ジャーを軽くあしらうところは、ドラマとは全く違う感動がある。あそこ、変な声出た。香港アクションの層の厚さ、底力を見た思い。


 その後本作の「絶叫上映」と言うものに初めて参加して、その魅力にも開眼するきっかけになりました。大好き。(★★★★)

「疾風スプリンター」破風(ダンテ・ラム

疾風スプリンター [DVD]

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 ダンテ・ラム監督による、恋と友情と野望を描く自転車レース活劇映画。

 見てすぐに分かった。本来これ、フィクションで扱う題材じゃねーよ。自転車ロードレースの生感が凄すぎる。並の監督なら絶対手を出さない。そのくらいレースシーンの出来栄えがハンパない。本気すぎる。ダンテ・ラム監督怖い。そして、ベタベタなドラマとの落差がエライことに。
 エンディングにメイキングダイジェストが出るんだけど、それ見てるだけでもどんだけ過酷な現場だったか、想像するだけでちびる。怪我人続出だし、可愛いヒロインも思いっきりしごかれてるし、主演クラスも生傷絶えない。よく死人が出なかったもんだと心の底から思う。
 それでいて主人公とヒロインのベタベタ過ぎて「少女漫画かよ!」的な恋愛模様とか、レースシーンが過酷な撮影すぎてスタッフが逃げ場が欲しかったとしか思えないギャップスゴイ。当て馬役のフラレ方も少女漫画の王道だし!振られたシーンで笑いそうになったの初めでだ。

 香港映画のパワフルさの一端がこの映画にあると思います。大好き。(★★★★)

ザ・コンサルタント」The Accountant(ギャビン・オコナー)

 この映画、間違いない。緻密に積み上げられた設定で、一人の「正義の執行者」が誕生するまでを解き明かす作劇は、見事すぎて感嘆のため息が出る。この地に足ついたリアリティー、主人公は障害者で、異質なるものを排斥しようとする社会の病巣も絡める視点は素晴らしい。
 とても愉快な映画なんだけど、予告編だと全然そう見えないのがかわいそうな映画。みんな見てね!秘密基地とか大好きな心が小学生な人や、相手の目を見て話せない人とか、特定の話題でしか盛り上がれないオタクは必見ダヨ!

 本作はいい意味で最初の印象を裏切られた映画で、ベン・アフレックが手にした新たなるアクション・ヒーローシリーズになって欲しい作品でした。社会的弱者と言われる障害者たちが、隠されたスペシャルな才能を獲得していく物語としても面白い。超・大好き。(★★★★☆)
 

ルパン三世/カリオストロの城」MX4D版(宮崎駿

 言わずと知れた宮崎駿の代表作の一つが、MX4D版でリバイバル上映。

 とりあえず大スクリーンで見られる貴重な機会と言うことで、普通に見ててもエグいくらい楽しいんだけど、カーチェイスからアクションから漫画映画的小ネタギャグかまで、MX4Dの物理演出が入るのも楽しい。塔の屋根からのずり落ちから次元のプロレス技まで反応。
 久々に大スクリーンで見て、「ああ、やっぱり映画館で見なきゃいけない映画だ。」と思いましたですよ。地下水道に落とされて発見する日本人の遺体の上に書かれた文字ってビデオだと潰れてなんのこっちゃだけど、大スクリーンだとくっきりはっきり。時計台で潰れる伯爵も見えるよ!
 クラリス姫抱きしめない例のやーつ、あれ中年になってからの方がより味わい深いな!もういじり倒された古典なのに、大スクリーンで見続けてあのクライマックス。「愛しいからこそ抱きしめない、抱きしめてはいけない、」っておっさんになってからの方が響くんだ!

「牝猫たち」(白石和彌

牝猫たち [Blu-ray]

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 日活ロマンポルノが平成に復活したシリーズの1作にして「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督の新作。

 池袋をうろつく学生時代を過ごしたあたくしにドンピシャな白石和彌監督のロマンポルノリブート作。シリアスと笑い、優しさとバイオレンス、性と死を縦横無尽に横断する白石節。なんで音尾琢磨さんがキャスティングされてんのかと思ったらオチが。攫うなあ音尾さん。場内大爆笑。さすが。
 引きこもりやホームレスデリヘル嬢、シングルマザーに虐待される子供、妻に先立たれた老人、人妻嬢の孤独を掘り下げるなど、社会派な匂いを漂わせつつ、最後に「なーんちゃってーー!」ってひっくり返すちゃぶ台が音尾さんなのね。これに関しては「見事」と言うほか無いわ。あれは笑う。
 人間群像劇としても大変優秀で、その点、「エロシーンが入る以外何やってもいい」と言うロマンポルノの王道的な作品なのかも。ただ、白石監督はかっちりとした娯楽映画にしてるけど、大きくははみ出さない生真面目さも感じる。あと音尾さんはかつての竹中直人枠を狙える位置に来たなあ。

 このロマンポルノシリーズは、まだまだ続けて欲しいですね。(★★★★)

「沈黙 サイレンス」Silence(マーティン・スコセッシ

 なんちゅー精神的SM映画。舞台が無知な日本人が拷問を用いて棄教を強いるなんて時代からちょっと経た長崎で、S側のイッセー尾形演じる奉行と浅野忠信演じる通詞も、M側アンドリュー・ガーフィールド演じる神父が長崎に来たことにうんざりしているのが面白い。
 奉行や通詞は一度棄教させた経験があって、どうすれば神父が棄教するか、その心理手に取るように把握している。だからSMの力の強弱の加減まで完成されていて、アンドリュー・ガーフィールドごとき若い神父をどのように落とせるか、段取りまで完璧という恐ろしさ。勝てない。
 弱さや業の肯定という意味では落語に近く、窪塚洋介演じるチキン系信者キチジローの存在が布石となって効いてくる。意識高い系神父は最初キチジローを愛せない。だが、自らの無力、神の沈黙を通して彼の中に「神の声」を知り、キチジローに対して愛を持てるようになっていく。
 表向き信仰を捨てたとして、それが果たして信仰を捨てたことになるのか。神父としての栄光を捨てることでアンドリュー・ガーフィールドはよりキリスト教の主の「真理」へと近づいていく、と言う皮肉な展開は、なるほどキリスト教圏で物議を醸すはずだわ。深すぎる問いだ。
 見て思ってたのは、世界のありようの発見ではなく、再確認だった。なので見てる時は「ひゃー!」とか「うわー!」とか声に出してたんだけど、割と見終わった後は淡々とした感じで劇場を出てきた。この感じが不思議だった。そこがこの映画の奇妙さであると感じる。

 (★★★★)

LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門」(小池健

 テレビシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』、2014年の映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の流れをくむスピンオフシリーズ「Lupin the Thirdシリーズ」の第3弾。

 五ェ門が元軍人の男に完膚なきまでの敗北を喫し、そこから再び立ち上がり更なる強さの境地へと至る事でリベンジを果たす復活劇。五ェ門という最強の男を挫く敵役・ホークのターミネーターもかくやの最強ぶりの描写が見事。暴力描写も容赦ない。
 小池ルパンの前作「次元大介の墓標」から地続きとなる話のようだけど、そっちを見てなくてもあまり問題ない。ルパン一味も銭形も登場するけど、五ェ門とホークのレベルがハイレベルすぎて傍観者にならざるを得ないのだが、その立ち回り方が五ェ門の琴線に触れるってのは面白い。

 (★★★★)

「未来を花束にして」Suffragette(サラ・ガヴロン)

未来を花束にして [DVD]

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 女性参政権を巡る女性たちの闘いを描いた映画。いやー「花束を」なんて邦題ついてるけど、そんなヤワなもんじゃねーな。本当に捨て身。思った以上に活動が過激なんだけど、そうならざるを得ないほど出てくる男たちがクソで、差別社会の地獄を生きるヒロインのサバイバルなのだ。
 ヒロインのモードの夫にしても敵対する警部にしても当時としては善良なる「普通」の男たちだ。彼らは差別者ではない。だが次第に参政権運動に関わるようになるヒロインを恐れ、または無法を行う女のように扱う。今の当たり前を求める事が昔はそうではなかった。ツライ話だ。
 虐げられた人々が声を上げると社会は驚くほど冷淡になる。それは今の社会もまさにそう。「普通」の人々が彼女たちの敵に回る。当たり前を求める果てなき闘争。その末に未来は、世界は少しずつ変わっていく。そこに人間の希望がある。その事を描いた映画である。それ大事。
 なんか女性映画として売られてるけど、男が見て損はない映画だ。強く生きる闘う女性を見るの大好きな人は見るといいと思う。お勉強だけでは理解できない「差別社会」の砂の味を体感できるし、政治運動の大事さを実感できる。つか「この世界の片隅に」だってこんな世界なんだぜ?
 本作を見てるとこういう歴史を経て我々の「権利」は勝ち取られてきたと言う事がわかるし、社会的強者と言うのは、油断すると弱者から尊厳から何から取れるものはすべて剥ぎ取っていく事を知る事が出来る。映画に教えられる事は本当に多いぜ。

 (★★★★)

「サバイバル・ファミリー」(矢口史靖

 いやー素晴らしい。電気が全て消えた世界という設定を徹底的にシミュレートしつつ、一家族が生き残りを賭けて日本を迷走する中で、家族の絆と生きる力を獲得し始めるまでを丁寧に描いてる。ワンアイデアもここまで突き詰めるとゾンビものより怖いホラーにも喜劇にもなる。
 電気のない世界に放り出された世界では人間は時にゾンビより怖いけれど、だからこそ生まれる感情の爆発や肉体の躍動、人間の本来あるべき情が溢れ出る。それを丁寧に段階を追ってきちんと描くことで、限りなく説得力を持たせる矢口史靖監督の手腕、ここに極まる。見事。
 しかも今回は非常に普遍的な物語なので、うまくすれば韓国や中国などのアジア諸国はおろか、欧米でもでリメイクが可能。昨今の日本映画らしからぬ、ドメスティックに陥らない映画力溢れる作品なので、本当に素晴らしい。これは矢口監督、やったな。大ホームランだと思う。
 とりあえず3.11後の映画としては決定版と言えるかもしれない。未曾有の状況で人間の力が呼びさまれると言うのは、阪本順治監督の大傑作「顔」に近い。と言っても、小日向さんは普通のサラリーマンでいきなり器用になるわけもなく、劇的に変わるのはむしろ子供達の方。

 リアルにシミュレートしつつ娯楽映画の強靭さを失わない、矢口史靖監督の映画力は韓国映画にだって負けはしないと思う。傑作。大好き。(★★★★★)

「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(小林聖太郎

破門 ふたりのヤクビョーガミ [DVD]

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 黒川博行氏の「疫病神」シリーズの第5作「破門」の映画化。

 面白かった。この映画、全然話題になっとらんけど何でや。キャストも適切だし演出もいい。主演の佐々木蔵之介横山裕に華がないくらいで映画は面白かった。こういうちゃんとした日本映画に客入らないのおかしい。だから日本映画は斜陽になる。橋爪功まだまだ巧い。
 横山裕に華がないと書いたけどけなしてるんじゃない。この映画に関してはそこがいい。この華のなさが異様にリアル。佐々木蔵之介と比べても月とスッポンのスッポンの方に見えるが、だからこそクライマックスにすごく共感できる。その意味でもこの映画侮れない。
 この映画、脇も異様に豪華で國村隼キムラ緑子北川景子、木下ほうかに宇崎竜童と錚々たる面々が脇を固めてタイプキャストな演技を披露してる。ポイントポイント抑えた配役で安心して話が追える。正直「ナイスガイズ!」と比べても遜色ないと思うんだけどなあ。
 加えて橋爪功だよ。出資金を集めて高飛びした食えねえ映画プロデュサー役なんだけどやっぱり巧い。ヤクザを向こうに回して殴られるわ箸刺されるわす巻にされるわ結構ひどい目に遭うんだけど、それでもめげない諦めない、そして憎めない。それを飄々とこなす。流石。

(★★★★)

ラ・ラ・ランド」La La Land(デミアン・チャゼル)

 くっそ!くっそ!クライマックスで大いに泣いてしまった。あかんわあんなん。思い出しても泣く。ダメダメ、こんなの。泣くに決まってんだから。ツボに完全にハマってしまった。
 正直言うと序盤はそこまで乗れてなかったんですよね。オープニングなんかは演出がテクニカルすぎて若干引きながら見てた。でも、あの夕焼けのダンス辺りから次第に引き込まれて、ふたりの恋と夢の道程を見つめつつあのクライマックス。もうね。ダメな。あーもう。してやられた。

 毀誉褒貶いろいろ言われる映画ですけど、僕は肯定派ですね。あのクライマックスは、なぜこの映画が「ミュージカル」だったのかを明確に示していて、とにかく心を撃ち抜かれてしまった。大好き。なのです。(★★★★)

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」Free State of Jones(ゲイリー・ロス

ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]

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 南北戦争時代、アメリカに奴隷解放宣言よりも早く、白人と黒人が平等に暮らせる「ジョーンズ自由州」を築いた男・ニュートン・ナイトの、黒人差別との果てなき戦いを描いた歴史大作。

 この非寛容が進む時代にあって、黒人奴隷と脱走兵を率い、アメリカの自由と平等を信じて果てなき戦いを続けた反骨の白人男性・ニュートン・ナイトの生涯を描いたこの映画は、まさしく今見られるべき映画だろう。このマコノヒーに痺れないならその人の魂は死んでる。
 ゲイリー・ロスは85年後、ニュートン・ナイトの孫である男性が直面した、ある裁判を物語に絡ませる。そして、その裁判は、ニュートン・ナイトの戦いは終わっていない事を浮かび上がらせる。その作劇は、今、アメリカで起こっていることと奇しくもつながっていく。凄い。


 この映画は非常に素晴らしい傑作だと思っていますし、いま、アメリカで進行している事態に通じる映画であると感じています。そんな私が、2回目を見に来た時に製作者の方のティーチインにたまたま遭遇したのでした。

 2回目。プロデューサーのブルース・ナックバーさんのティーチインあり。やっぱり傑作。構想から完成まで11年。最初はゲイリー・ロス監督と別に企画を進めていたけど、監督から合同でやろうと持ちかけられてこの映画に繋がったとの事。ちなみにナックバーさん、日本在住。
 ニュートン・ナイトはアメリカでも存在はあまり知られておらず、マシュー・マコノヒーも関わるようになるまで知らなかったそう。マコノヘは演技に集中するタイプでなかなか役が抜けない。周りの役者と無駄話もせず、監督と演技を詰める話ばかりしていたとの事。


 実際の写真とマコノヘ比較。目力の強さが激似。

 ニュートン・ナイトになりきったマシュー・マコノヒーの演技も大変素晴らしく、差別の根深さと世代を超えた戦いを描いていく構成が見事な傑作と思います。大好き。(★★★★★)

男の魂に火をつけろ!のオールタイム映画ベストテンに参加します。


2017-10-31

ワッシュさんの「オールタイム映画ベスト10」に参加します。




オールタイムベスト10

1位:「ショーシャンクの空に」(1994年 フランク・ダラボン監督)
2位:「ボーン・スプレマシー」(2004年 ポール・グリーングラス監督)
3位:「大誘拐 RAINBOW KIDS」(1991年 岡本喜八監督)
4位:「12人の優しい日本人」(1991年 中原俊監督)
5位:「鴛鴦歌合戦」(1939年 マキノ正博監督)
6位:「千年女優」(2001年 今敏監督)
7位:「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!」(1992年 ニック・パーク監督)
8位:「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年 K.S. ラヴィクマール監督)
9位:「魔女の宅急便」(1989年 宮崎駿監督)
10位:「ピカドン」(1978年 木下蓮三/木下小夜子)




1位:「ショーシャンクの空に

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3位:「大誘拐 RAINBOW KIDS」

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4位:「12人の優しい日本人

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5位:「鴛鴦歌合戦」

7位:「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!」


ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! [DVD]

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8位:「ムトゥ 踊るマハラジャ

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9位:「魔女の宅急便」(1989年 宮崎駿監督)

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10位:「ピカドン」(1978年 木下蓮三/木下小夜子)

ピカドン PICADON

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「新感染/ファイナル・エクスプレス」「ソウル・ステーション/パンデミック」「我は神なり」

toshi202017-10-27




監督:ヨン・サンホ

 「固い信念なんてものは、かえって信用がおけんね。だいたい戦争なんてものは固い信念を持ったもの同士が起こすんだからね」
 田中芳樹銀河英雄伝説」より


 韓国のアニメーション監督、ヨン・サンホ監督の作品が、実写とアニメーション合わせてここ2ヶ月で3本公開されて、それを見た。
 「新感染 ファイナル・エクスプレス」「ソウルステーション/パンデミック」「我は神なり」の3本である。

 一言で言って、全て面白い。でも面白さの質、というか、描こうとしているもの、楽しませようとしているものが違う。作品ごとに、描こうとしているものが違うし、それぞれにきちんと独自の突出した個性があるのが、何と言っても驚異的なのである。


 その中でも、映画ファンの圧倒的熱狂をさらったのが今年9月に公開された「新感染/ファイナル・エクスプレス」である。

「新感染/ファイナル・エクスプレス」の圧倒的娯楽性に隠された人間描写の確かさ


 「新感染」はジャンルとしてはゾンビ映画に属する。

 舞台は韓国随一の高速鉄道KTXである。ソウル発の高速鉄道に乗り込んだ、ファンドマネージャーである父親とその娘が、釜山に向かう列車内で、人々がゾンビになっていく感染する災禍に遭遇し、非常に限られた列車内でのサバイバルを余儀なくされる物語である。
 

 何と言っても「新感染」に関しては、私が今年一番涙を絞らされた作品という事もあるんだが、自分がなぜこんなにも翻弄されたかと言えば、一言で言って出てくる登場人物に対する、なんとも言えず「ドライ」な人間観に尽きるのである。


 普通「泣かせ」というと、人はつい「ウェット」に描かないと見ている人間は泣かない、と思いがちだけど、実はそうじゃないんだ、とこの映画は教えてくれる。人というものは追い詰められると「身勝手」で「非情」で「どうしようもない生き物」であるか、という哀しい「事実」をきちんと描けるかではないか、と思うのである。
 追い詰められると人は「自分だけが生き残りたい」と願う。他人を蹴落としてでも自分だけは助かりたい。目の前に広がるどうしようもなく広がる地獄がいきなり訪れたら、実は誰しもがそう考えてしまう。それはどうしよもない「生存本能」ではないかと思うのだ。その本能と情の間で、たやすく人は「本能」を選んでしまう。
 この映画はそんな人間の醜さを余すところなく描き出している。


 そもそも、である。コン・ユ演じる主人公の父親・ソグにしたってが、決して心優しい父親からは程遠く、妻との別居を娘と向き合わざるを得ず、しかし彼女に対してどう接していいかわからない、なんともダメな父親で、自分が彼女に以前何を誕生日プレゼントしたかも忘れて同じものをあげちゃうくらい、ダメなのである。

 そんな父親が釜山行きの列車内で災禍に出会ったときどうしたか、と言えば、やっぱり他の人間と変わることはなく、彼はとりあえず、自分だけが助かる方法だけを考える。自分さえ助かれば周りの人間はどうでもよく、彼はファンドマネージャーとしてのコネをフル活用して、てめえだけが生き残る術を探す。
 その姿を娘はつぶさに見ているのである。



 しかし、彼はあることをきっかけにして娘や他人の為に生き残ろうと決意するのであるが、それは娘からの泣きながらの叱咤を聞いた時からである。自分ひとりでは自分の姿はわからない。ましてや自分を「まとも」で「普通」で「善良」と信じて疑わない人ほど、そんな自分の醜さを認めることは出来ないものなのである。彼が自分の「醜さ」と真摯に対峙したときに初めて、彼は「まとも」な主人公として映画の中で動き始めるのである。彼はこの絶望的状況で出会った数少ない乗客、ワーキング・クラスのサンファ(マ・ドンソク)、彼の妊娠中の妻・ソンギョン(チョン・ユミ)ら数人とともに、娘を救うために闘い始める。

 だからこそ、我々観客はこの父親に心から共感し、「生きて欲しい」と願い、彼の闘いの果てのある決断に、涙が止まらなくなるのである。

「ソウル・ステーション/パンデミック」でより深まる、哀しい人間と非情な社会への眼差し


 さて。その前日譚となる映画がヨン・サンホ監督の3作目の長編アニメーション作品「ソウル・ステーション/パンデミック」である。


 この映画の特徴的な点は、人がゾンビ化する災禍に出会った登場人物たちが「新感染」よりも社会的に下層の人たちばかりであるという点である。「新感染」は高速鉄道という割とお高めな移動手段を使える人々であるが、「ソウル・ステーション」に出てくる人々は、そんな移動手段を簡単には使えない、くらいの人たちが多い。そもそも最初の犠牲者はホームレスなのである。
 この映画のヒロインだって、10代で家出した元・風俗嬢で、借金を背負わされて逃げ出し、行き場をなくして彼氏の部屋に厄介になってはいるが、彼氏はネットで彼女に売春させようと持ちかけてくる甲斐性なしで、経済的に部屋代も滞納し続けている状態で大変困窮している。

 相も変わらず彼女に体を売らせようとする彼氏に愛想つかしたヒロインが部屋を飛び出して、街をさまよっていたところ、彼女はゾンビ禍に遭遇する訳であるが。その頃、ネットで売春を呼びかける写真を見た彼女の父親が彼女を探しにやってくる。
 ゾンビに追われ続けながら、彼女が思うこと。それは「家に帰りたい」と思うことだった。彼女は父親と再会し、「家」へとたどり着けるのか。

 この映画に関して言えば娯楽要素よりも、一度落ちたらなかなか這い上がれない、人間社会の格差。その分厚くて非情な壁を、下層に「落ちてしまった人々」の目線で描き出しており、ゾンビ事件も登場人物たちにとって十分脅威なのだが、それ以上に下層の人々を切り捨てる「人間社会」の怖さの方がより空恐ろしく、なんとも腹にズンと重くのしかかる。
 格差社会というものがどういうものか、それをゾンビ禍の中で逃げ惑うヒロインを通して浮き彫りにしていくという離れ業をやっており、娯楽性の高い「新感染」に比べると、作家性がより色濃い作品になっている。


「我は神なり」が描き出す、「神なき世界」に置ける「信仰」の意味。

 「新感染」「ソウル・ステーション」が2016年に韓国公開された映画であるが、アニメ監督として2013年に発表したのが本作「我は神なり」である。
 この映画の彼の目線は、前の2作よりもさらに辛辣に人間社会を見据えている。ヨン・サンホ監督は、哀しく弱い人間という生き物の「業」を「信仰」を通じて描こうとする。


 舞台はダム建設によって沈むことが決定している韓国のとある村である。

そこへやってくるのが宗教を看板にして、村人たちに支払われる補償金を分捕ることが目的の詐欺グループであり、彼らはカリスマ性ある牧師・リンを通じて寄る辺なき村人たちの心を掴んで今まさに食い物にしようとしていた。
 一方その頃、村に一人の男が帰ってきていた。ソウルの大学に合格した娘の進学資金を、一夜にしてギャンブルで使い果たして悪びれもしないその男・ミンチョルは、村の人々からは厄介者あつかいされていたが、彼はその独自の嗅覚で、詐欺師の存在と彼らが行おうとしている犯罪にいち早く気づき、それを止めるべく動き出す。



 「神に見捨てられた村」の村人たちの心を癒そうと「やさしい嘘」を語る牧師・リンは村人たちから心酔されており、神をも恐れず村人たちが信じる宗教を「詐欺師」と触れ回るミンチョルは村人から「悪魔に憑かれている」と白眼視され始め、周りは彼を遠ざけ始める。一方詐欺師グループも、ミンチョルを排除しようと動き始める。


 詐欺師たちの語る「心癒される嘘」か、神をも恐れぬ男の「絶望的な真実」か。あなたならどちらを選ぶ?
 この強烈な問いは、観客に簡単に答えを出させない。


 この映画がすごいのは、決してどちらかを善、どちらかを悪と規定しない事である。詐欺師グループが開いた宗教が、村人たちに与える「効能」を映画はしっかりと描き出し、神なき世界を見据えるミンチョルもまた、心が離れていく娘への執着を捨てきれぬ。誰もが人は、何かにすがらねば生きてはいけぬ。それは決して例外はない。そんな人間の「業」を見据えているのである。

 自分が犯した悪行がきっかけで、詐欺師たちの宗教が語る「優しい嘘」に心を取り込まれていく娘を、ミンチョルは必死に押しとどめようとする。だが、彼女からその嘘を奪って、さて、離れた彼女の心は戻るのであろうか。
 詐欺師の片棒を担いでいると自覚しながらも村人たちに「癒し」を与え続けるリン。だが、彼もまた、心にある「執着」を抱え、苦しんでいる。誰が正しくて、誰が悪いのか。


 この映画はそんな善悪定かならぬ物語に、いちおうの決着をつける。その結末をあなたはどう感じるのか。是非、一度御覧いただきたい。人という生き物の不完全さを見据えた傑作である。 

ヨン・サンホ監督作品を通して鑑賞することで見えてきたもの。


 ヨン・サンホ監督の眼差しは徹頭徹尾「神が不在の世界で生きる人間」を見据えている。それはゾンビという題材であろうとそうでなかろうと変わらない。この映画に英雄はいない。ただ人間がいるだけだ。
映画の主人公だろうとそうでなかろうと、人はどこまでも愚かで救いがたい、不完全な生き物だ。
しかし、だからこそ。人は追い詰められた時、何を選び取るかによって、その人の価値は測られるのではないか。


 さて。


 ここからは「新感染」の話になる。
 やや、ネタバレなので見てない方は、見てから読んでください。







 実は「新感染」を見終えた時、ひとりの登場人物のことが頭から離れなかった。それはバス会社で常務を務める乗客の男性である。


 彼は本作においてはゾンビ以上の悪役的な立ち位置として物語を牽引し、その行動は多くの観客をイラつかせ、または激怒させるに十分であった。
 Twitterでは彼への怨嗟の声渦巻き、「もっと惨たらしく死ねばいい」という声もあった。

 しかし、この映画の終盤、彼が放った台詞は、私の心にある逆転を起こした。


 そうか、そうだったのか、と。


 彼はただ怖かったのだ。そして、どうしても生き残りたかったのだ。ただ、それだけだったのだ。


 確かに彼は主人公のように「他者のために闘う」道を選び取る事が出来なかった。あまつさえ、多くの犠牲の果てに生き残ろうとした。普通に考えて、許される事ではない。


 しかし、だ。
 我々は果たして彼を責められるのだろうか。いきなり地獄のような状況に叩き込まれ、わけも分からず命の危険に晒されて、怖い、死ぬほど怖い、それでも生きたい、死ぬわけにはいかない。ただそう願った、そんな一市民である彼を。
 観客は忘れているが、彼もまたこの災厄に巻き込まれた「被害者」でもあるのだ。

 彼は一言で言えば「主人公の影」である。もしも同じ列車に娘がいなかったなら。または、涙をこぼしながら彼に言葉を投げかけなかったら。主人公はどういう決断をしたろうか。他者を押しのけてでも、自分だけ助かろうとしたのではないだろうか。

 そして胸に手を当てて考えてみて欲しい。
 私たちは同じ状況に陥った時、このバス会社常務氏と同じ事をしないと胸を張って言えるだろうか。


 そう考えると「新感染」という映画はより、空恐ろしい映画に見えてくる。ヨン・サンホが見据えてる世界は、善も悪もない。絶望と希望が紙一重の、神なき世界の「ニンゲン」たちのどうしょうもない蠢きを描き続けているのである。
善に見えるものも、悪に見えるものも、実は等しく同じ人間であり、彼らが選び取った方法で人物の「いい悪い」を区別してるに過ぎなかったのだ。「こんなこと」さえなければ、彼らは「ごくごく普通の一般市民」だった。つまりこれはこの映画に出てくる誰も彼もが、我々の「可能性」だったのだ。


  私に言えることは、「神のいないこの世界でゾンビに襲われた時、せめて人間らしい決断を選び取れるよう、心して生きたいものだ。」という事だけである。
ヨン・サンホ監督の映画は観客にすら刃の切っ先を向けて試してくるのだ。



「あなたならどうする?」と。

「トンネル/闇に鎖された男」

toshi202017-05-18

原題:터널/Tunnel
監督・ 脚本:キム・ソンフン

「さあ救え・・・!(中略)救うんだ・・・!ゴミども・・・!」

福本伸行カイジ」より)

賭博黙示録 カイジ 5

賭博黙示録 カイジ 5


 人生に理不尽というのは当然起こることがある。


 ただ、その理由は二つある。自分に責任がある場合と、ない場合である。


 この映画の主人公、イ・ジョンス(ハ・ジョンウ)は圧倒的に後者である。なぜならば、たまたまその日、地元の日常でよく使うトンネルを通ったというだけのことだからだ。
 トンネルに入る直前に立ち寄ったガソリン・スタンドでもたもたしている爺さんにイライラしつつ、お詫びに差し出されたペットボトル2本。そして、偶然車に積んでいた娘への誕生日ケーキ。車の営業マンとしての契約も取り付け、意気揚々と車を走らせるジョンス氏はハド・トンネルへと差し掛かる。交通量が少ないそのトンネルをすすんでカーブを抜けた辺りで突如轟音が鳴り響く。そして信じられない光景が展開していく。トンネルが天井から崩れてジョンス氏に迫っていたのである。

 気がつくとジョンス氏はがれきに埋もれた車内にいた。なんとか生きているものの完全に立ち往生となったジョンス氏はかすかに拾えるトンネル内のアンテナから119番する。救助隊が到着するとソウル側からの出口は完全に崩落。南側からの出口だけが完全な崩落を免れていた事が、ジョンス氏の命を支えていた。


 トンネル崩落のニュースは瞬く間に韓国国内に広がり、国を挙げての救出が始まる。現場にはジョンス氏の妻・セヒョン(ペ・ドゥナ)も駆けつけ、現場を手伝いながら事態を見守る。その救助隊の隊長・キム・デギョン(オ・ダルス)は韓国一の救助隊を自負し、ジョンス氏救出のために動き出す。だが、予想外の事態が頻発する現場は、やがて様々な困難に直面することになる。
 ジョンス氏、そしてキム隊長はひとつひとつその困難に向かっていくが・・・、やがて彼らに試練が訪れる。



極限下のサバイバルと予想を越えて困難な救出


 この映画の前半部はジョンス氏のサバイバルと、救助隊やセヒョンの苦闘に光が当てられる。


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そのテロルは生きている。「テロ,ライブ」 - 虚馬ダイアリー



このくだりのジョンス氏を演じるハ・ジョンウの非常に場持ちする演技は見事であり、また、国民的バイプレイヤーとして不動の人気を誇るオ・ダルスの非常に人間味あふれる演技は、映画を牽引する大きな力となっている。そして、ジョンス氏の生還を祈る健気な妻が韓国が誇る至宝・ペドゥナである。まさに最強の布陣である。


 ジョンス氏が遭遇した事態はただただ、理不尽である。そしてキム・デギョン隊長を初めとした救助隊の面々はある種、国の「尻ぬぐい」をしている状況である。
 なぜならば、事態が動いていく中で明らかになるのは、そもそもの原因がバドトンネルの「手抜き工事」であったこと、そして、バドトンネルの近くで、国が主導するニュータウンをつなぐ第2トンネル建設が重なった事であった。
 つまり、国が本来の仕事をきちんとしていれば起こりえない、複合的な事故である。ジョンス氏に死を呼び寄せる原因は国であり、社会である。



 その尻ぬぐいを一手に引き受けるキム隊長と救助隊は、ジョンス氏救助まであと一歩のところまでたどり着く。・・・はずだった。ところが、思わぬ原因でその作業が無駄だったと発覚する。
 絶望するジョンス氏。電源が落ちる、唯一の連絡手段であるスマホ。辛酸をなめるキム隊長。悲嘆にくれるセヒョン。


 そこから終盤にかけて、この映画は視点を大きく広げる。


 一人の男が崩落事故で孤独に耐えながらサバイブする事故を巡る社会という「人間」のうねりを描くドラマになっていくのだ





(以下終盤の展開に触れていきます。)

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「人魚姫」

toshi202017-01-08

原題:美人魚
監督・脚本:チャウ・シンチー


 大晦日も仕事して、元旦の朝帰ってみれば、すぐに体調を崩し、三が日はひたすら布団から出られず、テレビを見て過ごすという、のっけから最悪のスタートを切った私。
 ようやく体調が戻って初めての休日。2017年最初に見る事に決めた映画。それは「少林サッカー」でおなじみ、今や香港喜劇界のヒットメーカーにしてトップランナーチャウ・シンチー監督の新作でありました。


 公開直後、上映が都内で1館のみというこの扱いもさることながら、スケジュールが日に2回しか上映しないという、人気監督にあるまじき扱いを受け、当然のことながら、私が早めに上映されるシネマート新宿に行ってみれば、すでに立ち見まで埋まり、満席という大盛況。ロビーには人がごった返し、明らかなキャパオーバー。私はネットで前日にチケット予約してたので座れたものの、当日だったら危なかった。改めてその根強い人気を裏付ける結果となったわけですが、さて、映画はというと。



 これが!これが!もう最高!さすが、香港喜劇王の面目躍如。


 それもそのはず。なにせ、全世界で興行収入600億円以上という「君の名は。」どころか、「千と千尋の神隠し」のほぼ倍を稼ぎ出した超メガヒット作である。
 それにも関わらずである。日本映画界はこの映画をこんな小規模公開してるとは一体、何を考えているのか。バッカじゃねえーの!としか言いようが無い。まさに「ありえねえーー!」でありますよ。


 若き実業家・リウ(ダン・チャオ)は香港の自然保護区域を買収し、そこに一大リゾートを計画する。貧乏な生まれから脱し、無学ながらも一代で財を為したリウに近づいてくるのは、彼の財力を目的にしてくるものだけだった。
 そんなリウにひとりの女性がある目的を持って近づいてくる。彼女の名はシャンシャン(リン・ユン)という。奇妙な歩き方をするこの娘。実は、リウを暗殺するために近づいてきた刺客。リウが買収した自然保護区域に住み、彼が財を為した海洋探査の為の「ソナー」に苦しめられてきた「人の上半身と魚の下半身」を持った一族。
 そう、シャンシャンは「人魚」なのであった。だが、二人はやがて惹かれ会い恋に落ちていく。そして、リウに惚れていたビジネスパートナーだったルオラン(キティー・チャン)は、嫉妬に狂い、人魚族殲滅のために動き出してしまう。



 「どんな美人も初登場はブサイクに描く」お約束から、好きな作品の引用を恥ずかしげも無くぶち込み、個性的というにはあまりにアクが強すぎるキャラクターたち(特にショウ・ルオ演じる蛸の下半身を持つ「タコ兄」は面白すぎる)、そして提供される笑いはあまりに濃ゆい。コッテコテなギャグ、ベッタベタな笑いのつるべ打ち。
 だが、世界設定は驚くほど酷薄。人間と人魚たちの闘いの描かれ方は、あまりにも壮絶かつ暴力的で、一瞬「ウッ」となるほど。前作「西遊記 はじまりのはじまり」で見せつけた暴力性はチャウ・シンチーの中で健在なのであるが、しかし、そこを王道の「許されざる恋」というラブストーリーという柱をドンと乗せることによって、環境問題を取り上げた社会派的作品とも違う、酷薄なる世界を「愛」が救う!という、堂々たる王道を往く。
 このベタな笑いを恐れず、人の中にある暴力性を描くことを恐れず、環境問題をストーリーに絡ませつつも社会派作品になることを軽やかに避けながら、「愛」の尊さを恥ずかしげもなく歌い上げる!まさに、娯楽と喜劇というジャンルのど真ん中を突き進む!チャウ・シンチーのブレない直球ど真ん中っぷりは、本作でいよいよ極まっていると言っていい。


 これほどのヒットメーカーになりながら、決して自分を見失わないチャウ・シンチーの威風堂々たる娯楽作家ぶりは、まさに見事という他はない。自らの作家性を極めつつ、更なる覇道を突き進む!
 新年一発目の映画に選んで大正解!悪かった体調が嘘のように回復しはじめたのは、この映画の本気っぷりに当てられたに相違ない。まさに、我らが「星爺」快心の大傑作であります。(★★★★★)

 

侵略!イカ娘 1 (少年チャンピオン・コミックス)

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